第37話 完敗だな、今日は
Team 1234 R H E
青嵐 0000 010
山吹 0000 000
* * *
その後も両者三者凡退が続き、5・6回が終了した。
投球スタイルこそ違えど、両投手共に持ち味を活かした好投を続けている。
そして、あっという間に7回に入った。
この回の青嵐の攻撃は、1番の石塚から。
しかし、石塚と次打者の二岡がどちらも凡退に倒れ、慎吾に打順が回る。
(うーん……これが浅い回なら、塁に出ずに投球に集中したいんだけど)
4回表の2アウト走者無しで回ってきた第二打席では、あっさり三振してマウンドへ向かった。その裏が相手のクリーンナップに回るので、投球に集中したかったからである。しかし、7回まで無得点となると——。
慎吾はバックスクリーンの電光掲示板を見た。
こ青嵐の総ヒット数は2本。
もはや自分で援護しなければ、得点は期待できそうにない。
(よし、打つか……って、そもそも打てるか分からないよな)
とにかくこの打席はバッティングに集中しよう、と慎吾は決めた。
第一打席とは違って、柳原との読み合いに乗るつもりはない。
球種が多いので、読み合いでは鼻から勝てないと踏んだのである。
自分の反応とセンスだけを信じて、慎吾は右打席に立った。
初球からバットには当たるものの、いまいちボールを捉えきれない。
カウント2ストライク2ボールとなったところで、柳原が意表を突いてきた。
(うわっ、カーブだ)
今日の試合、これまで1球も投げてなかったボールだ。
しかし、反応で打つと決めていたおかげか、慎吾は体勢を崩しながらも、何とか片手でカーブを捉えた。打球は右中間を真っ二つに割るツーベースヒットとなる。
2アウト走者2塁で、打順は4番を打つ翔平に回った。
翔平は今日2打数1安打。青嵐の2本のヒットのうち、1本を放っている。
だからここはタイムリーを期待できる場面だが——。
「4番、ライト、晴山くん……申告故意四球により、一塁に出塁します」
(申告敬遠、か)
場内アナウンスを聞きながら、慎吾はヘルメットを深く被り直した。
2アウト1・2塁と、大量点の入りやすい状況にはなった。
だが、客観的に見て、次打者の福尾は翔平に劣る。
もちろん、慎吾は福尾を信じていた。
が、結果は無情にもサードゴロ。
7回表の攻撃も、青嵐は無得点に終わった。
* * *
(ここまで2打数凡退、1三振か……次こそ打たないと、4番失格だな)
そう自嘲しつつ、洋平はネクストバッターズサークルに入った。
今は7回裏の攻撃。
先頭の2番・松井が三振に倒れ、続く3番の橋下が右打席に入ったところだ。
その橋下も、あえなく三振に倒れた。
洋平が左打席に入ると、一気に山吹側スタンドからの声援が大きくなる。
皆、自分に期待してくれている。
その期待を嫌だと思うほどには、洋平はヤワではない。
プレッシャーがあればあるほど、自分が打てるのを知っているから。
そんな自分にとって、県大会決勝で同点という場面は、本来最高に「打てる気しかしない」場面だ。しかし、今の洋平は逆に、慎吾を攻略するビジョンが見えていなかった。
(俺もヤキが回ったか?)
そんなことを考えつつ、ちらりと監督の向の様子を伺う。
向は洋平の打席だけは全て任せると言っただけあって、サインを出さないどころか微動だにすらしない。腕を組んだまま、じっと戦況を見守っている。
(まあ、ランナー無しじゃそうなるよな……)
洋平はバットを構えた。
打てるイメージが湧かないのなら何か工夫をしたいところだが、そもそも慎吾の投球内容を見ると、配球自体はシンプルで分かりやすい。
ただひたすらに投げるボールが強く、変化球が鋭いから打てないのだ。
つまり、これ以上対策のしようはないということになる。
それこそ、たまにくる逆球を待つくらいしか方法はない。
結局、洋平はこの打席も追い込まれた。
しかし前の打席と違うのは、3ボール2ストライクとなったこと。
慎吾は微妙なコントロールに、少し苦しんでいるようだ。
(もうこうなったら、俺も逆球にだけ張るか)
洋平はそう腹を括った。
彼は左バッターで、慎吾は左バッターに対して、インコース中心の配球をする。
つまり、逆球は外角。当然、洋平は外角に山を張った。
(——来たっ!)
その外角へ、ちょうどボールがやってきた。
洋平はバットを振り出す。
しかし、洋平が思うより遥かにボールは伸び、バットの上を通過し——。
「ストライクスリー!」
洋平は三振に倒れた。
これで今日の慎吾との対戦は、3打数ノーヒット、2三振という内容になる。
さらにチームとしても、この回は3者連続三振と流れが悪い。
「……今日は完敗だな」
打席を去る間際、洋平はそう呟いた。
しかしその声は、近くにいた青嵐の捕手・福尾の耳には届いていない。
福尾は福尾で、それどころではなかったからだ。
(マジかよ、もう7回だぞ!? なのに、なのに……)
後攻の山吹実業側の、ヒットの数を示すH欄。
未だにそこは0のまま。
電光掲示板を何度見ても、その表示は変わらない。
「責任重大じゃないか、俺」
福尾は一人、冷や汗をかいた。
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