第7話 インビジブルボディ


 持ち物検査から二日経過した。


 僕の高校生活は試練の連続。大変です。


 能力のレベルを上げる力で乗り切ったといっても、その場しのぎでグッタリと死んだように力が抜ける。


 出来ることなら使いたくはない。


 僕は今、独自の能力開発プログラムが書かれた僕専用の映像教科書を見ている。


 視認許可されているのは教師だけ、他の生徒には見えないようになっている。


 この映像教科書は読んだ所の疑問点を教科書に書き込んでいくと、改善点や同系統能力の応用などが分かりやすく教科書に反映される。


 まぁ言うなれば『インビジブルボディ』のわかりやすい教科書というわけだ。



 僕は教科書を真面目に見る。そして疑問点を書いていく。



【道端の石ころになったみたいに息を潜める】


『するとどうなるのですか?』


【影が薄くなります】


 チェックマークを入れる。



【カメラに映りません】


『何でですか?』


【よく見て下さい実際には映っています】


 チェックマークを入れる。



【ドアをノックしても気づかれない時があります】


『生活に支障が出るので改善点を教えてください』


【諦めてください】



 何コレ。


 影が薄くなる能力が使えなさすぎてやばい。でも能力は使い方次第だ。


 僕は空欄に思った事を書く。



『極めたらどうなりますか?』



【影が薄くなります】



 すっと映像を閉じる。



 ふぅと深呼吸して、また映像を開く。


 独自開発プログラムとはこういう事だ。僕は似たような事を永遠と繰り返す。


 小学校の頃は真面目に取り組んでいたと思うが、自分の能力でも無いと分かった後は片手間にやっている。


 他の能力の事もそれとなく書き込めば教えてくれるしな。




 授業の終わりのチャイムが鳴り響き、昼ご飯だ。


 賑やかになっていく昼休み。


 今日は教室で食事をするのではなく、カバンを持って教室から出ていく。


 もちろんトイレでは食べないぞ。



 校舎の裏に行き、誰も来ない事を確かめる。


 別に悪い事をしようとしているわけではない。


 ご飯を食べに来ただけだ。


 カバンからカセットコンロを取り出し、火をつける。コンロの上に小さな鉄製の網をセットする。


 保冷ケースと皿を取り出して、皿の中にタレを垂らす。


 保冷ケースから綺麗な牛の肉を一枚取り出し、網の上に乗せる。


 ジューと軽快な音を立てる肉を見ながら肉から汗が出るまで待つ。汗が出たらひっくり返して、小さな保冷ケースをカバンから取り出し、そのケースの中に入っていた小ネギを焼いている肉に振りかける。


 小ネギを巻くように肉で包んで皿に移す。


 タレをたっぷりとつけて、口いっぱいに頬張……。


 頬張る瞬間、僕の目の前に、誰かが居たことが分かった。


「学校で本格的に焼肉食べようとしてる人、初めて見た」


 僕は名残惜しく頬張るのをやめて、目の前の清楚ギャル赤星さんの動向を探る。


「なんでここに?」


「少しアンタに興味が湧いてきてね」


 含みを持たせながら言う赤星さん。っていうか赤星さんが僕と目線を合わせるようにしゃがんでるからか、スカートの中が見えそうで見えない。


 相当な手練だ。


 スカートから出ている太ももに目線を取られている間に。


「いただきっ!」


 ガブッと僕の焼肉を赤星さんが頬張った。


 欲しいなら上げたのに。


 他人が口に含んだ物って衛生上どうなんだ? と赤星さんが一度口に含んだ箸を僕も口に含みながら思う。


 えっ? と少し引き気味な赤星さんを気にせずに、僕は保冷ケースから肉を取り出して、網の上に置いた。


 赤星さんは真正面から隣に腰を下ろし、持ってきていたのか弁当を広げた。


 綺麗に纏まった、こじんまりとしていて可愛らしい弁当。


「欲しい? 私のお手製の弁当だよ」


 僕が焼肉をしている横で赤星さんも弁当を食べ始めた。


 少し箸が進んだ所で。


「そうだ。焼肉のお返し」


 赤星さんは食べかけの卵焼きを綺麗に半分に割って、すっと僕に向けて差し出した。


 食べかけの物を人に渡すってどうな……。


 僕はノータイムで被りつく。


 うまい!


「やっぱあんた変だね」


 クスッと笑う赤星さんの顔は可愛くていい笑顔だった。僕は初めてボッチ飯を脱却したが。


 この一回で浮かれたりしないからな!


 お昼のご飯はいつも以上に美味しかった。


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