第13話 ひと狩りいこうよ!


今日は、ウルさん達狩人に、実際の狩りに連れて行ってもらうのです。


狩りは、明け方前に行く事が多いそうで、私達はまだ暗い内に出発した。


日の出前の森は、木の葉の隙間から薄らと漏れる月明かりが照らすだけの、暗い場所。

淡い月光のカーテンと影絵の世界は、幻想的なんだけれど……やっぱり、ちょっと不気味。


「じゃ、説明するぞ!」


森に入ってすぐ、ウルさんが狩の役割の説明してくれた。


「ミュルク村のエルフの狩りは、通常3~6名位のチームで行う。」


「知ってるっすよ。」


ソリンさんは、少しむくれた様な表情をした。


「ソリン、今日はユウナちゃんが居るだろう。最初から説明するさ。黙って聞け。」


ウルさんは、いつもより更に鋭い眼光をソリンさんに向けた。

すると、ソリンさんは、バツが悪そうに「うっす。」と言って顔を逸らす。


「役割は、3つ。追い、囲い、仕手だ。」


追い……囲い……仕手?何となく、追いは想像が付くけど……。でも、狩りって、弓を射るだけじゃないんだね。


「追いは、獲物を追い立てる役割だ。

罠や、囲い、仕手の居る方に、上手く追い立てるんだ。」


ふむふむ。追い立てる係。大体想像通りだ。


「囲いは、罠の作成、設置や、獲物の誘導補助だ。

小さな獲物だと、囲いの罠で捕まえる事もある。」


罠!そっか!そうだよね。そういうのもあるよね。そんなの漫画とかで見たかも。うんうん。


「仕手は、射手だ。獲物を仕留める役割だ。

基本的には、潜伏して待ち伏せをする。

追いに誘導された獲物に気付かれないようにして仕留める。」


気付かれない様にって……!難しそう……!

とはいえ、私、武器持って無いし、あったとしても、弓も引けないんだけどね……。


「各々、得意不得意はあるんだけどな?一人前になるには、全ての役割が出来るようにならないといけないんだ。技術の継承と、向上の為にな。だから、役割はローテーションして割り振ってるんだ。

普段は、中型の獲物を狙う事が殆どだ。その場合は、均等に割り当てる。

小型を狙う場合は、囲いが多めで、仕手も兼任する。

大型は、滅多に狙わないが、追いの仕方が変わるな。追われる事になる。」


エルフの村はたくさんあって、でもミュルク村が狩りでは一番っていうのは、こうして頑張ってきたからなんだろうな。すごいなぁ。


「今日は、月光鹿を狙おう。時間的に、奴等はそろそろおねむの時間だからな。

ついでに、草兎用の罠も幾つか仕掛けるか。

これは草兎の通り道に仕掛けるだけでいい。

よし、ユウナちゃん。罠の仕掛け方を教えよう。

ちょうどそこに一つ道があるからな。」


と、ウルさんが指差した所は、じーっと観察してみると、茂みの一部に葉が薄くなっている部分があった。

どうもそこが兎の道らしいんだけれど……。こんなの分かんないよ!ウルさんってすごい!


罠を幾つか仕掛け、更に森の奥へと進んでいく。

方向的には、村の北の方だと思う。

道なんか無くて、ただ通れそうな木々の隙間を歩いていく。

その間隔は、狭くはなくて、2、3mはあるんじゃないかな?大きなナイでも普通に通れると思う。

ただ、地面は、張り出した木々の巨大な根が、ボコボコしていて、暗い中を歩いていると、ちょっと転びそうになったりする。

こんな所を走るんだ……?

狩りって、大変なんだなぁ……。


「よし、ここからは慎重にな。

役割は、俺とユウナちゃんとナイで追い、

ソリンが囲い、へーニルが仕手だ。

今日は、泉から追いを始める。へーニル。潜伏はこの辺りでいいか?」


「……ああ。」


「ソリン。へーニルが潜伏したら、場を作ってくれ。俺たちは、泉に向かう。」


「了解っす。」


「よし、ユウナちゃん。少し遠回りになるが、こっちだ。」


「はい。」


短く打ち合わせをして、この先にあるという泉の反対側に回り込むように移動することに。

ウルさんの後について、てくてくと歩く。なんだか、ちょっと緊張する。

しばらく歩くと、遠目にキラキラした場所が見えた。

そこに、慎重に近付いていく。

月明かりを反射する泉の畔には、二頭の立派な鹿がいた。

狩人さん達の家に飾ってある鹿だ。

きっと、今目の当たりにしている風景は、幻想的で美しいんだと思うけれど。緊張していて、それどころじゃない。前世だったら、倒れてるだろうなって思うくらいに、鼓動が早い。


ウルさんが、指で指示を出す。

私とナイが、茂み側から、ウルさんが、畔から、追い立てるみたい。

段々と浅くなる呼吸、震える指先、笑う膝……


「ユウナ。大丈夫だ。」


ナイが、そっと寄り添ってくれていた。

そうだ。なんだか雰囲気に呑まれちゃったのかも知れない。

落ち着かないと。連れてって欲しいって頼んだのは、私なんだし。


ウルさんが、指でGOサインを出した。


――ダッ!

鹿に向かって走る。

ウルさんは、泉の畔を走って、もうすぐ鹿に迫る勢いだった。

二頭の鹿は、身を翻して、茂みの方へ跳んだ。


「わぁぁあぁー!!」


私の少し前に、鹿が一頭飛び込んできた。

大声を出して、追い立てる。すると、鹿は反対方向に走り出した。


……もう一頭は……

キョロキョロと見回しながら鹿を追いかけると、先頭を走る鹿に合流するように、茂みからもう一頭姿を見せた。それを追う、ウルさんも見えた。

二頭は、列を成してへーニルさんの待ち構える方角に向かって行った。

すごく速い。

私も、頑張って走るんだけれど、全然追い付けない。

随分と引き離されてしまったけれど、ちゃんと走る!


――ガササッ!


あっ!?

不意に、視界の端から黒い塊が飛び出して……

――ドンッ!!

「ぐぅ……っ!!」

私の脇腹に衝突した。私は、その勢いで吹き飛ばされて、大木に背中を打ち付けて、そして地面に転がった。

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