第8話 評価テスト


 僕は今、評価テストの真っ最中です。


 仮想空間の中で木がいっぱいある森ステージでクラスメイトと戦っています。



 僕は木の陰に隠れながら周りを見渡す。今は周りに誰も居ないみたいだ。


 一安心して、僕は目の前の花の花びらを数える作業にうつる。



 争いは何事においても技術を発展させる。


 この考えに人類が至ったのも納得だ。


 無駄な命のやり取りよりも、国絡みで小さな戦争を執り行い、その勝敗で優劣を決める。


 勝てばその国では融通がきくようになる。


 負ければ搾取される。



 人が単独で兵器になりえる。超能力がある社会は簡単に無能力な人間を駆逐した。


 この超能力という才能の発見で、低コストで高リターンが見込めると知るやいなや人類は争いの種を育んだ。



 爆発音が僕の周りで縦横無尽に鳴り響く。


 クラスメートは自分の才能を使って評価を上げるのに夢中なようだ。


 この実戦の授業で評価を得られないと空奏の魔術師にはなれない。


 殺さずに相手を動けなくすることが出来れば評価は上がっていく。


 だが僕の才能は戦闘向きじゃないし、相手を倒す事だけが戦争じゃない。生き延びても評価は得られる。


 だから僕は木の影に隠れて生存点の評価を貰う事に必死だ。


 僕はさらに影を薄くして花びらを数える作業に戻る。


 仲良くなったクラスメイトとバトルすると、どちらかは負ける。


 仲良しごっこだけじゃ評価は得られない。


 僕は仲良しごっことは無縁だが、頑張ってくださいと心の中で言っておく。



 花びらを数えることにも飽きてきて、木の影から周りの様子を伺うと、クラスで一番発言力がある陽キャラのイケメン君がクラスメイトたちから周りを囲まれていた。


「おい黒川! 悪いな」


 黒川と言われたイケメン君はサラッと明るく振舞っている。


「いつでも来い! お互い全力でやろうよ」


 イケメン、爽やか、そして人が良い。黒川サイコーだな。


 人気者とはこういう奴の事を言うんだろうな。


 黒川を囲んでいたクラスメイトたちが一斉に黒川へ襲いかかる。


 黒川は服を着る動作をやると、制服の色が変わり黒く染まる。


 その瞬間に黒川の姿がぶれる。すると周りの奴らの動きが遅くなる。


 世界が遅くなったかのようにゆっくりと。


 黒川はクラスメイトたちの隙間を縫うように移動する。



「君達の世界は俺には遅すぎる」



 世界が速さを取り戻し、囲んでいた奴らがバタバタと倒れる。


 何をしたのか分からなかったが、移動しただけじゃなかったみたいだ。


 イケメン強いな。


 時止め系の才能はレアだ。うわぁ初めて見た。


 僕は絡まれないように花びらを数える作業に戻る。


「ねぇ、こんな所で何してるの?」


 僕の後ろからお呼びがかかる。


 僕は咄嗟に距離を取り、声の主を確認する。


 黒川だ!


「なんでバレた!」


「君の事は前から気になっててね、一度手合わせをしてみたかったんだよ」


 おいおい、なに手合わせって? 僕はそんなに脳筋じゃないし、才能も戦闘向きじゃないんだ。


 僕は拳を構える。



「僕を本気にさせると後悔するぞ、今なら見逃してやる」



 黒川は僕の物言いに目を大きく開ける。


「……それは楽しみだ。じゃあ全力で行かせてもらうよ」



 僕はどうやって逃げるか考える事にした。



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