第9話

同じ大学であるという事実が安心感を生んだのか、彼女は緊張感をゆるめ口調も、若干くだけたものになってきた。

オレはあらかじめ仕入れておいた情報をもとに、彼女の趣味についてもいくらかは知識を仕入れておいたので、話題として趣味の話をふり、彼女はそれにのって会話はおおいにはずんだ。

夕方が近くなったので、彼女に言った。

「そろそろ帰らないと。遅くなると親御さんが心配するんじゃない?」

それを聞いた彼女の顔に、一瞬寂しそうな表情がうかんだ。

(これは、いけるかも)

そう思ったオレは、続けて言った。

「今日は、ありがとう。すごく楽しかったよ。よければこれからも、会ってもらえる?」

彼女は一瞬、きょとんとした顔をしたあと、ちょっとだけ顔を赤くして、ひとこと『はい』とこたえた。

オレは『これが連絡先』と、アパートの住所と電話番号を喫茶店の紙ナプキンに書いて彼女に渡した。

 

その翌日、オレはサトルに事の顛末を話した。

「やったな!お前、俺に感謝しろよ!!」

サトルが俺の背中をどやしつける。

「ああ。ほんとに感謝してる。こんど何か奢らないとな」


俺たちは、大学近くの喫茶店でデートを重ねた。

そして月日がたち、オレは無事に大学を卒業した。

社会人として働き始めて一ケ月ほどたった連休最終日、デートの途中で彼女が言った。

「あのね、ゆうべマ…母と兄さんに、あなたとのことを話したの。明日は何か予定があるの?って聞かれたから『彼氏とデートする』って答えたの。そしたら『お前に彼氏?うそをつくな』って言われて。だから、あなたとの出会いの話をしたんだけど『そんな偶然話、聞いたこと無いぞ』って二人とも笑うのよ、それも大爆笑。失礼しちゃうでしょう?そのうえ」

彼女は自分の口元を指さして続けた。

「今日だって、出かける準備をしてて口紅ひいてたら、兄さんが私のおでこに手を当てるのよ。『熱でも出たんじゃないのか?』ですって。失礼でしょ?」

 

彼女はぷりぷりと怒っていたが、オレが彼女の親か兄弟であっても、似たようなリアクションを取っただろうな。

「それでね?」

「うん?」

「母と兄さんが、うたがってるのよ。本当にあなたというボーイフレンドが実在するのかって」

「もしかして、空想上のボーイフレンドに会いに行ってると思われてる?」

彼女はこっくりとうなずく。

「そんなことなら、キミの名誉を回復させるために、お母さんとお兄さんに会いに行ってあげないとな」

「ほんとに?いいの?」

「もちろんだよ」

そして、彼女の家の都合とオレの仕事の都合をすりあわせ、最終週の水曜日の午後、彼女の家を訪問することにした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る