第23話 ギルド編 その23 荒ぶる川の話 〆

その狼型魔獣の性格的傾向・・・とでも言うんでしょうか?

ブドーをそこら辺に生えている木としか認識できてなかった感じでしたし、

コンタスを、いわゆるリザードマンと見ていたのかどうか分かりませんが

生理的に毛嫌いする傾向にあったようです。


と、なると・・・

標的になるのは、いかにも狩りがしやすそうな弱っちい人間のあたし。


9体いるうちの5体はブドーが川へ葬り去り・・・

4体はあたしの銃で仕留めました。


これで全部倒したんでしょうか?

それにしても、川岸に銃声が鳴り響いたのに誰も・・・


再び、カタカタカタッ!! と、ドレジャの警戒音です。


ああ、やっぱりまだいたんだ・・・ で、このパターンってヤツは・・・

のそっと・・・手下の3倍はありそうな、おそらくボスなんでしょう。

黒土のように黒く、目つきだけがオレンジ色で・・・よだれダラダラ。

そいつは手下と違い、ブドーを敵だと認識したようでした。


牙をむいて飛びかかってくるボス。

ブドーのマントに牙がかかる寸前・・・


大太鼓を一発、思いっ切り打ち鳴らしたような音が川岸に響きました。


ボスの鼻っ先が上を向いた、その瞬間を逃す訳にはいきません。

あたしは即座に引き金を引きました。


弾丸はボスの顎の下に命中、脳天を突き抜けたみたいです。


魔獣の類は、確実に息の根を止めなければならない。

何故なら・・・

死んだふりをして油断させ、反撃するヤツが多い。

そのせいで、過去に何人もの冒険者が犠牲になった。

死にたくなければ・・・

必ずトドメを刺せ! これが鉄則だ。


あたしがハンターになりたいと言った時に・・・親方から聞かせてもらった

・・・言わば金言です。


そして、今回のトドメ刺し役はブドー。

あたしが合図すると、巨大なハンマーを打ち付けるような音。

足元に振動も伝わりました。


かなりグロいのですが、状況を確認しなければなりません。

狼だった顔の輪郭は、ほぼ残っていますが・・・

かなり歪(いびつ)になっています。

周りに飛び散った血、牙、脳ミソの一部、目玉。

死後硬直なんでしょうか? 前後の足がピンとまっすぐに伸びています。

ピクピクンと痙攣する様子も見られませんでした。


さて・・・ 焚き火をしないと。

ワンコに相手をしてもらえなかったコンタスが、多少キレ気味で薪割り

してくれた元小舟の薪。

それを櫓(やぐら)状に組んで、その中央に枯れ草を詰め込みます。


ここで肝心な事をド忘れしている自分に、あたしは気付きました。


「何か火をつけるモノ・・・無い?」 まあ、ダメもとです。


ドレジャの蓋がしばらく半開きでした。


最初、呆れられてると思ったんですが・・・

例のごとく、何かをペッと吐き出したんですね。


受け取ったのは・・・ 何かチープさを感じる、*拳銃の形をした物。


撃鉄が真後ろにあり、銃口には宝石のような物が埋め込まれてました。


「え・・・ こんなの、あったっけ?」  *スターターピストルに酷似


前から分かっていた事なんですが、返答はありません。


見た感じ、他の使用方法が全く思い浮かばなかったので・・・

仕方なく撃鉄を起こし、引き金を引いてみました。

すごい銃声が響く訳でもなく、ただカチッと音がするだけ。


「!?」


何度かやってみて気付いた事がありました。

物は試し・・・

横に銃口を向け、銃を真横に見る形で引き金を引いて見ます。

注目する所は銃口の先端部。


カチッ!と音がした瞬間、その銃口先端部付近の光景に・・・

〝揺らぎ〟が見えたんです。


「これって・・・」

何だかできそうな気もするし、無駄骨かもしれない。

でも、これしか方法がないのなら、やってみるしかない。

それに、ドレジャがハズレを引いた・・・なんて事は一度もなかった。


詰め込んだ枯れ草に至近距離で銃口を向け、引き金を引きました。


カチッカチッと・・・ 撃鉄を起こしては引き金を引く。

その繰り返し。


あたし何やってんだろ・・・ 寒いなあ・・・

と、心がへし折られる寸前・・・


とうとう、煙が立ち上り始めました!

右手人差し指が疲れてきたので、左手に交代です。


ようやく、枯れ草に火が付きました。

こうなると、火は一気に立ち上って行きます。

2艘の小舟の木材を全部裁断し、薪を櫓のように組んだ焚き火。

塗ってあった塗料も一緒に燃えているので煙もすごいのですが、

熱量もけっこう来ているので・・・

上着を脱いで、手で広げて干します。

と、その前にポケットの中を確認。

14年式とアレンはちゃんと入っていました。 

あんな事があったのに、よく紛失しなかったなと思います。

けど、思いっきりずぶ濡れしちゃったからなあ・・・


「ドレジャ、これってお願いできる?」

すると、布の袋が出てきました。


「ああ、これに入れろって事ね。」


手で広げて干した上着から湯気が出始めた時、遠くから声がしました。


「だいじょーぶですかああーーーっ!!??」


つづら折りの石段を駆け下りてくる、白衣を着た少年。・・・でしょうか?

見た感じ、敵意は感じられませんでした。


「・・・こ、ここは危険です!! 〝立入禁止 狂犬病犬出没注意〟の看板、

見えなかったんですかっ!?」


道理で・・・

人の姿を見かけなかった理由はそれでしたか。


「狂犬病犬って・・・ アレの事?」 

と、あたしが指さした方向を見て・・・


「え・・・えええーーーーっ!!??」


そんなに驚くという事は・・・ まあ、確かに危険な魔獣だったけど。


「え・・・えええーーーーっ!!??」


いちいち驚いてうるさい子だなあと思っていたら・・・

そうか、コンタスとブドーを初めて見たからか。  納得しました。


「と、と、とにかく! 先生呼んできますので、ここで待っててください!」


誰かを呼んでくるという事は・・・ 援軍が来る可能性もある。

それなりの準備はしておくべきだと思いました。


上着が乾いてきたので、ズボンも干しておかなきゃ・・・

でも、その前にブーツを脱がないとズボンも脱げない。

間違いなくブーツの中は水浸し。

一度、キッチリ乾燥させてから履き直さないと気持ち悪い。

理由はよく分からないんですが、きっと衛生的に良くない。

そんな気がしました。

ここの地面に素足を直接つけたくない・・・

じゃあ、どうしたらいいのかな・・・

そう思いながらブーツの紐を解こうとしたら。


「お待たせしましたああーーっ!! みなさん乗ってくださーーい!!」

の、よく通る声。


ん・・・ 乗ってください?

「馬車、用意してくれたの?」と聞くと、


「いや、そうじゃないんですけど・・・とにかく、乗ってください!」


いつまでもこんな場所にいたくはなかったし、それに・・・

新たな情報も何か得られるかもしれない。

案内されるのか、それとも連れて行かれるのか・・・

でも、ここはひとつ乗ってやろうじゃないか、と思いました。


詰所にあったバケツで川の水をくみ、焚き火の火を消し・・・

コンタスにドレジャを抱えて運んでくれるよう頼みます。


「言い忘れてたんだけど、草むらに白骨死体があったのは・・・」

「え、そうだったんですか?」

「ギルドか自警団に報告した方が・・・」

「わかりました! それを含めて先生がなんとかしてくれると思います。」


比較的なだらかな傾斜のつづら折り階段を登った先に、奇妙な車が停車して

いました。

荷車を牽引するのは牛や馬ではなく・・・ 車輪の付いた、何かの動力で動くであろう

機械のような物でした。(耕運機に酷似)


「初めまして! 出会った早々申し訳ないのですが、あなた方に作物のフリをして

いただきたいのです。 研究所に着くまで、しばらくの間お願いします。」

薄汚れた白衣を着た、長身で白ひげの奇妙なゴーグルをした人はそう言いました。


確かに・・・

事情を知らない人にとって、コンタスとブドーはモンスター。

そう見られても仕方がない。


荷台の奥、座席側にドレジャを置き、あたしたちは全員横になって乗り込みます。


「じゃ、シート被せますよー!」


何か付属品でも付いているんでしょうか?

枯れ草や薪(たきぎ)の擦れ合う音がした後、真っ暗になりました。


「よし、出すよ。」

その直後、バタバタバタバタ・・・と聞きなれない音がして、どうやら動き始めた

ようです。


地面のゴツゴツ感は仕方がないのですが・・・

気になってたのは、屋台の揚げ物屋の近くでよくあるような匂いがした事。

まあ、それほど嫌な臭いというほどでもなかったので我慢はできました。


時間はどれくらい経過したでしょうか? 突然、バタバタ音が止みました。


「うん、誰も見ていないようだ。」

「みなさん、着きましたよーっ! おつかれさまでしたー!!」


シートが外されると、冷気が一気に入り込んできました。

周囲が薄暗くなっていたのは、この季節(冬)だと日の入り時刻が早いという

理由だけではないようです。

雑木林に囲まれた、二つの小さな畑。 真ん中に短い畦道(あぜみち)。

その先に二階建ての建物がありました。


「先生、まずは自己紹介ですよ! ボクはこの研究所助手のリベロ!で・・・」

「〝酒精研究所〟所長・・・グネルともうします。」




「バック、今日はこの辺にしておこう。で、その男の調査、頼めるか?」


「了解です。 ちょっと時間がかかるかもしれませんが 。」


「長々と話をさせて悪かったな。今日はゆっくり休んでくれ。」


「親方、バックさん、おかみさん、お先に休ませていただきます。」


「もう・・・パティちゃんたら、いちいち大人なんだから。」




【次回、魔法石編 スタート。】












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