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異世界に飛ばされて以来、異なる文化習慣を目にしてきたが中でも衝撃を受けたのは、〝入浴〟という習慣が広く一般に浸透していなかったことだ。
現代の日本であれば指先一つで追い焚きも事足りるが、電気もなければガスもないこの世界で給湯器のような文明の利器など望むべくもなく、薪割りから準備をしなくてはならない。
そもそも風呂を所有するという発想自体が富を蓄えたものにしか許されぬ贅の極みで、それだけ手間のかかる風呂に毎日浸かれるというのは一種の
王侯貴族や大商人を除いた下層に位置する殆どの国民は、井戸や川から組んできた冷水で体の汚れを落としているという。
つまり何が言いたいかというと、この世界の住人は外見の
「お前も入ったらいいじゃねえか。そうそう風呂に入る機会もないんだろ。そういや、少し臭うぞ」
「そ、そんなことないですよ! 今朝だって朝一番に体を拭いたんですから。僕は後で入らせていただくので結構です」
大人が手足を広げて
その拒絶の具合から、まさか男児専門の
「しかし……ヤクザになって裏社会の頂点を目指していたこの俺が、まさか異世界で戦闘の特訓を受けてるとは組の奴らもまさか思ってもいないだろうな」
✽✽✽
妖精姫と
「公衆浴場があるにはありますが、クエストから帰還した冒険者の方々が入れ替わりで入るものですから、お湯の表面に皮脂が膜を張っている状態ですのでお勧めはしませんよ」
「それじゃあかえって体が汚れるだけだろ。そうだ、アンタくらいの有力者だったら家に風呂の一つや二つくらいあるんじゃないのか」
「コホン……。自慢ではありませんが、確かに趣向を凝らした露天風呂があります。ですがサカナシさんには貸しませんよ? そもそも高潔なハイエルフが自らの
単体では雑魚でしかないが、知恵が回る分徒党を組むと厄介な相手になる。女性を犯して
「安心しろ。俺に
「
聞き取れない声でぶつくさと文句を垂れながら、胡乱な眼差しを向けてきた妖精姫は「ある条件を呑んでいただければ構いませんよ」と、その条件とやらを提示してきた。
「これから一週間、サカナシさんには特訓を受けてもらいます」
「特訓だと?」
「ええ、私から依頼を持ちかけておいてなんですが、今現在の無悪さんの実力は潜在能力こそ高いものの、ひよっ子の域を出ません。先程私の殺気にあてられて失禁していた
「おい妖精姫。あんたがどう思おうが勝手だが、言葉は慎重に選べよ。俺のどこが弱いって言うんだ」
正面から臆面もなく「弱い」と告げられたのはいつ以来だろうか。
コンマ数秒で記憶を掘り起こした限り、無悪の海馬に似たような過去は保存されていなかった。常に人を支配する立場の自分が、「弱いから特訓してやろう」と虚仮にされている状況に殺意が沸かないはずがない。
腰に提げているグロックを西部劇の
目を瞑っても絶対に外すことのない距離で妖精姫は涼しい顔を崩さない。
「元いた世界ではお強かったのでしょう。私を前にして啖呵を切る度胸は褒めて差し上げてもいいですが、それは蛮勇というものです」
余裕の笑みすら浮かべ、意識は己に向けられていたグロックに向いている。
「なんとも面白い術式が組まれている武器ですね。形状からして……効率よく相手を殺傷することだけに特化してるようですし、同じ武器が巷に溢れでもしたら冒険者は皆廃業に追い込まれるでしょうね。ですが折角の性能を持ち主がこれっぽっちも引き出せていません。これでは宝の持ち腐れとしかいいようがありませんね」
「なんだと? どういう意味だ」
「試しに一度、装填されている弾を私に向けて撃ってみてください」
「……ちなみに依頼主が死んでも報酬は頂くが、それでもいいのか」
「構いませんよ。どうせ傷一つつけられませんし」
「ああそうかい。ならさっさと死ね」
あまりに舐め腐った態度に、脳髄から溢れ出た殺意が
骨片と脳味噌と
「どういうことだ。どうしてアンタは無事なんだ」
銃弾を外したつもりはない。
そもそも目隠しをしても外さない距離なのだが、それでも外したというのならまだわかる。
問題は妖精姫が放たれた銃弾を摘んでいたことだ。
「詳細を明かすことはできませんが、私が得意とする〝魔法〟の一つだと言っておきましょうか」
「言うに事欠いて、まさか魔法だと? 秒速379メートルで放たれる弾丸を止められるっていうのか。笑えん
「あのですね、目の前で起こった事象くらい素直に認めてください。とにかくこれから一週間の間は、私が及第点を出せる程度には修行をつけて差し上げますから。覚悟しておいてくださいね」
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