第23話 松本の弱点?
TEAM 1 R H E
海王大 1 1 2 0
青嵐 0 0 0 0
* * *
初回こそ不安定な立ち上がりを突かれた慎吾だが、早々に立ち直った。
2回・3回で出したランナーは、ヒット1本とフォアボール1つ。
三者凡退こそなかったものの、危なげない投球で海王大付属の強力打線を封じていた。
一方の海王大付属エース・松本はと言うと——。
「……ちょっと待て。さっきからなんか、同じ光景ばかり見てないか?」
軽い打撲のため今日は控えの猿田が、三振する8番・祐川を見て呟いた。
これからネクストバッターズサークルに向かう石塚が横で確かに、と頷いてから、不意に目を見張る。
「まさか俺たち、タイムリープしてる!?」
「んな訳ねえだろ! 松本の連続三振だよ、連続三振! さっきからだいぶ続いてないか、これ?」
猿田の指摘にようやく気付いたのか、石塚がああ、と納得する。
「……でも、タイムリープに比べると事件性薄いよな」
「そりゃ、タイムリープと比べたら大抵のことは薄まるだろ。……ええ、けっこうヤバいことだと思うんだけどなあ。気にしてんの俺だけ?」
反応に乏しい石塚に、猿田はやや不満だった。
今度は芽衣に声をかける。
「なあ、雪白。今って何者連続三振?」
「何者連続って言うか、そもそも今のところKしか書いてない。Kだらけだよ、このスコア」
「……はあ?」
芽衣の返答にまさか、とスコアを横から覗くと、確かに青嵐側の記録は全て三振だった。つまり、9番の中井が打席に立っている現時点で、8者連続三振ということになる。
「……え、やばくね? 大丈夫なのか、これ」
「大丈夫、とは言い難いな。でも、三振だろうと外野フライだろうと、同じアウトだ。気にし過ぎてもしょうがない」
心配そうに打席の中井を見る猿田へ、福尾は言った。
「そうは言うけどさあ、バットに擦りもしないってよっぽどだぜ。当たればなんか起きるかもしれないのに」
「擦りはしてるだろ。ファールとか出てるじゃねえか。
……それに、もし猿田だったら、ちょこまか当てにくるバッターと、強く振ってくるバッターどっちが怖い?」
「そりゃ、振ってくるバッターだろ」
「だろ? そういうことだよ」
「……まあ、理屈はそうだな」
猿田は渋々福尾の意見を認めた。
打席では中井が、早くも2ストライクと追い込まれている。
中井に声援を送りつつ、福尾は続けた。
「それと、実はもう、松本の弱点に一つ気付いたっぽいんだよな」
「弱点? この間の村雨みたいな、何かの癖とかか?」
「いや、そんなはっきりしたものじゃない。
というか、弱点は言い過ぎかもしれないな。癖みたいに、見抜ければ誰でも利用できるってもんでもないから」
「何だよ、それ。勿体ぶってないで、さっさと教えろよ」
「まあ、中井の打席をよく見てろよ」
「……ああ?」
福尾の意見に従い、猿田は左打席に立つ中井を見た。
追い込まれて以降の中井は、3球続けてきたカーブを1球目はファール、2・3球目は見送ってボールと思いの外粘っている。
だが、福尾に言われた猿田が打席を注視した5球目。
中井は外角高めのストレートを空振りし、これで記録は9者連続三振となった。
「な? 分かっただろ?」
プロテクターを付けてホームへ向かう間際、福尾が猿田に意味ありげに言った。
意味の分からない猿田は、鼻に皺を寄せる。
「何がだよ。連続三振が伸びただけじゃねえか」
「……じゃあ、ヒントだけやるか。チェンジアップだよ、チェンジアップ」
それだけ言い残すと、福尾はグラウンドへ出て行ってしまった。
残された猿田が、ダグアウトで一人虚しく呟く。
「どういうことだよ。中井の打席で、チェンジアップなんて投げてなかったろ」
* * *
4回表も0に抑え、裏の攻撃に入った。
1番バッターの石塚が、左打席に入る。
「で? 答え分かったか?」
ベンチに戻ってきた福尾がニヤニヤしながら尋ねると、猿田は首を振った。
「全っ然分かんねえ」
「しょうがねえなあ。じゃあ、今度は石塚の打席をよく見ろよ」
「またそれかよ……確か、ヒントはチェンジアップだったよな」
不平を言いながらも、猿田は左打席に立つ石塚を注視した。
石塚はいつもらしからぬ粘りを見せた末にフォアボールを選び、見事に連続三振記録を終わらせてみせた。
すると福尾が「な?」と猿田の方を向く。
「『な?』って言われてもなあ。
そりゃフォアボールはデカいけど、やっぱりチェンジアップなんて1球も……」
その時、猿田の脳内に電流が走った。
すぐにがばりと福尾の方を向く。
「ちょっと待て。今すぐ答えを言いたいところだけど、まだもうちょい見ないと確信はできないな。というかお前も、今はまだそうかもって段階だろ?」
「俺はほぼ確信してるけどな。よくあることではあるし」
猿田は再びグラウンドに目をやった。
0アウト1塁から2番の二岡が送りバントを決め、3番の村雨が右打席に入る。
村雨に対して松本は2ボール2ストライクとした後、チェンジアップでまたも三振を奪ってみせた。
「いや、でもマジか……?」
いよいよ猿田が自説に確信を深める中、右打席に入った翔平が三振。
あえなくチャンスは潰えた。
決め球はやはりチェンジアップだった。
しかし、ダグアウトにいる猿田の表情は妙に晴れやかだった。
「うん、はっきりした。……これは俺も出番あるな」
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