第31話 どうせなら完投すれば?
Team 12345678 R H E
青嵐 01103001 690
相模商 00001110 390
* * *
8回表が1点止まりに終わったその裏。
猿田は相模商業打線を初回以来久々の三者凡退に抑えた。
と言っても、当たりは全て良かったので、猿田に抑えた実感はない。
ベンチに戻ると、芽衣に「どうせなら完投すれば?」と言われた。
「どうせならって、そんなオマケみたいに言われても。俺は村雨とは違うんだよ」
「そんなのみんな知ってるよ」
「……え?」
猿田はタオルで汗を拭く手を止めた。
芽衣の顔をまじまじ見ると、芽衣が呆れる。
「何驚いてんの、当たり前でしょ」
「いや、まあ、そうなんだけど」
「今日ここまで相手の打線を抑えてきたのは、村雨じゃなくて猿田でしょ?」
「……まあ、そうなんのかな」
「なら、猿田は猿田のやり方で良いじゃん」
慎吾という柱がチームにいる以上、自分がマウンドにいるのは何かが違う。
自分には村雨の代わりは務まらない。
だから、早く交代した方が良い。
心のどこかで、そう思っていたのかもしれない。
「……もう1イニングくらいなら、踏ん張っても良いか」
猿田は独り呟いた。
* * *
9回表、青嵐の攻撃が無得点に終わる。
その裏のマウンドには、猿田が立った。
スコアは6対3。
高校野球では、まだまだセーフティリードとは呼べない点差だ。
相手打線の攻撃が1番からなのも大きい。
相模商業の1番・池田はここまで4打数3安打と当たっている。
福尾の内角へのストレートを使ったリードにより、何とか内野フライに打ち取ることに成功する。
1アウトとなって2番打者の水野が左打席に立つ。
外角へのスライダーを中心とした配球で、打ち取ることに成功したはずだったが、ここでセカンドの二岡にエラーが出た。
これで1アウト1塁となってしまう。
続く3番の尾崎を打ち取り、2アウト2塁。
ここで迎えるは4番・大塚。
猿田はこの大塚に外角へのスライダーを上手く流され、レフト前に運ばれた。
2塁ランナーは無理してホームへ突っ込まなかったものの、これで2アウト1・3塁となる。
5番の佐藤が右打席に立った。
佐藤はこの試合、途中からマウンドに上がって4回1失点。
相模商の後半の追い上げの立役者でもある。
その佐藤に、3球目の少し上ずったチェンジアップを捉えられた。
打球は猿田の足元を抜けセンター前へ。
3塁ランナーは悠々生還し、2アウト1・2塁。
6対4と、1本長打を打たれれば同点となるピンチを迎えた。
ここで、ベンチから伝令がやって来た。
内野陣が全員マウンドに集まる。
伝令の祐川は言った。
「今日は猿田に任せるってよ」
「……マジかよ」
猿田は額の汗を拭った。
しかし、言葉とは裏腹に、覚悟はもうできている。
「大丈夫だ。同点までなら、この後打線で何とかするから……晴山がな」
「ちょっ、福尾さん何無茶振りしてんすか!?」
福尾の言葉に、翔平が抗議の声を上げた。
集まっていたチームメイトが笑う。
猿田にも笑う余裕がまだあった。
福尾が念の為の状況確認を行った後、みんなマウンドから散らばった。
伝令の祐川はベンチに戻る。
何となくライトを見ると、慎吾と目が合った。
慎吾はいつでもいけるよ、と言わんばかりに腕を回してみせた。
「あの野郎」
猿田は笑うと、ホームに目を戻した。
相手打者は、6番の山本。ここまで3打数2安打と当たっているうえ、今日は先発して打たれているので、リベンジに燃えていた。
山本が右打席に立つと、球審がプレー再開を告げる。
猿田は福尾のサインを見て、頷いた。
第一球を、思い切り腕を振って投じた——。
決着は6球目についた。
山本の打ったボールが、ライト方向へすーっと舞い上がる。
ライトを守っていた慎吾がそのボールを追いかけ、落下地点に潜り込んだ。
余裕を持ってグラブを構える。
白球は、しっかりとグラブに収まった。
しっかりと証拠を見せるように慎吾がグラブを掲げると、青嵐側のスタンドから歓声が上がる。
マウンド上の猿田がガッツポーズをした。
* * *
Team 123456789 R H E
青嵐 011030010 691
相模商 000011101 4110
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