第2話

学食を『こんなとこ』というのは、オレたちみたいに4年にもなると、授業数も減るし卒論で忙しくなるから、学食にいるよりも研究室にいたり、喫茶店で過ごすことのほうが多くなるからだ。

「まあ、パッと見、まだ1年だな」とサトル。

「なんで、そう即答できる?」とオレ。

「まだ初々しいし。なんといっても、一番美人なポニーテールの女性の名前を、俺が知らない」

「なるほど」

サトルは女好きというわけではないが、女性の、特に美人の情報を集めることにかけては、天才的と言っていいほどの能力の持ち主だ。

そんなサトルが『知らない』と言っているのだから、まだ入学したての1年生というのは本当だろう。

サトルは、見た目は特にハンサムというわけでもなく、頭脳も明晰というより中の上。

スポーツ万能でも、足が長かったり実家が金持ちだったりというわけでもない。

なのに不思議なくらいモテてたし、ガールフレンドも、知ってるだけで両手の指にせまるくらいは、いたはずだ。

けれど、ガールフレンドどうしでサトルをめぐって喧嘩してたという話は聞かない。

いったいどういう手品を使っているのか、いつも不思議に思う。

いちど実際に聞いてみたことがあったが、『そこはそれ、人徳というやつよ』という、わけがわからない説明で終わられてしまった。

 

「じゃあさ、ちょいとオレが調べてやろうか?」とサトルがいう。

「なにを?」

「あのコのことよ。学部とかいろいろ。気になるんだろ?」

「いや、そりゃ可愛いと思ったし、気になるけど。どうやって?」

言い忘れていたが、オレが通ってる大学は結構なマンモス大学で、学生数だけで数千人在学している。

某有名大学の数万人には及ばないが、数千人の中の一人なんて、運動場の砂の中から雲母を探し出すようなレベルで、手間がかかるんじゃないか?とサトルに聞いたてみた。

彼女の情報は、喉から手が出るほど欲しかったが。

「俺の情報網を、忘れてもらっちゃあいけないよ」

ちっちっちっという感じでサトルが、右手の人差し指をたてて左右に振る。

「あのコら、たぶんまだ一般教養がメインだろうが、俺の見立てでは理工学部ではないな。だからこっちの敷地内だけで、探ったらいい。いくら生徒数が多いといっても、彼女らみたいな目立つ存在は探しやすいと思うよ」

「なるほど。悪い。頼んでいいか?」

オレは両手を合わせ、サトルを拝むジェスチャーをとった。

「まかせとけ」

サトルは、親指をグッとたてて、ニヤッと笑った。

 

 

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