私たちは共同創作者

蒼樹里緒

私たちは共同創作者

 SNSの相互フォロワーさんが、ある日から一次創作オリジナルのキャラクターイラストを描き始めた。

「漫画も描いてみたい。でも、今まで二次創作ばかりしてきたから、オリジナルの漫画のネタが思い浮かばない」

 その人の呟きを見て、私はノリと勢いで提案した。

「私がネタやシナリオを考えましょうか?」

 それが、私たちの共同創作の始まりだった。


 その人──Aさんとは、元々オンラインのカードゲームで知り合った。お互いゲームや二次創作をして盛り上がり、同人誌即売会にも参加して直接お会いした。そのゲームは惜しくもサービス終了したけれども、交流はずっと続いている。

 私には、Aさんとは違って絵心はない。ただ、中学時代から一次創作、二次創作ともに小説を書き続けてきた。漫画のネタ出しや原案も、経験してみたくなったのだ。

 最初は、短い二コマ漫画のネタ出しだった。テーマがあったほうが描きやすいだろうと、イラスト投稿SNSの公式創作漫画企画への参加が決まった。何度か制作、投稿すると、Aさんも自信が付いてきたようで、私もネタを考えるのが楽しくなっていた。

「一緒にオリジナルのストーリー漫画を創って、ダウンロード販売してみませんか?」

 Aさんから提案された時、私は驚いた。

 女性向けにダウンロード販売するならボーイズラブがいいだろう、とも言われた。

 ──Aさんがそこまでやる気を出してくださったなら……!

 私は、提案に乗った。

「実は、数年前に商業応募して落選した読切BL小説があるんです。それを漫画化するのはいかがでしょうか?」

「いいですね。では、それにしましょう」

 笑えるくらいの即決だった。

 その後は、私の小説を参照してキャラクターのビジュアルなどを相談しながら決めていった。髪型や顔つきは、フリーのキャラクターメイキングジェネレータを使って大体はイメージができていた。けれども、実際は意外と大変なことがあったのだ。

 小説では、情景やキャラクターの服装、持ち物などを読者の想像に委ねる面が大きい。ただし、それらを絵に描き起こすとなると、すべて詳細にデザインしなければ読者には正確に伝わらないのだ。キャラクターが生活する学生寮の間取りもAさんに考えていただき、お手間をかけさせてしまった。髪型も、漫画において動かしやすいか、Aさんが描きやすいかという点が重視され、いくつものパターンから検討した。一番悩んだのは、キャラクターのバッグのデザインだ。これも小説では読者の想像に委ねる部分だったから、原作者としての直感で選んだ。Aさんからも参考資料を出していただけて助かった。


 小説は全四章だから、漫画も全四話制作することになった。主人公が、音に色が付いて見える共感覚の持ち主という設定で、一話だけはそれに合わせてフルカラー版も作ろうと決めた。さらに、Aさんと私の共通の知人であるBさんが、台詞の英訳をしてくださることになり、英語版の制作も決まった。

 私はてっきり日本語だけで作るものとばかり思っていたけれども、

「せっかく色々な方に読んでいただくなら、海外の方向けに英語版もあったほうがいいですよ」

とAさんから提案され、そういうものなのだなと快諾した。

 小説は、どうしても全文母国語で書くし、言語の壁が立ちはだかる。けれども、絵は一目見ればどの国の人にも表現が正確に伝わる。漫画は、台詞の言語を変えさえすれば済む。Aさんが英語版制作に意欲的なのも、きっとそういう意図があってのことなのだろう。視野が狭い自分を恥じ、Aさんに感謝した。

 私は、自分の小説が紙の本として出版され、一般書店の本棚に並ぶ日を夢見ていた。けれども、どれだけの賞に応募しても鳴かず飛ばず、箸にも棒にも掛からずで、そろそろ夢を追うのは諦めようかと悩んでいた。ただ、今は世界とつながるインターネットという場所がある。個人で作品を発表、販売できるサービスもある。紙の本として書店に並ばないのは悔しくても、自分の関わった作品が一人でも多くの人に見ていただけるなら、それが一番だろうから。

 漫画は一話のネームが完成し、私は小説本編と照らし合わせながら台詞の修正やモノローグの追加などの作業をしている。小説では地の文で説明、描写する部分も、絵やモノローグに置き換えるとまた別のテンポや読後感になるのだとわかった。

 フルカラー版の色塗りは、なんとAさん娘さんが担当してくださることになった。まさかご家族にまで協力していただけるなんて──感謝してもしきれない。清書された完成稿を見るのが楽しみだ。


 最初は二人だった私たちは、今では四人のチームになった。作品がどれだけの人に見ていただけるかなんて、実際に売ってみないとわからない。それでも、この最強最高のメンバーでなら、きっと楽しく作品を完成させられる。そう信じながら、私は今日も筆を執るのだ。

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