第3話

そんな会話からしばらくたった初夏のある日、研究室にいたオレをサトルが訪ねてきて、一枚のメモを渡してきた。

「これ、なんだ?」

「あのときの、ちんちく、じゃなかった、おまえが気にしてたコの、データだよ」

「!ほんとに、わかったのか?」

「ああ。まあ、名前とおおよその住んでいるあたり。あとは趣味と、好きなものくらいだな。あと、喜べ。まだ彼氏というような相手はいないらしい」

「ほんとか?」

 

サトルから受け取ったメモを見る。

「好きなもの。スイーツ全般、パスタ、スヌーピー、少女マンガ、か。趣味は読書か」

「ちなみに学部は○○学部の一年生」

 「やっぱり、一年生だったんだな」

「想像してたとおりだったな。で、俺の手助けはここまで。あとはお前が自分で考えな」

「え、ちょっと待てよ。オレ、声のかけ方とか知らないし」

「ハタチ過ぎたオトコが、言うセリフかよ」

「いや。ほんとに、わかんないんだって。声をかけるどころか、かけられたこともないんだって。カノジョいない歴=年齢なんだって」

「それは、威張るところじゃないんだが」

そう言うと、サトルは腕組みをして、あごに手をあてた。

その格好のままで、しばらく考えてから言った。

「まあ、それでなくてもおまえは、普通にオンナノコに声かけるなんて、できなさそうだもんな。そうだな、偶然をねらうとか、まちぶせてみるとかってのは、どうだ?」

「それって、ストーカーじゃないか。そんなことしたら、気持ち悪がられるんじゃないか?」

「その時はそれ、お前の長所を利用するんだよ」

「オレの?長所?」

「そう。そのいかにも『好青年』な見た目を利用するんだよ」

 

確かにオレは、よく『好青年』という評価をもらう。

でもその評価たるや『まるで、青春ドラマに出てきそう』とか『さわやか』とかばかりだ。オレが欲しい『素敵』とか『カッコイイ』とか『イケメン』なんて称賛は、受けた試しがない。

いわゆる普通の、”人畜無害”というやつだろう。

そうサトルに言ってみた。

「そのほうが、いいんじゃないか?」と、サトルが返してきた。

「あのコの話聞いてると、どうも、おまえみたいな爽やか系のほうが、ウケがいいみたいだぞ。お前は、いつもにこにこしてるし、ものごしもやわらかいし。何より見た目がごつくない。まあ、ハンサムというわけでもないがな」

「そうかな。というか、全然褒められている気がしないんだが」

「そりゃ、そうだ。事実を言っているだけだからな」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る