第6話 新しいお家


「な……な……な……これは?!ヴィ……ヨン……?ヴィヨンを倒したのか?!」


村で一番立派な建物は、村長さんの家でした。

マリーカさんがノックをしたら、一人の老エルフが出て来たのですが……

クマさん……ヴィヨンを見て、尻餅を突いてしまいました。


「村長。ご無沙汰しております。マリーカです。

ヴィヨンは、こちらのユウナ様の飼われているナイが討伐しました。

ナイは、ユウナ様の優秀な護衛です。」


「お……おお……。マリーカ。久しいの。

ユウナ様とは……、あぁ、そうか、ルーナ様の……」


と、村長さんは、ゆっくりと立ち上がり、私を見た後に、視線をナイに移すと……


「な……け……け……けも……化物……?!」


ぷるぷるとナイを指をさしながら、また尻餅を突いてしまいました。


「おれ、ナイ。ユウナ、まもる。」


「この通り、ナイは忠実なのです。

ユウナ様に害を及ぼす事が無ければ、何程もありません。

そちらのヴィヨンの肉や素材は、提供します。村の皆様でお分け下さい。

ユウナ様は、王命により、この村に住む事になりましたので、よろしくお願いします。」


マリーカさんは、尻餅を突いたままの村長さんにテキパキと説明をしました。できるオンナって感じで格好いい!


「ユウナです。お世話になります。」


私もしっかりとお辞儀をしました。

すると、村長さんは気を取り直したように立ち上がって自己紹介をしてくれました。


「ミュルク村の村長、ヴィズ・ミュルクでございます。不甲斐ない所をお見せいたしましたな。

色々とお訊ねしたい事はありますが……

今日はお疲れでしょう。後日にいたしましょうか。」

と、村長さんは、私達を気遣ってくれました。


「では、村長。今日はこれで失礼します。」


「おお、マリーカ。皆には私から説明しておこう。」


そう言って村長さんは、優しい笑顔で私達を見送ってくれました。お尻……大丈夫なのかな?


――


「ユウナ様、こちらです。」


「わぁー……!」


マリーカさんに案内された家は、立派な家でした。

なんと、二階建てのログハウス!二階にはバルコニーもあるみたい!今は暗いから、あんまり分からないと思うけれど、明るい時なら素敵な景色が見えるんだろうなぁ……。


「さ、お入り下さい。」


「はーい!あ、ナイは……?」


大変です!ログハウスの扉は、明らかにナイより小さかったのです!これでは中に入れなさそう……。


「そうですね……。今のままでは入れないでしょう。扉の改築が必要ですね。しばらくは、外に居てもらわなくては……。」


「ナイ、まだ入れないんだって……。外で待っててくれる?」


「ナイ、大きい、だめか。」


ナイはそう言うと、ぼやっと紫色に光り……

大型犬くらいに小さくなりました。


「ナイ!小さくなれるの?!すごい!すごい!

マリーカさん!これなら大丈夫だよね?!」


「ナイ、小さく、なれる。」


「……は、はい。では、ナイも中へ。」


マリーカさんは、小さくなったナイを見て、少しびっくりしたような顔を一瞬見せたけれど、次の瞬間にはいつもの顔だった。……やっぱりすごい人だなぁ。


――ガチャッ……ギィィ


扉を開けてもらって、ちょっとわくわくしながら、中に入る。

ログハウスの中は、木の匂いに包まれて……何だか落ち着く感じだった。


内装も、素朴で質素なんだけど、オシャレな感じで、丸い窓とかすごく可愛い。なんというか、おとぎ話に出てきそうな家だった。こんな素敵な家に住めるなんて、ちょっと嬉しいな。


「わぁー!素敵なお家!」


「一般的な家かと……」


「そうなの?すごく可愛いと思うけど……」


「お気に入り頂けたのでしたら、嬉しいかぎりです。

お部屋など、ご案内いたしますね。」


「はーい!お願いします!」


マリーカさんに家の中を案内してもらう。

一階は案内があまり必要でもないような、ワンフロアの、キッチンダイニングリビング兼用みたいな造りで、奥の方に二階に続く階段と、もう一つ扉が……


そのもう一つの扉は、なんと……バスルーム!

大きな木製の浴槽があって、洗い場もすごく広い!

一般的なお家でこのサイズって……日本の家の浴槽の5つ分くらい有りそうなんだけどな……。エルフってすごい。


二階は、四部屋あって、バルコニーに出られる二部屋と、反対側の二部屋みたい。


「ユウナ様は、こちらの部屋をお使い下さい。」


それは、バルコニーに出られる部屋だった。


「え?!いいの?!」


「もちろんです。では、食事の用意をして参りますので、しばらくお寛ぎ下さい。」


そう言って、マリーカさんは階下へ向かった。

本当に……すごく良くしてくれる。王命?なんだろうけど、とてもありがたいな。もし、独りで追い出されてたら、今頃どうしてただろう……?きっと困ってただろうな……。私、なんにも出来ないし。


――カチャ


バルコニーに出てみる。外はもうすっかり黒く塗り潰されていて、遠くは全く見通せない。真っ暗な森は、ちょっと不気味に見える。

街灯なんて無い村は、窓から漏れる明かりと、月明かりが淡く……あれ?!月が……すっごく大きい!

っていうか、小さい月もある……?

良く見たら、夜空が幻想的で、すごく綺麗だった。


――トコトコトコ


「ユウナ。ごはん、できた。」


「あっ!ナイ!ありがとう!」


ナイが呼びに来てくれたので、階下に降りると……

すごくいい匂いがしていた。


「わぁー!いい匂いー!」


「ユウナ様。お待たせ致しました。どうぞお掛け下さい。」


マリーカさんに促され、テーブルに着く。

テーブルは、巨木の一枚板で出来ているもので、ものすごく格好いい!……前世のお父さんが欲しがってた物と似ている。

テーブルクロスは無くて、ランチョンマットの様な物が敷かれた上に、いい匂いの正体、シチューらしき物と、クロワッサン芋がお皿に盛られていた。


「いただきます!」


「どうぞ、お召し上がりください。」


ナイは、やっぱり食べないみたいで、玄関近くで伏せをしてじっとしている。美味しそうなのにな。


私はシチューを、木のスプーンで口に運ぶ。

口に入れた瞬間に広がる、フローラルでフルーティな香り。そして、少しスパイシー。初めての味だけど、すごく美味しい!


「これ、すごく美味しい!」


「お口に合いましたか。何よりです。」


マリーカさんは、そう言ってにっこりと微笑んだ。

とても素敵な笑顔だった。

私も……こんな風に、素敵なオトナのオンナになれるかなぁ……。頑張らなきゃね!

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