第3話 なんということでしょう


なんということでしょう。

樹齢50年程と見紛うばかりの立派な樹。

その樹は謎の光によって、古式ゆかしい枯木へと変貌を遂げました。

その枯木は、その実を植えたエルフに残された時間を表しているそうです。


そうです。ユウナです。漸く意識がはっきりしました。

どうやらエルフという種族に生まれ変わったようです。


エルフ。兄に買ってもらったゲームに出てきてた気がします。魔法が得意みたいなイメージですね。

あ!あと、長生き種族、みたいな。

そうそう。新しいお父さんも、新しいお母さんも、物凄く美形でびっくりしました。線が細い感じというか。私もいつか、あんな風になるんですかね?

そこには少し期待したいかな?と思うのですが……。


そんな事よりも、あきらかにここ、地球じゃないと思うんですよね……。

前の家族に会う事は出来ない気がします。

あの変な神様は、可能性はゼロじゃないって言ったけど……

宇宙船でも造って会いに行けって事だったのかな……。

ちょっと落ち込みました。


そんな時にこんなお知らせは、ちょっとどうなのかと思うのですが。


私は、"希望の樹"の一件の後、老エルフに預けられた。

医師……の様なものらしく、診察のような事をされた。

しばらくすると、この世界のお父さんが来て、話を聞く事になった。この世界のお父さんは、フォルセという名前で、エルフの王様なんだって。


「王よ。」


「何か分かったか?!」


「はい……。おそらく、ユウナ様は、余命100年程かと……。そして、希望の樹は、実を付ける事は適いませぬ。」


「な……なんという事だ……!では、ユウナには跡を継ぐ事は出来ぬと?」


「そう、なりますでしょうな。」


「異能は?!樹からの恩恵は?!」


「それですが……、判然としません。何かしらあるようですが……。それよりも、言法セイズが使えぬかと。どうも……力の循環が上手くいっておらぬようで。」


この老エルフは、決して嫌な人ではなくて、むしろ親切だったと思う。

一々質問する私に、ちゃんと答えてくれたから。


それによると、エルフは、伝説に出てくるような人だと、二千年くらい生きたとか。

異能と呼ばれる、様々な力を持ってるとか。

言法セイズという、言葉の力で現象を起こす魔法みたいな力を使えるとか。

そんな事を教えてもらった。


そんなわけで、私は、余命100年(エルフの感覚では人間の10年くらい)、異能はあるみたいだけどよく分からない、魔法は使えないっていう、ダメダメエルフという事みたい。


変な神様は、言ってた。

今の身体より長生き出来るようにしてあげるって。

確かに、13年しか生きられなかった前世より、すごく長生きだよね、100歳って。

でも、せっかくエルフになったのに、魔法も使えないなんて……。聞いてないよー!


その日、お父さんの私を見る目が、とても哀しそうで、怖かった。


――


――カッカッカッ

木製の廊下を足早に歩く音が響く。


「あなた!待って下さい!本気なんですか?!」


「ああ。もう決めた事だ。」


何かを決意したらしいフォルセに、追い縋るルーナ。

その足音は、とある部屋の前で止まった。

ユウナに与えられた部屋だ。

フォルセは、ノックもなく乱暴に扉を開けた。


「ユウナ!」


「あ、お父さん。」


フォルセは、ユウナの姿を見た一瞬、たじろぎそうになった。が、悩む間を作る前に、次の言葉を発した。


「お前は、追放だ。王位継承権も、剥奪する!」


「うぅあぁぁ……!あなた……!どうして……!」


部屋まで追い縋って来ていたルーナは、その言葉を聞いて、泣き崩れた。

だが、ユウナの表情は、あまり変わらなかった。


「そっか。分かりました。

お父さん、お母さん。短い間だったけど、お世話になりました!

それで、私、どこに行けばいいのかな……?」


あまりにもあっさりとして、何事でも無いというその態度に、フォルセの方が面食らってしまった。


「あ、ああ……。

……ここからは離れた場所にはなるが、マリーカの故郷で暮らせ。マリーカにも話は通してある。一緒に向かうかいい。」


「はい。分かりました。ありがとうございます。

じゃ、すぐに向かいますね!少し着替えとかもらってもいいですか?」


「あ……ああ、その程度……好きにするがいい。」


――


樹、木、樹、木、見渡す限り、大きな樹ばかり。

館は、王城で、周りにあったたくさんの木の家たちは、城下町って感じなんだろうけど、あんまりそんな感じしなかったな。村?みたいなイメージかな?


それにしても、転生っていうのかな?

転生してすぐに生家を追い出されちゃったなー。

やっぱり、世界が違うと、障害者に対する扱いって違うんだねー。


でも、不思議な感じ。

魔法は使えないかも知れないけど、私、自分で歩いてる!

歩いても、全然苦しくない!

こんな事、した事無かったから、ちょっと楽しいかも……!ふふ。


「ユウナ様。此度の事、どうかフォルセ様……お父上をお恨みなさらぬ様……。王としてのお立場での、苦渋の決断だったのです。」


「えっ……?私、全然恨んでませんよ?わざわざマリーカさんまで付いてきてくれて、住む所まで用意してくれて。むしろ感謝してますよ!」


それに、急に成長して、前世くらいの大きさになってるのも、すごく嬉しい。ズルした気分。


「は……はあ……。ユウナ様は、随分と御理解が深いのですね……。」


「いえいえ。そんな事より、マリーカさんまで巻き込んでしまって、ちょっと申し訳ないですよ!」


「そんな事は……。」


マリーカさんは、それから申し訳なさそうな顔をして黙ってしまった。


多分だけど。私の寿命が尽きたら、マリーカさんは、館に戻るんだと思う。

普通のエルフにとったら、100年なんて、ほんの僅かな時間だから、ちょっとした里帰り感覚くらいなのかな?

むしろ、そう思ってくれてる方が、私も楽だけど。


それにしても、自分の足で歩く森林浴って、すごく気持ちいい!

なんだか、冒険してる気分。

これからどうなるか分からないけど、動けるってだけでも色々出来そう。

ちょっと頑張ってみようかな?


――ガサッ


左前方の奥の茂みから、葉が擦れる音がした。


「ユウナ様。何かいるかも知れません。ご注意下さい。」


マリーカさんは、腰に付けていたナイフを抜いて、物音がした方向を注視している。


あぁ~!こんな時ってどうしたらいいんだろ~!

分かんないよ~!

あ!そうだ!走れるんだ、この身体は!

何かあったら逃げたらいいんだよね!


――そう考えていた時期が、私にもありました。



「おれ、おまえ、まもる。」


紫色の毛並みをした、二本の大きな角を持つ……銀の鬣を靡かせたライオン……が、何故だか仲間になりたそうにこちらを見ていました。

なんということでしょう……

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