夏の終わり

sisi

夏の終わり

 誰もいない教室。窓から透ける緑は揺れている。蝉の音が静けさを引き立たせるばかりで、遠くから聞こえる楽しげな声も、まるで過去のことだ。いつまでもこうしているわけにはいかないと知っているけれど、いつまでにそこには佇んでいる。

 ほどけそうな窓の光に背を向けて、私は廊下を歩いていた。

 これからに思いを馳せる。しかしこれからなんて目には見えない。そして目に見えないことを言葉にする必要は、きっとないだろう。そうして春が終わった。

 壁に掲示されたポスターには、あれからのことがこつこつと示されている。

 風に吹かれて、木の葉が光を振りまいた。途切れるような、流れるようなその音は、彼らの笑い声にも聞こえた。それは残された影に、十分な彩りを加えている。

 ふと焦燥を思い出した。あの日の焦燥を。

 泣いている声が聞こえた。それは一体、誰の声だったのだろう。


 私は正しかった。

 私は間違っていた。


 それを私は感じ取ったのだった。それを私は知ったのだった。

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夏の終わり sisi @caso

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