第5話 夢 新藤頼斗
俺、
舞台の上、最終演目。攫われた姫を助けるために勇者が魔王を倒し姫を救う。そんなありきたりなファンタジーな舞台、観客の姿は……暗くてよく見えないがいることは確かである。この演目の主役は俺によく似ている。性格がとか、演技から感じ取れる勇者の考え方とかそんなものではなく、ただ単純にこの役者が俺の姿と酷似してる。まるで生写しのようだ。
クライマックスに差し掛かった。姫を助けるために魔王と勇者が対決する。この手の話で常に思うのがなぜ魔王は初手で勇者をボコしに行かないのかというところだ。さらって、しかも「助けたくば魔王城まで来い〜」とか言って。話にならないじゃないかと言われたらそうとしか言えなくなるが、ただの構ってほしいだけのようにも思えておかしくなってくる。だから俺はこういうお決まり展開というものが大嫌いなのだ。捻りが無い。
よくあるシナリオ通り、魔王を倒して姫を救い出した。ゲームや漫画などで幾度となく見た光景だ。つまらない。変化が欲しい。勇者でもいい、姫でもいい。誰でもいいから人生がガラッと一変するような展開が欲しい。
カーテンコールが始まった。演者たちは次々に出てきてお辞儀だったり、決めポーズだったりをして出てくる。その間観客たちはパチパチとホールから溢れんばかりの拍手をしている。いわゆるスタンディングオベーションというやつだ。全員が揃い、同時にお辞儀をする。その間も拍手は鳴り止まない。演者全員が達成感に浸っているのも束の間、事件が起こる。舞台側から火事が起こっている。舞台道具を一つ一つ巻き込みながら大きく燃え広がっている。混乱する主役。だが困惑している主役をそっちのけで他全員は観客に手を振り、観客はそれに応えるように拍手をする。
グシャ。バキッ。ゴキッ。ボキッ。
嫌な音が会場全体に響き渡る。そして今まで聞こえていた歓声、拍手の音が全て消えている。恐る恐る確認すると、演者、観客の全てが十字架に潰されていた。いや違う。元々この場所にはたくさんの十字架しかなかったような気もしてきた。十字架の下に血や肉塊すらない。この状況に恐怖を覚える。どこか、ここではない遠くへ逃げなければ。一歩踏み出そうとする。
踏み出せない。足を動かすことができない。足を掴まれた感覚がする。右足を見ると、白骨化した死体が僕の足を掴んでいた。一つではない。何十、何百もの肢体が足元にある。主役をこの場所からどこにも行かせないようにするかの如く、逃走を妨害する。
這い寄ってくる白骨死体は僕の全てを覆い、死体に飲み込まれていく。意識が途切れる直前、必死に伸ばそうとした右手には肉がなかった。
「______!!!!」
声にならない声を上げながら俺は起きた。全くひどい夢だった。なんとも言えない摩訶不思議な空間。できればもう二度と見たくない。
「そういえば今日は……。」と言いながらスマホのスケジュール表を確認する。今日は友達と遊びに行く約束をしていたな。現在時刻午前5時。あぁ、悪夢でうなされて俺でも信じられないくらい早く起きてしまったんだな。
……まだ時間があるし、もう一回寝るか。準備はそれからにしよう。
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