第29話 大人の階段登る


「リト。アンタも、ついに大人の仲間入りになる時が来たね。」


フリッカさんは、瞳を潤ませながら、感慨深そうに言いました。


「お母さん。今まで、本当にありがとう。」


そう言って、リトはフリッカさんを抱き締めます。


あれから更に一年。

リトも私も、少し大きくなりました。

二年前はフリッカさんを大分見上げていたリトでしたが、今はそんなに変わらない大きさにまでなっています。


アルヴのエルフは、女性の場合、大体15歳くらいで身長の伸びが止まるそうで……背丈としては、もしかしたらこれ以上大きくならないのかも知れません。

そう考えると、リトは小柄な部類になるのでしょう。


いえ!でも私は、まだ二歳ですから!まだ!可能性は……捨ててはいません!


私はというと……この二年間で、確かに少し大きくなったのですが……。

どういう事か、身長の伸びよりも、胸ばかり大きくなって……

まぁ、それも期待していましたから、いいのですが……。背丈の割にアンバランスな感じがして、ちょっとどうなんでしょうね?


さて!今日は、旅立ちの日です。

旅立ちと言っても、リトが希望の樹から異能を授かる為に、ヴァルの地に向かうというだけなのですが。


王館のあるヴァルの地までは、徒歩で片道二日の距離。最短5日といったところで、鳥の世話があるフリッカさんは、残念ながらついて行く事が出来ません。

そこで、特に役目の無い私と、王館に用があるというお母さん、護衛にナイという形で向かう事になりました。


「それじゃ、ユウナちゃん、マリーカ。よろしくね。」


「はい!」

「ええ。」


以前、王館からミュルク村に来た時は、ナイに乗って来たので、その日のうちに着きました。今回も、途中まではそうする事にします。


「この辺りでいいかな。ナイ。お願いね!」


ナイは、普段人目に付く場所では、小さくなっています。さすがにその大きさのままでは三人も乗れないので、森に入ってからは元の大きさに戻ってもらいます。


「わかった。」

と言って、ナイは、濃い紫色の靄に包まれると、あっという間に大きくなりました。


「あれ?ナイ、前より大きくなった?」


「力を、溜めた。」


ナイは、以前よりさらに一回りくらい大きくなっていました。こんなに大きいのに、まだ成長出来るだなんて……。ちょっと羨ましい。


「さ、行きましょうか。」


お母さんは、普段からクールな人なのですが、今日はいつもより表情が硬い気がします。

王館に行く用があるって、何なんだろう……?


「しっかり、掴まれ。」


そう言うと、ナイは風のように走り出しました。

景色が飛ぶように目まぐるしく移り変わります。


「はっ……速っ……」


リトは私の後ろで、小声で呟くように悲鳴を漏らしていました。


――


日が赤く染まりだした頃、私達はヴァルの地まであと少しというところまで着ていました。今回は、ナイのお陰で獣などに襲われる事もなく、スムーズに来れました。

お母さんによると、この場所はナイと出会った辺りらしいです。私には、一度通ったきりの森の中の道なので、見分けを付ける事がまだ難しいですね。ミュルクの森なら大分憶えたのですが……。


「ここに、ナイは住んでたの?」


少し休んでいると、リトがそんな事をナイに聞いていました。ただ……


「ナイは、分からない。」


私も聞いた事はあったのですが、ナイは分からないとしか言わないのでした。


「そっか……。」


リトは、とても不思議そうにしていました。

その気持ちは、私も良く分かります。ナイは、ちょっと不思議なのです。あまり自分の事を話してくれないので、分かっている事が少ないという感じです。でも、大事な家族です。だから、別にいいのです。


「では、そろそろ参りましょうか。

ナイ。あなたは申し訳ありませんが、この辺りで待っていて下さい。

おそらく、ヴァルの地に行けば兵に囲まれる事になるでしょうから。」


「そうか。ユウナ、気をつけろ。」


「うん。ナイ、ごめんね。」


「ナイは、大丈夫だ。じっとする。」


そう言うとナイは、道から少し逸れた木陰で、いつもの体勢を取りました。

私達はそれぞれナイを撫でると、歩を進め、30分程でヴァルの地の入口に着きました。


「今日は、旅人用ハウスに泊まりましょう。」


「「はい!」」


旅人用ハウスは、ミュルク村でも入口付近にありましたが、どこの村もそうなっているらしく、それはヴァルの地でも同じようでした。

旅人の宿泊用対価は、特産品で納めます。それは樹拝が目的の未成人であっても変わりありません。

ただ、一度納めれば、一週間くらい滞在していても大丈夫なようです。今回は、猪の毛皮を三枚用意してあります。


ミュルク村では、滞在の挨拶は村長にしますが、ヴァルの地では王ではなく、管理係がいるそうです。

その管理係の小屋は、宿泊小屋の近くにありました。


「ミュルク村の、リトです。異能授受の樹拝に来ました。」


「おお。成人の義か。それは目出度いな。後ろの二人は付き添いか。

……ん。確かに。毛皮三枚だな。」


管理係のエルフは、兵士なのでしょう。武装をしていました。私やリトの装備とは違って、あんまりオシャレ感がない装備でした。やはりダーインさんやハーナルさんは、凄腕という事ですね!


とはいえ、私達も今はローブを頭からすっぽり被って、目立たないようにしていますが。

なんせ私は、ヴァルの地を追放された身ですから。


無事宿泊許可が下りると、旅人用ハウスに案内されました。


「ここを使ってくれ。期限は一週間だ。八日目には強制清掃に入るからな。よろしくな。」


――


宿泊期限は一週間もあるそうですが、私達に長居するつもりはありません。ナイを待たせていますからね!

という事もありますし、私が追放者だという事もあります。もちろん王館に近付くつもりは全くありませんが、誤解を生むといけないので、早々にこの地を出る予定です。


「私は王館に用向きがありますので、朝向かいます。」


「じゃあ、私達も朝出て、樹拝に行けばいいよね?」


「うん。」


「集合はどうしよう?」


「そうね……。ユウナはナイの事が心配でしょうから、ナイのところにしましょうか。」


「はーい!」

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