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「やっぱ……獄中での生活は厳しかったですか?」
「まあな。元いた世界じゃ雑居房なんてもんはイジメが当たり前で、娯楽もなければ死ぬほど退屈な場所だと思ってはいたが、あそこは軟弱な奴なら一日で気が触れてもおかしくない環境だったな。想像してみろ――そこいらを鼠やら害虫が這い回ってるんだぞ」
「やめてください……。僕、虫だけは駄目なんです」
あの忌まわしい牢屋を後にした無悪は、その足でアイリスとガランドが逗留していた宿に到着した。
テーブルを挟んで無悪の話に顔を青褪めさせていたアイリスは、両耳を抑えて聞きたくないと抵抗を見せる。
モンスターの腹を躊躇なく掻っ捌く事ができるというのに、虫が駄目という感性が理解に苦しむ。
「それに食事は岩のような硬さのパンが一日一つで、便所からは四六時中悪臭と蝿が飛び交ってたな。お前に〝釈放が決まるまでは絶対に暴れるな〟と耳打ちされてなければ、あの場で全員打ちのめしていた
に違いない」
木製のジョッキに注がれたエールという醸造酒を胃に流し込みながら、屈辱的な日々を思い出していると初めて会ったときよりだいぶ血色がよくなったガランドが口を出す。
「一昔前は囚人の扱いなんぞもっと酷かったぞ。全員が全員とは言わんが、この国の看守は腐ってる輩が多いからの。裁判もなしに冤罪で投獄されることなど日常茶飯事であったし、獄中で暴力行為に及んだ囚人は看守の裁量でどうとでも処分できたんだよ。例えば――事故に見せかけて殺したりな」
無悪とは対象的に、酒に弱いガランドはちびちびとジョッキに口をつけながら暗い表情で語っていた。
✽✽✽
一週間前。エペ村を脱出した無悪一行は、ようやく辿り着いたリステンブールの街で先ず何よりも先に魔石を現金に換金する必要があった。
宿を取るにも食事をするにも先立つ物が手元になければ何もできず、換金のために「ギルドに向かう」と告げたアイリスの後に無悪は大人しく続いた。
「そもそも『ギルド』とはなんだ」
「えっとですね、ギルドとは冒険者の方々に仕事を斡旋する公的な施設のことを指します。庶民からの依頼もあれば貴族からの依頼もあって、所属していると国から戦争への参加要請も求められます。それと倒したモンスターの素材や魔石も鑑定してくれるのですが、素材の状態に応じた硬貨に換金してもらえるんですよ」
話を聞くに、冒険者とやらは個人事業主のようなもので自分の裁量で仕事を選べるので自由が利く反面、不慮の事故で依頼が受けられなくなることもあるというこたか――。
上手くいけば一攫千金も夢ではないが、傷病保険が存在するわけでもなく全てが自己責任の職業。
平和ボケした日本では考えられないくらいに人一人の命の価値が軽いこの世界では、冒険者という人種は向こう見ずな考えの持ち主が多いとガランドは評していた。
「冒険者の
「その冒険者の免許は、ジジイもお前も取得してるのか」
「もちろんじゃよ。とはいってもワシは騎士団に属しておったから冒険者の経験は殆どないがの」
「僕も冒険者として依頼を受けたことはないです」
そんな話をしながらギルドに向かっていると、突然笛の音と怒声が目抜き通りに轟いた。
「そこのお前達っ! 立ち止まれ!」
地面を鳴らして前方から駆けてきた集団は、腰から提げていた刀の鞘から抜剣すると威嚇を超えた至近距離で
「……なんだ貴様らは。邪魔だ、とっと失せろ」
「そこの人相の悪いお前に問う。このような時間に奴隷の首輪を装着した子供と障害を持つ老人を引き連れて、一体何が目的でリステンブールに訪れたのか白状しろ。まさか、白昼堂々と人身売買に手を染めてるわけではあるまいな」
「……不味いです」
背後でアイリスは小声で囁きながら、現状を手短に説明した。
「おそらく彼らはこの街の衛兵です。この国は表向き人身売買は禁止されてるのですが、どうやら僕とおじいちゃんを奴隷だと勘違いした衛兵さんが、サカナシさんを捕らえに来たんだと思います」
どうすればいいと小声で返すと、「一切逆らわないでください」とだけ言い残し、スーツのポケットへいくつか魔石を入れるとガランドとともに衛兵の一人に引き剥がされてしまった。
「お前は怪しいな。正義に反する臭いがプンプン漂う。我らとともに詰め所にきてもらうぞ!」
✽✽✽
「人生山あり谷ありだよ。少しは機嫌直しな」
女主人は煙草を咥え紫煙を
あまりの重さにバランスの悪いテーブルが軋んだほどで、日本では嗅いだことのない
思い返すと、この世界に放り出されてから一度もまともな食事にありついていない。
「おい店主。なんだ、このやたらとデカい大皿の料理は」
「何って、そいつは
「一角熊の肉はなかなか手に入らなくて、僕たちのような庶民には高級品なんですよ」
「ワシらも年に一度食べれるか食べれないかの代物だぞ。さ、冷めないうちに食べてしまおう」
一角熊の肉は長時間煮込んだと言う割には弾力があり、噛めば噛むほどに濃厚な旨味が溶け出す一品だった。
その他にも次から次へと出てくる品を平らげ、ようやく一息ついて
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