第22話 森でスイーツ


翌日。


朝からマリーカさんの綺麗な顔が近いです。

長い金色の睫毛に彩られた、少し緑掛かった薄青の瞳が、とても近くで動いています。


「……腫れは……」


ものすごく真剣な表情で、私の頬や顎に手をやり、顔中隅々まで、まじまじと見られてしまっています。

……段々と、顔が赤くなっていくのが自分で分かってしまって、それも余計に恥ずかしい……


「……ありませんね。良かったです。」


朝日を背後から浴びて、にこりと安心したように微笑むマリーカさん。その慈愛に満ちた表情と、荘厳なまでの美しさは、もはや芸術……絵画のようです。


「さ、朝食にいたしましょうか。」


なんだか……朝から顔が少し火照ってしまいました……。


――


朝食の後はいつも通り、訓練をしました。

今の身体は、鍛える事が出来て嬉しいです。日に日に、身体能力が上がっているのが分かります。

昨日出来なかった事が、今日は出来たという喜び。

これも、マリーカさんが与えてくれている部分が大きいと思います。


マリーカさんは、手本の動きも綺麗で、説明も解りやすいのです。とても良い先生です。

でも……


「ユウナ様も、いつか本格的な武器術や体術を修めた方が良いかも知れませんね。スヴァルトの師事を受けられると良いのですが……。」


などと、時々言っています。

言法セイズの使えないエルフ、スヴァルト。そこだけ聞くと、私に似ているのかも知れません。ですが、スヴァルトは、様々な武器を扱って戦う肉体派の種族らしいです。


私の武器……ダーインさんの作ってくれた武器は、何にでも変化させる事が出来るすごい武器です。


ダーインさんは、最高傑作に相応しくダーインスレイヴという名前を付けた、と言ってました。


普段は、幅の広い短剣の姿だけれど、剣だったり、細剣だったり、槍だったり、弓だったり……本当に何にでもなれるのですが……


アルヴ族では、短剣か弓くらいしか使わないようで、他の武器術に関しては、スヴァルト族に習うのがいいという事なのです。


いつか機会があれば、そうしてみるのもいいかも知れませんね。せっかくの最高傑作も、遣い手が使いこなせないのでは、勿体ないですよね。


――


お昼からは、またリトちゃんと遊びに行きます。

森にも行けるようにということで、マリーカさんが装備を整えてくれます。


「じゃあ、行ってきます!ナイ、行こ!」


「ん。」


普段は置き物の様にじっとしているナイも、外出の時は付いてきてくれます。


ナイは、何も食べなくてもいいらしいのですが、それは力を周囲から吸収しているからという事で、じっとしている事が多いのです。


最初はそんな事知らなくて、具合いが悪いのかと心配になりましたが、そういうものみたいなのです。


「はい。お気を付けて。」


マリーカさんに手を振り、リトちゃんの家に向かいました。


――


リトちゃんの家は、二棟あって、片方が住居、もう片方が鳥小屋になっています。

お昼頃には鳥のお世話も一段落し、大体住居の方に戻っている事が多いです。


――コンコンコン


「リトちゃーん!」


――タッタッタッ……ガチャ


「ユウナちゃん。」


「遊びに行こ!昨日はゴメンね!今日は、お泊まりしていってね!」


「うん!」


リトちゃんは、満面の笑顔で出迎えてくれました。今日も可愛い。


「ユウナちゃん。元気そうだね。今日は、リトをよろしくね。森に行くなら、これ持ってくかい?」


フリッカさんも奥から出てきてくれて、籠を渡してくれました。甘い……とても良い匂いがします。何だろう?とても美味しそうです!包みで判りませんが、とても楽しみです!


「フリッカさん!ありがとう!」


「そんなに嬉しそうな顔見たら、作った甲斐があったってもんだよ。じゃ二人とも、気をつけて行ってきなよ?ナイも、二人を頼むね。」


「「はーい!」」

「任せろ。」


――


南の森で、お散歩です。

もちろん採取もしますよ!


「あ、ユウナちゃん!アレ見て!」


「えっ?なになに?」


兎が二羽、ぴょんぴょんと跳ねていました。夫婦かな?親子かな?片方が少しだけ小さいです。


「捕まえるか?」


それを見たナイが、狩人みたいな事を言っていました。狩り、楽しかったのかな?


「つか……つかまえないよ?!」


リトちゃんは、ナイの言葉に、わたわたと両手を振って、少し慌てていました。そんな仕草も、とても可愛いです。


私達が見ている間に、兎は何処かに行ってしまいました。

北の森は、大型動物の方が多いですが、この南の森には、小動物も沢山います。


不猟の時には、こっちでも罠を仕掛けたりするそうです。でも、今はウルさん達が頑張っていて、食料は沢山あるそうです。


「ユウナちゃん!あったよ!」


リトちゃんは、薬草や、果物なんかを見付けるのが上手です。今日も順調に集まっています。


「これ、なんの葉っぱだっけ?」


「これはね、バニラだよ!」


「そうだった!甘くなるやつだよね!」


「そうだよ。あ、お母さんがくれたのって、何だろ?」


「そろそろ食べちゃう?」


包みを開けてみると、パンケーキが入ってました。

フルーツソース仕立てで、とても美味しそうです!


「うわぁー……美味しそう……」


「あ、これならちょうどいいかも!」


と言ってリトちゃんは、

「水よ、氷よ……」

と、言法セイズを使ってバニラの葉をバニラアイスみたいにしました。

それを、パンケーキに乗せて食べるのです。

もう、美味しいしかありませんでした。


深い森の中で、気持ちのいい空気に囲まれて、可愛いお友達と美味しいスイーツ。今日も至福です。

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