第8話 マリーカ先生の青空授業:生活基礎①


朝。


森の木々はそよ風に踊り、小鳥が唄い語らう、ミュルク村の爽やかな朝。


少し開けてある丸い窓から入り込む、澄んだ空気は、少しだけ冷たくて、肺の中までも綺麗に洗い流す様です。

部屋に射し込む木漏れ日は、柔らかい風に踊る葉の動きに合わせて、キラキラと目の奥を擽ります。


おはようございます。ユウナです。

今日も朝からマリーカさんにお世話をされています。

なんでこんなにお世話してくれるのかな?と、少し疑問には思っていたのですが……。私、すごい事に気付いたのです。


そういえば、私、生後4日でした……。見た目は結構大きいのですが、実は赤ちゃんなのでした。ものすごく新生児です。そりゃお世話もされるというものですよね。


お医者さん?の老エルフも言ってたけれど、私が有り得ない急成長だったというだけで、普通のエルフはこんな事にはならないそうです。


希望の実を植えると、希望の木の芽が出るのですが、それと共に赤ちゃんは人間でいうところの2歳児くらいに成長して、自我と言葉を授かり、更に成長を遂げた頃に異能を授かる、というのが通常という事でした。


自我……といわれると、私は初日からあったかも知れないです。目が上手く見えなくて、やたら眠いという感じではあったのですが……


「さ、ユウナ様。お召し換えいたしましょうか。」


その声に我に返ると、マリーカさんは、手際良く着替えさせてくれました。

エルフの服って、ボタンが無くて、紐で結んだりするのですが、背中側に紐があるタイプだと、自分では結べない気がします。これは、大人でもお手伝いがいるんじゃないのかな……?


着替えの途中、明るい所でまじまじと自分の身体を見下ろしたのですが……

やっぱりあるのです。山が、二つ。

その山は、朝日を浴びて輝き、ぷるんと自己主張しています。

夢じゃなかった!朝からニンマリしました。


でも、前世では全然成長しなかった私が、こんなに急成長するだなんて、どうなっているんでしょうね?不思議です。


「さ、では、朝食にいたしましょう。」


着替えも終わったので、マリーカさんと階下に向かいます。

部屋を出たところに、ナイがお座りをして待ってました。可愛いなぁー。


「ユウナ。起きたか。」


「うん!ナイ、おはよう!」


階下に降りると、テーブルには既に朝食がバッチリ用意されていました。マリーカさんって本当にすごい。

今日のメニューは、サラダとスープとオムレツでした。サラダもシャキシャキで、スープは香りが上品で、オムレツにはチーズが入ってて、とろーり美味しかったです!


後片付けをお手伝いしながら、料理を覚えたいなぁと思って、マリーカさんに聞いてみたのですが、まだ早いと言われてしまいました。


私、普通の新生児じゃないから、出来るんじゃないのかなって思ったのですが、そういう意味じゃなかったというのは、後に明らかになるのですが……。


「では、ユウナ様。お昼までは、村をご案内いたしましょうか。」


「はーい!」


「ナイも、いく。」


三人でお家を出て……

マリーカさんの案内と説明をうけながら、村を見てまわります。

ミュルク村は、村長さんの家が村の中央にあって、北側が、主に猟師さん。東側が職人さん。南側が農家さん。西側は、旅人さんと、数件の空き家があるそうです。

村の入口は、北西方向で、マリーカさんの家は入口の近くにありました。


「ミュルクのエルフの狩人は、他の村より多く30名ほどおりまして、皆手練です。

とはいえ、ヴィヨンには手酷くやられてしまっていたのですがね……」


村の北側で、マリーカさんはナイをチラッと見ながら、こんな事を言っていました。


狩人さん達の暮らす家もログハウスでしたが、玄関の上辺りに、鹿だとかの首が飾ってありました。角が立派です。でも、誰も居ないのか、シーンと静まり返ってました。


「今の時間は、狩人は出払っていておりません。

東に行きましょうか。」


「はーい!」


狩人さんは、お仕事の時間だったようです。


東側に着くと、こちらは活気に溢れていました。

そこで一番に話しかけてきたのは、なんだかガッチリしたエルフの男性でした。


「お?マリーカじゃないか!戻ってたのか?」


「ええ。昨日。」


「なんだ?王家仕えはどうした?クビか?」


「いえ……。こちらのユウナ様と、ミュルクで暮らす事になったので。」


「ほーん。この嬢ちゃんとねぇ?」


「ユウナです。お世話になります。」


「おーおー!俺はこの村唯一の腕利き鍛冶師、ダーインだ。昔、ドワーフに弟子入りしてた事もあんだぜ?よろしくな!」


ドワーフ……?!といえば、背が低くて鍛冶が得意とかいう……?お兄ちゃんのやってたゲームに出てきてた種族だ!ほんとにいるんだねー!


「自分で腕利きとは、よく言いますね。」


「なんだ、マリーカ。お前のナイフだって昔作ってやっただろ?良く切れるって喜んでたじゃねぇか。

嬢ちゃんも、何か欲しかったら言えよな?歓迎の印って事で、作ってやるよ!」


「えっ?!いいんですか?!」


「あったりまえよ!」


と、ダーインさんが威勢の良い返事をしてくれたところで……


「ちょっとダーイン!アンタ、そんな可愛らしい子に何言ってんだい?ねぇ?お嬢ちゃん。

ユウナちゃんだっけ?アタシが服でも作ってやるよ!」


と、職人!って感じの女性エルフが。


「え?!服ですか!」


「ああ。服でも防具でも。布地や革ならなんでもいけるよ!」


「なんだよハーナル!お前も似たような事言ってんじゃねぇか!」


と、なんだかヒートアップしそうな空気を、マリーカさんがクールに止めました。


「二人とも。それくらいにして下さい。

ユウナ様、また機会もありますから、次に参りましょうか。」


やっぱり、マリーカさんってすごい!

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