第11話 ミュルク村はほのぼのしてる


ミュルク村に越して来て、一週間が経ちました。


――ビュッ!!……カーン!!ビュッ!!……カーン!!


「わぁー!すごーい!」


一瞬の風切り音、そして、的に突き刺さる乾いた音。

静かな森に、良く通るようです。谺する様にリズミカルに響く音が、なんだか気持ちがいい。


「ユウナちゃんもやってみるかい?」


この音を創り出しているのは、狩猟を得意とする村の北側に住むエルフの中でも、一番の腕を持つといわれているウルさん。狩猟隊の隊長さんです。

少し渋い感じの見た目で、眼光も鋭く、引き締まった身体付きをしていて、強そうです。


村で暮らし始めて一週間もすると、マリーカさんに案内してもらった時に会えなかった人達にも会えて、皆良くしてくれています。

ウルさんも、その一人。今日は、狩りの後の練習を見せてくれていました。


「やってみたい!」


「はっはっは!よしよし。じゃあ、ここを持ってごらん。そうそう。で、矢を番えて、グッと引き絞るんだ。」


ウルさんは、弓を持たせてくれて、撃ち方を丁寧に教えてくれました。

私は、言われた通りにやってみるのですが……


「ぐっ……と、ひっくぅー!ぐっ……うぅぅ~!ひっ……!ぐっうぅぅ~……!ダメだぁ~!かたいよぉ~!全然引けないよぉ~!」


「はっはっは!ユウナちゃんにはまだ早かったか?!」


「うぅ……」


全然引けませんでした。ものすごくカチカチです。ピクりともしない。ウルさんの腕の力って、どうなってるんですかね?私がひよわ過ぎるのかな……?


「まぁ、まだ生まれたばっかりなんだろ?その内出来る様になるさ!またおいで。教えてやるからな!はっはっは!」


そう言って、ウルさんは、私の頭を撫でました。

とても硬い掌でした。きっと、ずっとずっと頑張ってきた手なんだと思います。


あ!そろそろ卵貰いに行かなきゃ!


「ウルさん!ありがとう!また来るね!」


「おう!またな!」


ウルさんに挨拶をして、木陰でじっとしていたナイに声を掛け、南側に向かう事に。


「ナイ、行こ!」


「ユウナ。終わったか。」


――


ルクの広場を右手に東へ進むと、飼育小屋がある。

飼育小屋は、鳥が逃げるといけないので、開けてはいけない事になっている。だから、ノックしながら大きな声で呼ぶ。


――コンコンコン!

「フリッカさーん!卵くださーい!」


――キイィ

と、扉が開き……

「お母さんはいないよ。」

と、女の子が出てきた。


「あ、リトちゃん!おはよう!」


ミュルク村 には、子供のエルフはあまりいないんだけれど……リトちゃんは、13歳。身体の大きさは今の私くらい。その少ない子供エルフの一人。卵農家の娘さん。毎日お手伝いしてて、とっても偉いのです。


「ユウナちゃん。おはよう。卵、いくつ?」


「えっと、4つ!」


「4つね、はい。」


「ありがとう!じゃ、これ!」


「わ、今日は花菓子?美味しそう!」


「マリーカさんのお手製だよ!すごく美味しかった!フリッカさんと食べてね!」


「うん。ありがとう!またね!」


「またね!」


――


ミュルク村では、物々交換が普通でした。

というか、お金は争いを生むからという事で、禁止されているという事でした。

旅人の宿泊施設も、交易品を納めるだけみたいです。

お金が無いと、不便な気がするんだけれど、エルフは基本的に助け合って生活しているという事で、あまり必要性も感じないんだとか。


すごくほのぼのとした村だなぁと思います。なんというか、平和です。言法も、確かに皆使ってはいたんだけれど、生活を便利にするような使い方だったから、代用品を何とか作れば、私でも困らないかも知れないな、と思ったりしました。


――


「マリーカさん!ただいま!卵もらってきたよ!」


「ユウナ様。おかえりなさい。ありがとうございました。では、お料理をいたしましょうか。」


「はーい!」


今日のお昼ご飯の下拵え。


①卵を溶きます。

②黄色い花を細かくして、水に混ぜます。しばらく置きます。

③茶色い花と、黒い葉を搾ります。搾り汁は器に、花と葉は、細かくします。

④キャベツみたいな葉野菜を刻みます。

⑤お肉を薄切りにします。

①と②を混ぜます。そこに、④と⑤を入れ、空気が入る様にしてさらに混ぜます。混ぜ終わったら、熱した鉄板の上で焼きます。しばらくしたら、ひっくり返してさらに焼きます。

焦げ目が付くくらいで、③を掛けます。お好みでチーズを掛けてもいいです。


完成!エルフ風お好み焼き(ソース味)!

ドローミって名前らしいです。エルフの郷土料理みたい。


それにしても、エルフの村に咲いている花や葉は、なんというか……万能でした。

これでは、料理を覚えたと言い切れないかも知れないという不安が生まれるくらいに、万能なんです。

どちらかというと、この世界では、何が食べられる物なのかを覚えていく事の方が重要な気がしますね……。


――


お昼からは、ハーナルさんの所で防具を作ってもらう事にしました。服は、いくつかもらってきていたので、まだ良いかなーって。それに、日本だったら絶対しない事だったと思うし!


という事で、職人小屋の前です。

ここは、長くて広い軒下が作られていて、そこで作業している人もいます。

今日も、ハーナルさん達が、布を天日干ししていました。


「ハーナルさん!こんにちは!」


「あら、ユウナちゃん。こんにちは。欲しいもの決まったかい?」


「はい!動きやすい防具が良いです!」


「お!そうかいそうかい!よしきた!

ナーリ!フィアラル!仕事だよ!」


「「はい!」」


「ユウナちゃんの御祝いだかんね!気合い入れてくよ!」


「「任せて!」」


「じゃ、ユウナちゃん。デザインの打ち合わせしようか?」


「はい!」


ハーナルさん達は、久々の大仕事だと言って、とても張り切ってくれていました。

どんなのになるか、すごく楽しみ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る