第4話 ペットは飼ってもいいのかな。


話は少しだけ遡ります。


――ガサガサッ


「ユウナ様!あれは……化物けものです!」


激しく音を立てた茂みから現れたのは、紫色の毛並みをした、二本の大きな角を持つ……銀の鬣を靡かせたライオン……のようでした。そんなライオンはいないと思うんだけれど……。私の知っている範囲では、ライオンに似た姿です。ライオンより、かなり大きそうだけど……。


「ゴルルルル……」


唸り声を上げながら、紫色の化物と呼ばれたソレが、ゆっくりと歩み寄ってくる。

私は、びっくりし過ぎたのか、恐怖……はあまり無くて。


「あ、あのう……。あなた、ライオンさん?

こんな所で何してるの?」


と、聞いてしまった。

だって、ライオンが森にいるなんて、変だよね?

ライオンはサバンナでしょう?学校にはあんまり行けなかったけど、図鑑は見てたから、私だってそれくらいは知ってる。


「ユウナ様!なにを……?!お早くお逃げ下さい!」


マリーカさんは、すごく慌ててるようだった。

ライオンさんは、私が話しかけたら、お座りをした。

そして、私に質問をしてきた。つい話しかけちゃったんだけど、会話になるなんて思ってなかったから、ちょっと意外だった。そして内容も意外だったな。


「おまえ、おれ、こわくない?」


「えっ……?怖がるような事、するの?」


「おれ、しない。」


「じゃあ、怖くないよ。」


「そうか。」


「そうだよ。」


「おれ、おまえ、まもる。」←こうなりました。


紫色の角ライオンは、琥珀色の綺麗な瞳でした。

その綺麗な瞳で、仲間になりたそうにこちらを見ているのです。どうしたらいいんだろ……?


「一緒に来たいって事?」


「おれ、おまえ、まもる。だから、いく。」


どうしようかと、マリーカさんを見ると、なんだか固まっていた。困ったなー。こんな大きい子、飼ってもいいのかな?新しい家は、広いのかな?


「あなた、お名前は?」


「なまえ……?ない。」


ないんだぁ……。あれ?もしかして、ナイって名前なのかな?うん。きっとそうだよね!


「ナイっていうんだね。私はユウナ。よろしくね。」


「……おれ、ナイ。おまえ、ユウナ。

ナイ、ユウナ、まもる。」


やっぱりナイだった!良かったぁー、早とちりしなくて。

でも……ナイは一緒に来る気満々みたいだけど、マリーカさんに許可貰わないとダメだよね……。

そう思って、固まったままのマリーカさんを、ゆさゆさと揺り動かしてみる。


「マリーカさん。マリーカさん?」


「……はっ!ユウナ様!私とした事が……放心しておりました……。」


「マリーカさん、この子、飼っても……いい?」


「……へっ?」


「一緒に来たいって……ダメ?」


マリーカさんは、呆気に取られた顔をした後、ものすごく難しい顔をしました。マリーカさんもすごく美人なのに、普段はすごくクールビューティって感じなのに、その表情の移り変わりが、ちょっと……面白かった。


――


――ダッダッダッダッ


「まさか……化物を飼うなんて……。ましてや化物に乗るだなんて……。」


「わぁー!ナイ!速いねー!」


「ナイ、はやい。ユウナ、らく。」


私とマリーカさんは、ナイに乗せてもらって、目的地に向かう事に。

マリーカさんは何だか少し青い顔をしているけれど、乗り物が苦手なのかな?

でも、ナイはすごく速くて、予定よりも早く着きそう。

歩いて行くと、二日の距離だって話だったけど、もしかしたら今日着いちゃったりして。


「……ユウナ様。そろそろお食事にしませんか?」


マリーカさんは、少し青い顔をしながら、そう提案をしてきた。

言われてみると、確かに何も食べてなかった……

あれ?甘い実を齧ってから何も食べてないよ!

そういえばそうだった……。

その事実に気が付いて、私はちょっとしょんぼりした。


「ナイ!ご飯だから、止まって?」


「わかった。ナイ、とまる。」


ナイから降りると、ナイは木陰で伏せをした。

マリーカさんは、鞄から何か色々取り出したりして、準備を始めてくれている。


私は、改めて風景を見渡してみた。

ナイの背中に乗って、だいぶ進んだと思うんだけど、見渡す限り、周りには樹しか無くて。本当に大きい森なんだなと思う。時々栗鼠みたいな小動物や、小鳥だとかが木の枝の上にいたりする。


こんなに大自然!みたいな所、初めてだなぁ……。

なんだか空気が気持ちいい。


本当に生まれ変わったんだなって、改めて実感する。

前の家族にはもう会えないんだなぁ……と思うと、とても寂しいけれど。

今の家族にも、多分もう会えないんだろうけれど。

マリーカさんは一緒に居てくれるみたいだし、ナイも飼って良いって言ってくれたし。

悪い事ばかりじゃないよね。


「ユウナ様。間もなく準備出来ますので。こちらにお座り下さい。」


「はーい。」


マリーカさんの声に振り返ると、ピクニックとかに使いそうなシートが敷かれてて、そこには美味しそうな果物がいくつか……

マリーカさんは、薪に火をつけるところだった。


「火よ。我が望みに応え、その力を示せ!」


マリーカさんがその言葉を発すると、ボッと音を立てて薪に火がついた。


言法セイズだっけ。すごいなぁ。魔法……だねぇ。

私は使えるようにならないのかなぁ。なんだか異常なんだっけ。循環がどうとか。治療法とか無いのかな?

今度は100年も生きられるんだし、歩いたり走ったりも出来るんだから、探してみようかな?治療法。

ナイも居るしね。

新しい家に着いたら、マリーカさんに、料理とか教えてもらおうかな。きっと必要だよね。旅をするにも、普通に暮らすにも。


「ユウナ様。準備が整いました。」


「はーい。」


あれ?この匂い……

火にかけられていた鍋に入っていたものは、チーズだった。とろっとろに、溶けたチーズ。


「ユウナ様。どうぞ。」


「いただきます……。」


手渡されたのは、サツマイモみたいな形をしたものを、火で炙って表面を焦がしたものだった。

それを、とろっとろのチーズに潜らせて……

恐る恐る一口。


「んん~~……!!!美味しい……!!!」


「お口に合いましたか。良かったです。」


サツマイモみたいなものは、クロワッサンの様な味がした。表面がパリパリで、中がふわっふわ。それを、とろっとろのチーズに潜らせるわけだから、美味しくないはずがないよね……!


「マリーカさん!ものすごく美味しいです!!

あれ……?ナイは?食べないの?」


ナイは、木陰で伏せをしたまま動いてなかった。


「ナイ、食べない。じっとする。元気でる。」


「へ……?そんなのでいいの?」


「いい。ナイ、じっとする。ユウナは、食べる。」


「ユウナ様。そのような存在はあります。現神などもそうです。」


「現神……?」


「はい。超常の力を操る者達です。滅多に出会う事は無いでしょうが。

さ、これもどうぞ。」


渡された果物は、小さな林檎の様な見た目だったけど、食べると、瑞々しい白桃の様な味がした。

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