第28話 魔法石編 その5 試写会ではなく・・・
「私は不幸にも、パティさんの新人戦士試験を見逃してしまいました!」
「ああ・・・あン時、博打にウツツを抜かしていたおめえが悪い。」
パティにとって、オッサン二人の会話は酒場で聞こえる世間話。
だが、それは邪魔にならない。
快適な場所を提供してもらった事もあり、銃の整備は捗っていた。
そして、二丁のライフル型の銃の手入れが一段落ついた時、
「・・・・・・パティさん、話し聞いてましたか!?」
「!?」
すっかり銃の整備に没頭していたパティだった。
「大事な話があるんだとよ。もう一度聞いてやってくれるか?」
「分かりました。」
ギルマスの話とは、すなわち依頼の件だった。
しかも、ハンターズギルドから直々だと言う。
仕事というからには当然のこと、正式な書類も用意されていた。
しっかりと目を通して見るパティ。
「・・・なるほど、〝試射会〟という訳ですか。」
依頼の内容は単純明快なものだった。
指定された「動かない」標的。
指定された〝出土品拳銃と猟銃〟。
指定された〝出土品銃弾〟。
ただ、それらを使用するだけ。
もちろん、明確な理由もあった。
戦力となる威力なのかどうか、実際に見て確認したい。
ギルマスであるバックの個人的な要望なのは痛いほど理解していたパティだったが、
次の文章を見た時、これはもう引き受けざるを得ない・・・と、思った。
報酬自体、初心者向けクエスト的な扱いなので大した額ではない。
目を引いたのは〝オプション〟という項目。
{ 魔法石採掘クエストの受注、その権利の譲渡 }
「・・・・・・」
パティは依頼書を見ながら、再び何か考え事をしているようだった。
そして・・・
「ティッカーさん、お願いがあります。」
「ほぉ、何でしょうか?」
パティはエムとケイティの方を向いた。
「あの、お二人の参加を認めてほしいんです。」
少しの間があったが・・・ 「いいですよ。許可しましょう。」
ぱあっと、歓喜の表情を見合うケイティとエム。
すかさず親方のツッコミが入る。
「おめえら、勘違いすんな。これは試験の許可が降りただけだ。」
「ああ、そうそう!」 と、ギルマスのバック。
「依頼書に記載はありませんでしたが、会場はこのあいだの新人試験場で執り行われますので! では、よろしくー。」
親方は茶を一服すすった後、エムとケイティの方を向いた。
「さてと、話してもらおうじゃねえか・・・ なんでここに来た?」
「おじいちゃん、違うの! 聞いて!」
「・・・言い方を変えるか。 なんで、このギルドで戦士登録しようと思った?」
「じっちゃん、俺が悪いんだ!あんな広告に手紙を出してしまったもんだから…」
「待て待て!! ちゃんと順番に話しやがれッ!!」
改めて順序立てた彼らの話。
それまでは両親の農場を手伝っていたエムとケイティだったが、
家を出る、というより出ざるを得ない状況に陥ってしまったという。
エムとケイティは町へ食材の買い出しに出かけていて、二人が戻ってみると・・・
本来なら普通に帰宅するはずの家が、原型を留めていなかった。
何かの災害の直撃を受けたような瓦礫の山。
負傷した戦士たちに応急処置の回復魔法を施す魔術師。
到着した救急馬車に運ばれる、村人たちと戦士。
畑に作物は無く、焼き畑農業にしてはいい加減な処置に見えた。
要するに焼け野原。
矢が刺さっている、黒く焦げた小動物らしき死体の数々。
大きさは7~8歳の子供くらい。 そのような比較ができたのも・・・
人間の形に似通っていたからだった。
しかし、その形相は人間のものとは大いに異なっていた。
「何でコイツらがここにいるんだ??」
「本来ならば、ここに生息している種類のモンスターじゃないはず。」
「何らかの方法で海を渡って来たとしか思えない。」 …等。
いずれも、助太刀に駆けつけてくれたベテラン戦士たちの話だった。
「お前たちの両親は無事に救出できた。 命に別条は無いが… 長期間の入院が必要だそうだ。こう言っては何だが、今後の身の振り方をギルドに相談した方がいい。」
そう言っていたのは顔見知りの弓使い。
家と農場を失ってしまい、このままでは生活できなくなってしまうのは確実だった。
でも、エムとケイティはギルドに行く前に・・・
病院に行って両親を見舞うのが先、と思った。
病室のベッドに寝かせられている両親。包帯とギプスに覆われている。
父親はエムとケイティを見かけると、開口一番こう言った。
「おまえたち、ここはもういいから… ギルド行って仕事見つけてこい。」
「父さんね、家と農場… 手放すことにしたんだって。」
おそらくは入院費でいっぱいいっぱいなんだろう、というのは予想できた。
家の建て直しと農場の復興だって、補助金は多少出るかもしれないが・・・
それでも、費用は相当かかるはず。
とてもじゃないが、二人を養う余裕なんて無い。
「そうだ! じっちゃんに相談しようよ! なんとかしてくれる…」
「それはダメだ。親父に迷惑をかけるわけにはいかない。」
「茨の道の城国よね?確か。重要な役職に就いているのに、悪いわよ…」
「だから… 親父には手紙を出すな。これは絶対に守れ。いいな?」
「あたしたちの事が知られたら、仕事をほっぽり出して来ちゃうもの。」
「まぁ、こんな形になってしまったが… 今、この時が自立する時なんだ。」
「そんな訳だから… がんばってきなさい。」
エムとケイティは反論らしい反論をさせてもらえなかった。
「・・・・・・あのバカどもがッ!! その病院の場所、教えろ!!」
「おじいちゃん、あのね・・・ 言いにくい事なんだけど・・・」
「父さんと母さん、去年の初めに退院して・・・で、今年ようやくリハビリ
施設も退院できるって、ギルドの伝言板に出ててさ・・・」
「だから、それ一昨年の事なの・・・ おじいちゃん、本当にごめんなさい!」
親方は呆れ果て、開いた口が塞がらない状態になっていた。
テーブルに並べてある銃とライフルを一通り整備し終えたパティ。
少し手持ち無沙汰になったのか、二人に声をかけた。
「お二人は、ここに来る前はどこにいたんですか?」
「そうだった! そのことも話しておかなきゃね!」
「とにかく、ギルドへ行って色々相談しなきゃね! って事で、俺たちに何かできる
仕事はありますか? と、受付さんに聞いてみたんだけど・・・」
「そう簡単に見付かる訳なかったの。とにかく、条件が引っかかるものばかりで。」
「相談係の人によると、何か魔法をひとつ修得していれば、職業紹介できるそうなん
だけど・・・ 俺たちはそんなの何も無かったし。」
「魔法を何かひとつでも覚えればと聞いて・・・あ、そうか!と閃いたの。」
「俺は魔法学校だと思った、真っ先に。でも、よく聞いたらそうじゃなかった。」
「定期的に適性検査や魔術試験が実施しているみたいで、それに合格すればグレードに応じた国家資格がもらえるって聞いて、これだ!と思ったんだけど・・・」
「正式な紹介状ってヤツが必要だって。まぁ、そう簡単にはいかないよな。」
「で、いつまでもあたしたちに構ってられないって感じで席を外したんだよね。」
「相談係の人、どっかに通報するって思ってたよな!あの時は。」
「そしたら、掲示板に貼ってあった紙を持ってきて、こんなので良ければ紹介状を
出せますよって見せてくれたのが・・・」
◆ 研究施設の手伝い(住み込み) 三食付き 魔法が学べる 資格試験要相談 ◆
「相談係の人に言われた、〝お給料は出ないそうなんですが・・・〟には、ちょっと
驚いたな。」
「あたし、それでもいいです!ここでお願いします!!って叫んじゃった。」
「まぁ、背に腹は代えられないってヤツだったから、その時の俺たちは。」
「で、相談係さんが雇い主の人を呼んできてくれて・・・すぐに面接!」
「となりの旅館に泊まっていたらしいんだけど、待っててくれてたのかな?」
「それはそれで、ありがたかったよね! 即採用までしてくれたし!」
「こうして俺とケイティは馴染みの〝お袋の池村〟を離れ、向かった先が・・・」
「〝奇数の宝玉国〟でしょ! それにしても、ワラビー村は遠かったね~。」
「おまえら、そんな所に行ってたのか・・・」
ドアがカランコロンと開き、おかみさんとコンタスが帰ってきた。
話は一旦保留にされ、並べてあった銃を片付けるパティ。
テーブルは食卓へ変わり、賑やかな夕食となった。
夕食が済んで、食器の片付けを手伝うパティとケイティ。それとコンタス。
「エム、まだ・・・話は終わってねえよな?」
「うん、続きは明日の試射会が終わってから・・・で、いいだろ?」
「ああ、忘れんなよ!」
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