第9話 時間操作


 黒川が踏み込むと同時に僕の動きが遅くなる。


 僕はゆっくりと目を瞑り、黒川の目の情報を共有する。僕の才能は『情報の共有』で、他人の目を共有するぐらいなら簡単だ。


 僕と黒川の見てる時間の流れが違う。


 黒川の目に映る僕は目を閉じていて、無防備な状態を晒している。


 そんな中でも黒川は時間に逆らってスイスイと僕に歩み寄る。


 そして黒川は右手を振りかぶり、僕の顔面に目掛けて思い切りのいいストレートを躊躇い無くかましてきた。


 コイツに情はないのか?


 時間が戻った後に来るだろう痛みに身震いする。


 僕は僕の顔を通して黒川の能力をパク……共有することにした。


 共有する才能のレベルをレベル4の解放段階まで引き上げる。


開発限解放スキルアジャスト



 僕は目を開ける。


 いってぇ! コイツガチで殴りやがった。


 特待生のコイツの実力はレベル1の開発段階ではないだろう。


 いや、もしかしたらレベル3の限界者の域まで至ってるのかもしれない。


 だがレベル4の解放者までは及ばないだろう。


 共有して得た時間を操作する才能『時間操作タイムオペレーション』はレアスキル。



「僕の時間についてこれるか? イケメン」



 黒川がゆっくりと目を見開く姿を横目に、肩をポンポンと叩く。


 一発は一発だ。


 そして僕は右手を振りかぶり、思いっきり黒川の顔面にストレートをかまして、その場を走り去った。





 バタッと黒川が倒れるのを後ろで聞きながら、僕はすぐ後ろの木の影に隠れる。


 才能をフルに使って、遠くに逃げるとか無理ですし、走るのも疲れる。


 あんだけカッコよく去って、すぐ近くにいるとは思わないよな。


 ぐったりとしながら死んだ様に目の前の花の花びらを数える作業を始める。


 無理矢理に才能をレベルを引き上げる力はそう何度も使えない。


 凄く疲れるからな。



「ねぇ青空君」


 声の聞こえる方向に振り返ると、そこには右の頬が少し腫れた黒川がいた。


 詰んだとはまさにこの事だろうか。



 その瞬間ピピーと大音量で終了の合図が鳴り響く。


 光に包まれると僕たちは体育館に移動していた。


 ぐったりしながら教師の話を聞き流す。


「それではテストを終わります。着替えて昼の休憩を挟んだら教室に戻るように」


 僕はフライング気味に体育館を出て、疲れる身体にムチを打ちながら高速で着替える。


 そして教室に戻って来た!




 教室で僕に声を掛けるほどイケメン君も暇ではないだろ。


 昼休憩なので僕はカバンを持って、コソコソと教室を出て行く。



 そして誰も来ないことを確認し、校舎裏に着くとカセットコンロを準備して、手持ちの鍋をカバンから取り出す。


 鍋に買ってきた液体と水筒の水を入れて一煮立ち。


 保冷のタッパーの具材をドバーッと入れる。


 そして保冷ケースに入れていた豚肉を準備して小皿にポン酢を入れる。



「学校で本格的な鍋してる奴、初めて見た」



 前にも似たような状況があったことを思い出して、恐る恐る顔を上げるとイケメンの黒川がいた。


「何しに来たの?」


 これで二回目だ。動揺はしない。


「私の分はあるの?」


 横を向くと赤星さんが鍋を見つめながら言っている。


 いつの間に!


 小皿からポン酢を零しそうになりながら僕は距離が異様に近い赤星さんにドギマギする。


 あげるとは一言も言ってない。


 僕は準備していた小皿を赤星さんに渡す。


「お前らいつの間にそんな仲になってんだ?」


 黒川まだいたの? 心の中で呟いておく。


「この前はココで焼肉食べさせてもらった」


「えっ? 学校で焼肉とかしてるのか」


 そんな事を言いながら黒川も僕の横に座って、パンの袋を開けた。


 なんで座んの?


「クラスで話題だったけど黒川の頬腫れてるよね。特待生が模擬戦で誰にやられたのよ」


「君の隣の人だよ」


「え?」


 変な間の空気が僕の周りを包んでいる。


「まぁ、日影君ならそれぐらいやりそう」


 赤星さんが僕の名前を呼んでくれた! 下の名前を覚えてくれたのか?


 可愛い子に名前を呼んでもらえるだけでテンション上がります。


「興味本位で近づいて、反撃されたのは初めてだったよ」


 僕は小皿に白菜とキノコを取り、その後に豚肉を鍋に入れる。


 そして白くなった豚肉を小皿に移して、豚肉に白菜とキノコを巻いて口に放る。


 美味い!


「ねぇ聞いてる?」


 赤星さんも食べるかもと思い、少し多めに持って来てて良かった。


 赤星さんは笑顔を僕に振り撒き、美味しいと言ってくれる。


「お〜い」


 黒川の声を無視し、赤星さんとの昼の食事を満喫した。



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