第22話 ギルド編 その22 荒ぶる川の話 〆の中

ドレジャとブドーのおかげで溺れてしまう心配はなくなったのですが、

季節的に川の水の冷たさは骨身にこたえるほどでした。

このまま流されっぱなしでは命の危険性を感じましたので・・・

どこか一時的に身を置ける川岸は無いか、必死な思いで探しました。


けど、そう簡単に都合のいい場所なんか見つかったりしないものです。

川の流れは思いのほか早く、これは!と思った川岸も何度か見かけたのですが、

とても辿り着ける状況ではなかったです。


水を得た魚・・・ではありませんが、コンタスが早くも合流してくれました。

こんな状況でも、水の中では落ち着いて行動できるようです。

ブドーのマントにしがみついているだけのあたしを、ドレジャの上に乗せて小舟の

代わりにしてくれたのはいいんですが・・・


風が当たって余計に寒い!

それでも何とか気力で持ちこたえている事ができているのは・・・

おかみさんが作ってくれた、肉巻きおにぎりのおかげ!

・・・6個はさすがに食べ過ぎかと思いましたが。


上陸可能な川岸が見つからないまま、あたしたちは〝水門跡〟まで流されました。

その〝水門跡〟って、古の文明が遺していった建造物でしたよね?

人工物であるなら、もしかしたらと期待していたんですが・・・

見渡してみても垂直な壁だけでした。


〝水門跡〟を通過すると、川の流れが緩やかになったように感じました。

川幅も広くなったようで、視界が一気に開けたのはいいんですが・・・

上陸に適した川岸が見つかりません。

背の高い枯れ草がびっしりで、足の踏み場なんてどこにあるの? とか、

巨大な岩が微妙な位置にあって、とても邪魔だったり、

見るからにドロドロな泥のたまり場だったりで・・・


遠くに大きな橋桁が見えました。 さらに遠くの方には水平線が・・・

このままでは海へ流されてしまう!  

本気でヤバいと思いました。

何故かは理解できないんですが・・・

海には戻りたくない!と思っていたんですね、あの時のあたしは。


とにかく、とにかく、上陸できる場所を見つけないと!

焦りましたよ、あの時は。 おそらく人生で最も焦ったと思います。


その時です!

怪しい藪に隠されたような、何かの〝先っぽ〟が見えました。

よく見ると、それは2艘(そう)の小舟。

別に、川を下って海へ出るつもりは無かったので・・・

そこにあった小舟の状態はどうでもよかったんです。

ありがたかったのは、その場所が渡し舟の艀(はしけ)だったという事。


思わず「そっちへ向って!!」と、叫んでいました。

コンタスとブドーも状況をすぐに理解したようです。

あたしを乗せたドレジャを押し、その渡し舟のある所まで運んでくれました。

もしかしたら、二人とも足が付くくらい浅かったのかもしれません。


川岸は、やはり大昔に人の手によって造成工事されたんだろうと分かる作り。

石畳をなだらかに配置して、小舟を引き揚げやすくしてある工夫がされています。

所々堆積した泥から生えている草の分布具合を見ても、渡し舟発着場は長年に渡って放置されていたのがあたしでも容易に理解できるというくらいの荒れ果てようです。


少し安心したら、寒さがぶり返してきた感じがしたので・・・

広場のような場所で焚き火をする事にしました。


詰所だった所も何か無いか、一応確認です。

ここも相当荒れ果てていましたが、ブッシュカッターとダガーを発見!

・・・したのはいいんですが、やっぱりサビサビでした。


でも、無いよりはマシ。

コンタスはブッシュカッターで、朽ち果てた小舟を解体。

あたしはダガーで薪代わりの枯れ草刈り。

ドレジャはあたしのそばで待機。

そして、ブドーには周囲の警戒を頼みました。


こんもりと、枯れ草がやけに密集して生えている箇所がありました。

何か嫌な臭いのするその辺の枯れ草を刈っていると・・・

やはり、人間と思われる白骨死体がありました。

ただの屍のようなので当然のこと返答はありません。

しかし、そんなに古さは感じませんでした。

むしろ、最近のもののようにすら見えます。


突然、カタカタカタッ!!! と、音がしました。


これはドレジャの警戒音! 早い間隔で3回でした。 間違いないです。


すかさず、ペッと吐き出すように渡してくれたのは・・・

一発、一発、弾丸を込めるタイプの古式銃、ケンタ。

それと、弾の入ったポチ袋。 

受け取った瞬間、ギッシリ入っていないな・・・と、感じました。


コンタスも、ブッシュカッターとダガーの二刀流で臨戦態勢です。


藪の向こうから、グルルルル・・・と、うなり声。

どうやら、あたしたちは彼らの縄張りに足を踏み入れてしまったようです。


狼型か犬型の魔獣であろう事は、何となく理解できたのですが・・・

どうも様子が変なように見えました。

どのモンスターも目が血走っていて、異常によだれを垂らしていた事。


ああ、これは・・・ 嚙まれたら終わりだと思いました。

なぜそう思ったのか、自分でもよくわかりません。

ただ、感覚的に・・・ものすごく危険な感じがした・・・

そうとしか言いようがなかったんです。


先頭の一体が、あたしに向って飛びかかろうとしました。

その瞬間、バキッ!!と木が折れるような音。

あたしの視界の端っこに・・・

その一体の魔獣が川へ落ちていく様が見えました。

あたしから見ても、ブドーはそこに突っ立っているだけ。

彼らは、おそらく気配を感じていないんでしょう。

何が起きたかも理解できてないように見受けられました。


ドレジャから渡されたケンタは、撃鉄を起こさないと弾が装填できないように

工夫されています。

幸い、相手は直線的に飛びかかってくるので当てやすいのですが・・・

予想を上回る数で来られると非常に危ない。

なので、必ず一発で仕留めなければなりません。


見た感じ、魔獣の数は9体。 

縄張りに入ってしまったのは申し訳なかったけど、周辺の住民を食い物にする

ようであれば・・・ 全部倒します!




「おかみさん! チラシのスペア、まだございませんか!?」


「ちょいと待っておくれ! 探してくるから!」


「バック、さっきから気になってたんだがよ・・・その、ミミズがのたうち回った

字は何だ? まさか、ふざけているんじゃないよな?」


「ふざけてなんていませんよ。この字の書き方は【速記】と言いまして、裁判での

口上筆記に使用される大事な役職のひとつです。お分かりいただけましたか?」


「ほう・・・そんなスキルを持ってたんかい、おめえさんは。」


「親方、バックさん・・・ これから話す内容に、ある人物の名前が出てきます。

で、その人に心当たりがあるか、関連する情報があれば教えてくれますか?」


「・・・分かった。」
















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