第25話 9回へ

Team 123456 R H E

海王大 100001 250

青嵐  000000 010


* * *


 4番大下のホームランの後。

 後続は慎吾が抑え、裏の青嵐の攻撃に移る。


 この回の先頭打者・9番中井が左打席に入った。

 2ボール1ストライクからのストレートを捉え、青嵐にとって今日2本目のヒットが飛び出す。

 得点差が広がった後なだけに、青嵐側応援席は盛り上がった。


 打順は3巡目に入り、1番の石塚が左打席に入る。

 石塚は無事にバントを決めたものの、続く二岡が三振し、2アウト走者2塁で慎吾に打席が回ってきた。

 バットの先をコツンとスパイクの側面で叩いてから、右打席に入る。


(ラッキー!)


 ここまでチェンジアップを使われて2打席三振に終わっていた慎吾だったが、今回は松本がコントロールを乱したおかげでフォアボールを選んだ。1塁に着くと、そこから右打席に入る翔平を見つめる。


(あのチェンジアップがあると、右バッターは苦しいよな……とはいえ、翔平くんならセンスで何とかしちゃうかもしれないけど)


 慎吾の期待も虚しく、翔平はセカンドフライに打ち取られた。

 とはいえ、三振ばかりだった序盤に比べれば、徐々に内容は良くなっている。


(とりあえず、追加点だけは与えないようにしないと)


 慎吾は胸に誓いつつ、ベンチ前で控え部員からグローブを受け取ってマウンドへ向かった。


* * *


 その後は再び硬直した試合展開が続き、2対0で海王大付属リードのまま9回の攻防に入った。海王大付属の監督・桜井にしてみればプラン通りの展開のはずだったが、試合が終わるまでは不安は拭えない。


(せめてもう1点追加してくれれば良いんだが——)


 桜井がそう望む中、先頭打者の6番・阿久津が右打席に入る。

 慎吾の投じた2球目を阿久津が打つと、ボテボテのゴロがセカンド正面へ転がった。しかし——。


(あっ!)


 強い回転がかかっていたせいか、二岡が打球をグラブで弾いてしまった。

 その間に阿久津が一塁を駆け抜けセーフ。

 記録はエラーとなり、海王大は追加点のチャンスを迎える。


「悪い、村雨」

「大丈夫」


 申し訳なさそうに手を挙げる二岡へ、慎吾は笑って返した。

 二岡のためにも、この回失点を許すわけにはいかない。


 続く7番・山崎が危なげなく送りバントを決め、松本が左打席に入る。

 慎吾はストレート2球で追い込むと、3球目の福尾のサインに思わず笑いそうになった。なんとか堪えつつ、軽く頷いて握りを変える。


 セットポジションからの第3球。

 慎吾の投じたボールは、いつもより遅くホームベースへ向かった。

 タイミングを外された松本のボールが空を切り、三振となる。


(あの野郎……リベンジってわけか)


 慎吾が投じたのはチェンジアップ。

 初回に松本がしたことを、9回に慎吾がやり返した形になる。


 2アウト走者2塁で、9番の原が打席に入った。

 しかしこの原も、


「ストライクスリー!」


 尻上がりに調子を上げていた慎吾の高めのストレートを空振りし、三振。

 9回表の海王大付属の攻撃は、三者凡退に終わった。


 抜け気味の逆球を狙うという作戦は、慎吾が制球を乱しがちな回には有効だが、彼の調子が上がってくるとどうしようもない。桜井は仕方ないと自分に言い聞かせつつ、ベンチへ戻ってくる選手たちに檄を飛ばした。


 一方の青嵐側は、9回表の慎吾の投球で雰囲気が良くなっていた。

 慎吾自身も乗りに乗った状態で、この回の先頭打者として右打席に入る。

 しかし、ここは松本が1枚上手だった。


「ストライクスリー!」


 今度はチェンジアップを使わずにストレート勝負で三振を喰らい、慎吾はダグアウトへ戻ってきた。こうなると後はチームメイトを信じるのみだが、続く将兵も連続三振でベンチへ戻ってくる。


(流石に厳しいかな……)


 内心諦めかけたところ、福尾が左打席に入った。

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