第4話

励まされたのか焚きつけられたのか。

実際の行動は、いったいどうしたらいいのか、一向にわからないサトルの『アドバイスもどき』を受けたオレは、時間が許す限り、それとなく彼女の周辺をさぐることにした。

もちろん、あからさまに近くに寄って不審がられては、元も子もなくなる。

日にちと時間をかけて彼女の行動パターンを調べ、用心しつつ彼女の家の近くを”さりげなく”通ったりして、なにかしらの『声をかけるチャンス』が生まれるのを、じっと待った。

 

数ヶ月がたとうとしたある日、チャンスは突然訪れた。

それは秋になろうとしていたある木曜日のことだ。

バイト帰りのオレは、急な雨に降られた。

結構、強めの雨だったので、あわてて5メートルほど先にあるつぶれた本屋の、角を曲がった軒先に雨やどりのために飛び込んだ。

実を言うと、そこまで雨やどりの必要はなかった。

肩にかけたボディバッグの中には、折り畳み傘が入れてあったのだ。

だけど雨が強かったので、立ち止まって傘をひらく間に、きっとずぶぬれになってしまう。

そう考えた末、傘をひらく時間稼ぎのために、急場しのぎの雨やどりをしたのだ。

 

飛び込んだとたん、先客にぶつかってしまった。

「ごめっ!」と、謝罪の言葉が口をつく。

「いえ、大丈夫です」という、若そうな女性の声が聞こえた。

オレは、声の主を見て驚いた。

(あのコだ!!なんという偶然!!)

あまりに急なチャンスの訪れに、オレは一瞬頭の中が、真っ白になった。

「ほんと、スミマセン」

あらためて、謝罪するのが精いっぱいだった。

サトルが言うところの、オレの”爽やかスマイル”が、でていたかは微妙だ。

謝罪した後、傘を出そうとボディバックのファスナーに指をかけた時に、彼女が声をかけてきた。

「あの、よかったら、これお使いになりませんか?」

そう言って彼女は、肩にかけたトートバッグの中から、ハガキくらいの大きさのものを取り出しオレに差し出してきた。

はずみで受け取ってみると、それはミニタオルだった。

全面にスヌーピー柄がプリントしてある。

気がつかなかったが、さっき走った5メートルほどで、思った以上に濡れていたみたいだ。

「あまり大きくなくて、お役にたてないかもしれませんが。私は傘を持ってますので、どうぞお使いください」

そう言って、彼女はトートバッグの中から、折り畳み傘を取り出して広げ、軽く頭を下げて雨の中に消えていった。

傘は、スヌーピー柄ではなかった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る