第20話 賑やかな食卓は素敵です。


お家に帰ると、既に良い匂いが漂っていました。

これは、ご馳走の予感です!


「マリーカさん!ただいま!」


ドアを開けると、マリーカさんはちょうどテーブルの準備をしている所でした。


「ユウナ様。おかえりなさいませ。

あら、フリッカも来たのですね。」


「アタシもユウナちゃんに誘われてね。

手土産代わりにほら。卵持ってきたから。」


「それは助かりますね。」


「いや、急にお邪魔しちゃって申し訳ないよ。」


「いえ。そうなるのではないかと思っていましたから。」


そう言って微笑むマリーカさん。

テーブルを見れば、四人分の食器が既に用意されていました。

マリーカさんは、予知能力があるのかも知れません。すご過ぎます。


「マリーカさん!なんで分かったの?!」


「ふふ。ユウナ様ならそうされるのではないかと。」


……この人には、一生頭が上がらない気がします。

そしてそれと同時に、何だかとってもくすぐったい気持ちになりました。嬉しいような、恥ずかしいような。


「あはは。アンタ達、本当に母娘みたいだねぇ。」


フリッカさんは、そんな風に笑っていました。

それはなんだか、すごく嬉しい言葉でした。


「さ、ユウナ様。今日は、食事の準備はお任せ下さい。もうじきに出来上がりますし。

ユウナ様には、お客様のお相手をお願いしますね。」


「はーい!

フリッカさん!リトちゃん!こちらです!」


そうして、フリッカさんとリトちゃんに、テーブルに着いてもらいました。


――


「それでね、リトったら『友達と遊ぶよりお手伝いしてる方がいいよ』だなんてずっと言ってたのよ。」


「ちょっと、お母さん!そんな事言わなくても……」


「それが最近じゃ、ユウナちゃんユウナちゃんって……。そりゃ手伝ってくれるのは助かるけどね、まだまだ子供なんだからさ、たまには外で思いっきり遊んだりして欲しかったんだよ。だから、リトがそんな事言うだなんて、嬉しくってねぇ。」


「お母さん……。」


フリッカさんは、すごく優しい顔をして、リトちゃんを見ていました。なんか……そういうの、すごくいいな。

リトちゃんはリトちゃんで、ちょっと照れてるような、困ってるような顔をしてるのが、すごく可愛いんですけど。


「ふふ。フリッカ。それはユウナ様も同じようなものですよ。近頃は、リトちゃんリトちゃんと、もう毎日口にされておりますから。」


マリーカさんが、料理を運びながら、そんな事を言いました。確かに、思い当たるフシはあります。

だって、初めてのお友達なんだもん。前世での唯一の遊び相手は、お兄ちゃんだったし……。お兄ちゃん、元気にしてるかな……。きっと、大丈夫だよね。


少し昔を思い出して、しんみりしちゃったけれど、目の前には、どんどんとご馳走が並べられていきました。


「マリーカ……アンタ、王家に仕えてただけはあるね。」


「わ……美味しそう……」


フリッカさんもリトちゃんも驚いていました。


今日のメニューは、キノコと木の実の野菜サラダ的なもの、ムースっぽい何か、トロっとした感じのスープ、何かのステーキ、カルボナーラみたいなパスタっぽいものが、おしゃれな感じに並んでいました。


マリーカさんは、本気のようです。どう見ても家庭料理ではありませんでした。私も、食べた事が無いものばかりです。


「では、どうぞお召し上がりください。」


「はい!いただきます!」



――



四人での賑やかな食事の後。

リトは、泊まっていく事となり、ユウナの部屋に、二人で準備をしに行った。


残された大人二人は――


「なんだかアタシまで悪かったねぇ、マリーカ。」


「いえ。ユウナ様はお喜びでしたから。」


「ふーん。マリーカがねぇ……。まぁ、ユウナちゃんは良い子だもんね。

……王館で、何かあった?」


「そう……ですね。」


マリーカは、ぽつりぽつりと語り出した。


「ユウナ様が御生まれになられた時、私が御身をお取り上げし、産湯の儀も仰せつかりました。大変名誉ある事です。ユウナ様は、それはもう元気な産声をあげられて……。

そして、希望の樹の儀式にも随行いたしました。私の腕の中で、ユウナ様は、すやすやとよくお眠りでした。」


フリッカは、マリーカの話にただ頷く。マリーカは、その場面を思い出しているのだろう。目を閉じながらも、柔らかい表情を浮かべていた。


「希望の実を植えた直後、不思議な現象が起こり……ユウナ様は、何故かは解りませんが、急成長されました。

そして、ユウナ様の樹は枯れ果ててしまいました。

判定士によれば、ユウナ様は言法も扱えず、異能も判然とせず、更には、寿命までも短いと……

王は……フォルセ様は、そんなユウナ様を追放と決定しました。」


マリーカは、テーブルの上で組んだ手を、茫と見詰めていた。先程とは違い、その表情には影が濃い。


「ユウナ様は……ルーナ様とは、殆どお過ごしになる事が出来ませんでした。

それを、ユウナ様は、御恨みでは無い……と、仕方ないと……。まだ、御生まれになって間も無いというのに……。

ユウナ様が御生まれになってからというもの、私は全てを見ていたのです。両親の愛も受けられず、ただ追放されるなど……それでは余りにも不憫過ぎます。

ユウナ様をこの村にお連れしたのは、本当は私が王に希望した……御提案した事なのです。」


「そう……。」


「私も、愛情というものは、よく解っていませんでしたが……。」


「ああ、そういえばアンタの両親は……」


「ええ。竜族に。ですから、私は……

私では、力不足かも知れませんが……。」


マリーカは、そう言って、俯いた。

フリッカは、そんなマリーカの肩に手を置いた。


「マリーカ。アタシも、偉そうな事は言えないけど、リトの事でも、上手く出来ない事だらけだったしね。

でもさ、何が正解かなんて分からないけど、そうやって、子供の事で心を砕くのが、親ってものじゃない?

少なくともユウナちゃんは、アンタのおかげで今笑えてると、アタシは思うよ。

アンタは、立派だよ。立派な、母親だよ。」


「そう……でしょうか……。」


「ああ、そうだよ。

……なんなら、本人に聞いてみたらいい。

ね?ユウナちゃん。」


宿泊するリトの準備を終えたらしいユウナとリトは、階段の所で、立ち尽くしていた。

ユウナのその目からは、涙が止めどなく溢れていた。

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