第26話 旅人が来た!


あれから一年経ちました。


そう、一年です。私も、もう一歳です!精神的には14歳!

アルヴのエルフは、15歳で大人という事なので、大人一歩手前なのです!

毎日続けている訓練も順調で、わりと強くなってきたと思います。

その証拠に、近頃は早朝の狩りにも危なげなく参加出来るようになりました!

と、言っても……ダーインスレイヴのおかげな部分が大きいのですが……。武器は偉大ですね。

村の皆には感謝が尽きませんね!


そんな毎日を過ごして、私もすっかりエルフの村人になったのですが……

今日は、待ちに待った特別なイベントなのです!



「お嬢ちゃん……、言法セイズ、使えないだろう?

だがの、解決する方法はあるかも知れんぞ。」


「え?本当ですか?!」


この人は、占い師だという、旅人のエルフ。

遂に旅人到来という事で、今日は占ってもらいに来たのです!


この占い師さん。どうやら、少し手を握っただけで、私が言法セイズを使えないという事が分かったみたいです。スゴウデです!


「うむ……。フェアランドに居る、妖精王の力なら、或いは……。

どれ、詳しく見てみるか……。」


占い師さんは、私の手を握りながらも、顔は上げています。でも、何処を見ているのか、視線は合わないので、分かりません。こっちを見ているようではあるのですが……。


「お嬢ちゃん……。言法が使えないだけではないのか……。寿命も……短く、尽きかけておるのか。

ふーむ……。」


そこまで言うと、占い師さんは目を閉じました。

聞いたところによると、この人の異能は、占いというよりは、預言みたいなものらしいのですが、何を言われるか、ちょっと怖いですね……。


「旅……この世界を、巡るが良い……。

……ふむ。やはり、フェアランドか。

異能の事は、フェアランドへの旅で解る……ようだな。

むう……。そこまでしか上手く見えぬ。

言法や寿命の事は……闇に呑まれたかのようだ……。

……すまんな。

む!?これは……!!」


そして、カッと目を見開きました。……普通に怖いです。雰囲気が大事という事なのでしょうか……。効果音があるなら、きっとピシャーンとか鳴っていたと思います。すごい迫力です。


「来年……身の危険があるやも知れぬ。気を付けるが良いぞ。」


そして、言う事まで怖いのです。


「身の危険……」


「うむ。選択を迫られる事になろう。」


「選択……って、どんなですか?」


「足掻くか……受け入れるか……。どちらにせよ、痛みは伴う事になろうな……。」


「痛み……。」


占い師さんの言葉は、具体的というほどでは無く……

それでいて、一つの希望と、大きな不安を掻き立てるものでした。


――


旅人用ハウスから出ると、心配そうな声がしました。


「ユウナ……!どうだった……?」


「リト。」


この一年の間に、私たちはすっかり打ち解け、お互いを呼び捨てで呼び合うようになっていました。

もう親友と言っても過言ではないと思います。


「うーん……。なんかね、色々言われたよ。

あ!フェアランドに行くと良いって!私の異能の事が判るかもって!」


一緒に旅に出る約束。その目的地が同じになりそうだと知ったリトは、とても嬉しそうで、花が咲いたように笑いました。


「そうなんだ!じゃあ、わたしが異能を授かったら行こうよ!」


リトが異能を授かるのは、15歳。来年です。

異能を授かる事が、アルヴ族の成人の証でもあります。

成人を迎えると、役割に従事する事になります。

それは、基本的には選ぶ事が出来ます。

異能によっては、マリーカさんのように、強制的に王家に仕えなくてはならなくなる場合も、たまにあるようですが……。

リトは、旅人を選ぶ予定なのです。

私の場合は……既に樹が枯れているので、成人の儀は無いと思います。あるにしても、14年後です。


来年……私が、選択を迫られるという年。

その事を考えると、どうしても、言い知れぬ不安感に包まれてしまいます。

でも、リトにはあまり心配をかけたくない……。

精一杯、その不安な気持ちを顔に出さないように気をつけます。


「……来年、だね!」


「うん!しっかり準備しないとね!」


「じゃあ、交易品見よっか!」


「うん!行こ!」


交易品を持ち寄る旅人さん達は、ログハウス前でバザーの様に、沢山の品々を広げているのです。


何に使うのか分からない不思議な物から、生活に役立つ様な各地の特産品まで、幅広く取り揃えられています。


アルヴ国には通貨がありません。交易品は、全て物々交換です。

特産品にも、日持ちするもの、しないものがあるのですが、保存に適した異能を持った旅人さんだと、その辺りは気にしなくて大丈夫みたいです。


私は、この日の為に時々狩りに参加して、毛皮を貯めてあります。リトは、もちろん卵です。


「あ、このお皿可愛いー。」


「ちょっと、ユウナ。お皿なら、割れない金属製の方がいいよ。」


「金属製だと、ダーインさんに頼むだけじゃない。

せっかく沢山並んでるんだから、色々見ようよぉー。」


「そっか。ユウナは、初めて見るんだもんね。」


「そうそう!そうなのです!ずっと楽しみにしてたんだから!」


沢山の品々を見て回っていると、リトが何かを見付けたようでした。


「あっ!これ!ヤルンのバッグだ!」


「お、嬢ちゃん。それ知ってんのかい。」


「あ、は……はい。」


リトは、相変わらず人見知りが激しくて、知らない人に話しかけられるのが苦手でした。


「ヤルンのバック?」


「なんだ、そっちのお嬢ちゃんは知らないのか。」


「うん。初めて見た……」


「これはな、旅人必携のバックだ!旅人必携だから、いつもは交易品にはならないんだがな。ちと、ヤルン村が不作でな。珍しく、交易品に出してきたんだよ。

でな、コイツはすげぇぞー?中に手を入れてみな!」


旅人さんは、ものすごく得意気に、そのバックを差し出してきました。言われた通りに手を中に入れてみると……


「えぇっ!?なにこれ?!どうなってるの!?」


見た目に反して、中がものすごく広いのです。


「すげぇだろ?空間を拡げる異能ってのがあってな。それを使ってあるんだ。で……ソイツは更に、中に入れた物を小さくする異能も使われてる最上級品だ!」


なんということでしょう!それは確かに、旅人必携の品です!


「すごいです!……でも、お高いんでしょう……?」


「まぁな!と、言いたいところなんだが……

旅人になりたい奴は、あんまり多く無くてな……。

需要はそんなに無いんだよ。」


「えっ、じゃあ……私と、リトと、一つずつ欲しいです!」


「お?まいどあり!毛皮と、卵か!こりゃ丁度良いな!ヤルンの奴ら、喜ぶよ。」


そうして私達は、旅人必携アイテム"ヤルンのバック"を手に入れました!

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