第8話
数日後、約束通りにオレは彼女と喫茶店で待ち合わせた。
白を基調とした店の前で待ち合わせて、一緒に店内に入った。
木目がきれいな壁側のテーブルに向かい合って座り、注文を聞きに来たウェイトレスにオレはコーヒーを、彼女は紅茶と『お礼だから遠慮なく』とオレが勧めたショートケーキを注文した。
注文の品が届き、オレはブラックで、彼女は角砂糖をひとつ紅茶に落として、スプーンでかき混ぜる。
それぞれひと口ずつ飲んだタイミングで、オレは切り出した。
「あの雨の日は、ありがとうございました」
そう言って傍らに置いたボディバッグから、ミニタオルを入れたビニール袋を取り出してテーブルにおいた。
「あのときのミニタオル、お返しします。おかげで、風邪をひかずにすみました。ほんと洗っただけで申し訳ない。ホントなら、新しいものを買ってお返しすべきだけど、どこに売ってあるのかわからなくて」
「そんなことないですよ。洗ってくださっただけで十分です。それに新しいのなんて、まだちゃんと使えるのに、もったいないし」
そう言って彼女はミニタオルをテーブルの上から取り、隣の椅子に置いたトートバッグの中に入れた。
「はい。たしかに返していただきました」
「それにしても、今年は初詣に行って正解だったな。こうやって、気になってたミニタオルをちゃんと返せて、お礼も言うことができた。神様に感謝しなくちゃな。と、そういえば、お名前はなんとおっしゃるのですか?教えていただいてもよろしければ、ですが」
我ながら白々しい。
だけど、そんな俺の思惑には気づいていない彼女はにっこり笑って、すでにオレが知っている名前を口にした。
「へえ、素敵なお名前ですね」
褒めた後、オレは自分の名前を名乗り、通っている大学名と現在4年生であることを告げた。
もちろん、サトルお墨付きの『好青年モード』全開のニッコリをつけるのも、忘れなかった。
俺が通う大学名を聞いた彼女は、もともとクリっとしていた目をさらに真ん丸に開き、両手を口に当てた。
そして、自分も同じ大学で1年生であることを口にした。
「ほんとに?雨の日にたまたまタオル貸してくれた人が、同じ大学に通ってるなんて。すごい偶然だなあ」
「こんな不思議な偶然ってお話の世界みたい。だけど本当にこんなことってあるんですね」
彼女は、偶然のオンパレードに若干興奮気味だ。
偶然じゃ、ないんだけどね。
続
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