第21話 ギルド編 その21 荒ぶる川の話 〆の前
グオオ・・・ と、ぶっといウナリ声でしたが・・・
川猿の手下たちが発した、やかましい怒号の類ではないように聞こえました。
しかし、手下たちの全滅という惨状は目撃しているはずです。
あたしの勝手な推測ですが・・・
「やりやがったな」でしょうか?
タイプ的には・・・ 口より先に手が出るようです。
しかも、やり方が汚い。 何と・・・
手下の死体を次から次へと投げつけてくるという、信じられない攻撃方法。
援軍に加わった石弓隊も、これでは避ける他ありません。
あたしたちは、大ボスの隙を伺っていました。
あの太すぎる両腕が邪魔で、邪魔で・・・ 何とかならないかと。
「魔法火矢の準備、全て完了しました!!」
「いいか!?各自、ヤツが投げ終わった時を見計らってからだ!!」
そこへ、川猿の死体がすっ飛んで来ました。バブーン戦士型クラスの大きさです。
ぼさっとしてよそ見でもしていたら大惨事になってしまうところでしたが・・・
そこは魔法石弓隊です。 集中しているので上手く散開して避けたようでした。
しかし、矢継ぎ早に投げつけてくるので火矢を放つタイミングが取れません。
その時でした。
いつの間にか、ブドーが大ボスとの間合いを詰めていて・・・
ドオンッ!!
と、大太鼓を一回、強く打ち鳴らしたような音。
ブドーの丸い拳が大ボスの下腹部にめり込んでいました。
「あっ、その技は・・・!?」
その瞬間、あたしはそう声に出していたような記憶があります。
人間で言うと、右手の拳と踏ん張っている左足が一直線になった形。
巨大な敵モンスターを撃つ、ブドーの決め技のひとつでしたが・・・
固まってました。 湯気を立てて。
本来なら難なくかわす事ができたはずなんです。
大ボスから発せられたゲロの滝なんぞに。
あたしは残っている弾丸8発全てを、大ボスの顔へ撃ち込みました。
後頭部から血しぶきの噴出や、顔の形が変形しかかっていくのを確認できた
のですが・・・
大ボスは、一向に倒れる様子を見せませんでした。
ただ、フラフラなのは見て取れるので・・・
トドメを刺します。
やはり、出し惜しみは良くないという事でしょうか?
今、使用できる銃は・・・ 6発連続で撃てるアレンだけ。
躊躇している暇はありません。
あたしは引き金にかかる指に力を込めました。
荒ぶる川大橋に、甲高い拍手のような音が6回鳴り響くと・・・
「てーーーッ!!」とかけ声。
石弓隊の魔法火矢が一斉に放たれました。
あたしは、その〝魔法火矢〟を初めて見たんですが・・・
どうやら矢尻に高熱魔法を、これでもかというくらいぶち込んだ物らしいです。
見た感じは普通の石弓の矢ですが・・・
標的のモンスターに刺さると、一気に高熱魔法が開放される仕掛け。
そんな感じなんでしょう、おそらく。
川猿の大ボスの動きが止まりました。
何十本か刺さっているあたりから、もうもうと煙が立ち上っています。
確か、大ボスの顔に計14発ぶち込んだはずです。
頭の毛かヒゲか分からないような毛だらけの顔はすでに血まみれなのですが
・・・どういう訳か、倒れようとしません。
でも、大ボスの動きは止まっています。 それを見て・・・
「今のうち!」と、その時のあたしは思っていたんですね。
ゲロまみれになって固まったままのブドーを何とかしなきゃと思っていました。
湯気の熱だからなんでしょうか?
もう、悪臭がひどくて・・・ 目もまともに開けられなかったのを覚えています。
とにかく、バケツに水をくんでこなきゃ。
・・・そこで、あたしの集中力は途切れてしまったんだと思います。
あれ? なんで急に日陰? と、思った時は既に手遅れでした。
手下たちの血のりに滑って倒れたからなのか、
無意識状態であたしたちに攻撃を仕掛けようとしたからなのか?
そんな、余計な事を考えてしまったのがいけなかったんでしょう。
大ボスの足の裏という、巨大な壁に押し出され・・・
あたしたちは川へ落ちてしまったんです。
幸いにも、ドレジャとブドーはすぐに浮かんできてくれたので・・・
とっさにブドーのマントにしがみつきました。
橋の方を振り返ってみると・・・ もうもうと煙が上がっている最中、
誰かが飛び降りる姿が見えました。
長い尻尾が見えたので、誰かはすぐに分かりましたが。
今、思い返して見ると・・・ あれって、不幸中の幸いだったのかな?
そう思えた事が二つありまして・・・
橋の欄干ってヤツでしたっけ? あたしたちが突き落とされた場所なんですけど、
たまたま破損してて、単にロープが張ってあっただけだったとか・・・
もうひとつ、落ちた所が川の中央部分だった事。
仮に橋の欄干が破損してなくて、落ちた場所が川岸だったとしたら・・・
今ごろはこうやって話もできず・・・
ただ、皆さんの思い出の中だけの存在になっていたと思います。
「・・・パティさん、ひょっとして話の幕引きを図ろうとしてませんか?」
ギクッ!!
「俺たちはおめえさんがどうやって助かったか、半年間どう過ごしていたか?
まだ何も聞かされていねえんだ。 ・・・話してくれるよな?」
「そうですよ! パティさんの話は貴重な証言でもあるんですからね。」
そんな、圧のすごいオジサン二人を納得させるには。
あたしが三ヶ月ほどお世話になっていた人と場所の話を・・・
しなければならないようです。
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