第17話 ギルド編 その17 パティの事も聞きたい(後)
グリグリと進む機関車に牽引された一行は、大きな洗い場村から西へ向かいます。
聞いた話では・・・
通常の駅馬車で、そのような距離を移動する事はまず有り得ないそうです。
そもそもその駅馬車自体、国内でのみ運用されるものであって・・・
今度の引っ越し大移動などで国外へ出る場合、同じ馬を使う事は認められません。
だからといって、事前に申請しても許可は降りない・・・と。
それでも馬車に乗って国外へ・・・の人は、検問所の審査が受かった後、新たに
駅馬車用の馬を手配するしかない・・・ って、信じられます??
いくらあたしでも、めんどくさいって分かりますよ。
〝荒ぶる川〟の出来事ですよね? 分かってます!
大きな洗い場村から早朝に出発したんですけど、国境の検問所に到着したのは・・・
なんと、お昼頃でした。
途中、寝ちゃってて気付かなかったんですけど・・・
休憩のための停車は無かったそうです。
だから、おかみさんはお弁当をちょっと多めに用意していたり・・・
客車にはトイレが設置されていたんですね。
これが駅馬車だったら、休憩時間ばかり多く取られていてここ(検問所)に着くのは
夕方になっていたかもしれないな・・・と、親方は言ってました。
で、入国検問所のすぐそばに宿場町があったので、そこでキッチリと休憩です。
キッチリ・・・というのは訳がありまして・・・
例え、あたしたち一行が直ぐに出発しても、国外へ出る検問所に到着するのは真夜中になってしまうそうなんです。 さすがにそれでは危険だと言う事で・・・
この入国検問所沿いにある宿場町に・・・ちょっと早いですが、一泊ですね。
昼食は、おかみさんが作りすぎてしまったという・・・
モーシンの肉を薄切りにしてからローストした、肉巻き焼おにぎり。
それはもう、大変美味しかったのですが・・・
〝荒ぶる川〟の話・・・してます! 横道なんて逸れてませんよ!
ここからなんですから!
さあて、時間もあることだし、銃の手入れをしっかりとしておかないと・・・
そう思っていたら、おかみさんに呼び止められました。
ちょいと買い物つきあっておくれよ、いいだろ? ・・・と。
他ならぬ、命の恩人のひとりであるおかみさんの頼み事。
断る、という選択肢はハナっから存在していません。
で、あたしが出かけようとすると・・・
ドレジャがフタをパコパコ鳴らし始めたんです。
えっ、敵がいるの!?って、思わず声をかけちゃったら、例のごとくペッと何かを
吐き出したんですね。 でも、それは拳銃ではありませんでした。
【探知棒】
そうあたしが呼んでいる、奇妙な道具です。
短剣よりも少しだけ長い木の棒を縦にくり抜いて、鉄の棒とまではいかない太さの
針金を通してあるだけで、先端から半分程度の所で直角に折れ曲がっています。
本当にただそれだけの単純な作りなんですが・・・
精度がすごいんです、信じられないくらいに!
ドレジャがそんな物をあたしに渡すという事は、何かあるって事なんです。
それこそ掘り出し物ってヤツが・・・
親方とおかみさんの買い物に付き合ったあと、あたしは目の前にある店に立ち寄ってほしい・・・と、お願いしました。
理由は・・・やはり、その【探知棒】が反応したからなんです。
腰ポケットに差し込んでいて、その店の近くでカチカチ鳴るもんだから・・・
あたしは本来の測り方である、水平に構えて見たんですね。
そしたらなんと、下に向いていた針金(ロッド)が不規則に振れ出して・・・
とあるお店の前で、その角度が水平になろうとしていました。
そこは、何とも怪しい雰囲気の・・・骨董屋でして・・・
ともかく・・・中に入って、何があるのか確認しないと・・・です。
店内の端っこに、少し大きな甕(カメ)がありました。
【探知棒】の針金は水平な位置を保ったまま、動こうとしません。
あたしはカメの中身をチラッとでも確認できればと思いましたが・・・
店内の異様な雰囲気に、あと一歩の声がけができずにいました。
そんなあたしが躊躇している様子を見かねてか、親方が助け舟です。
店主、この・・・カメに入っているヤツ、値札が無いんだが・・・いくらなんだ?
得体の知れないお香の匂いが醸し出す雰囲気に負けない、親方の静かな口調です。
ドスも効いてましたね。
ああ、それぞれ使い道が分からない物ばかりなんで・・・
全部まとめて引き取っていただけるのであれば・・・ お安くしときますよ・・・
と、店主の方もなかなかでした。
結局のところ・・・
折れた両手剣から作ったらしい菜切り包丁と、丸太を適度な厚さに切ったまな板。
(鍛造品作成用)ハンマーと、ちょっと大きめの台車。
あと、カメに入っていた中身、袋ごとです。 でも・・・
あろうことか、不覚にも・・・あたしは持ち合わせがありませんでした。
中身丸ごと500ギンコ*との事だったので、親方から借りるしかない・・・
そう思って頭を下げたら、親方にこんな事を言われました。
これはな、バブーンどもとモーシンを討伐してくれた・・・
俺からの報酬だ。 ま、不当に安いのは勘弁してくれ。
ああ、もう・・・ つくづくこう思いました。
こういう『粋な大人』にあたしはなりたいと。
親方に背中を叩かれましたが、話を続けます。
客車に戻り、親方とおかみさんの目の前で袋の中身を確認です。
・・・驚きました。
見た事の無い型の拳銃と、同じくらいの長さをした金属製の筒。
何て読むか解らない文字が書いてある、手のひらより少し大きめで縦長の箱が二個。
そして、見覚えのある緑色の缶。これも何て読むか解らない・・・
〝R-30〟と書かれた文字。 でも、このブランド・・・間違いないです。
あたしが使っている物と同じ、拳銃の整備用に重宝している〝ひまし油〟!
ある魔法が施してあれば、未処理物のような酸化して腐敗する事は無いはず。
まあ、実際に使って見れば分かります。
さて・・・ 単にあたしが知らないだけだと思いますが・・・
見た事の無い型の拳銃です。
長すぎず短かすぎずのスラッとした銃身。 斜めに真っ直ぐなグリップ。
さらに驚かされたのは、すでに手入れが行き届いていたこと。
つまり、すぐにでも使用可能だったんです。
ですが・・・ 一筋縄では行きませんでした。
一緒に入っていたトリセツ(?)も気になっていたので、共通した項目があるか
どうか確認しなければなりません。
で・・・よくよく見たら、この〝14年式拳銃〟の取り扱い説明書のようでした。
何語なのか、何で14年式なのか、サッパリ分かりません。
でも、所々にフリガナがふってあるので、それらに頼る他ないようです。。
銃身に刻まれてある謎の文字、【安―火】・・・ってナニ⁇ だったんですが・・・
レバーの位置からして、おそらく安全装置ではなかろうかと。
ハリー*のような回胴式ではないので、これも一個ずつ弾を込めるタイプかな?
と、あれこれいじっていたら・・・
グリップの中身が取れ、出てきたのは弾倉(マガジン)でした。
しかも、銃弾はギッシリ充填してあります。 推定8発ほどでしょうか?
ひょっとして、箱の中身も同じヤツか?と、親方。
そう言えば!と思い、細長い箱を二つとも開けてみました。
・・・まんま弾倉です。 しかし、装填できなければ意味が無い。
物は試し、入れ替えてみます。 すると・・・
二つともスムーズに装填できました。 これはもう純正品としか思えません。
弾倉の一番上の部分に銃弾が見えるんですが、三つとも種類が違うように見えます。
それぞれ威力が異なるのかもしれませんが、正直言って知ったこっちゃ無いです。
何せ、重大な局面と言うか・・・壁に突き当たってしまったので・・・
トリセツをしっかり見ながら整備したにもかかわらず、ですよ?
安全装置であろうレバーは【安】の位置のまま・・・全く動かせないんです!
当然のこと、引き金が引ける訳もありません。
こんなにきれいな状態なのに・・・ ジャンク品をつかんでしまったなんて・・・
その時のあたしは、ずいぶんと落ち込んでいました。
でもまぁ・・・今後、魔法石の詳しい情報が手に入るかもしれません。
そう前向きに考えることにして、明日に備えようと思いました。
今夜に限って言えば、安全上と節約の問題により列車内で宿泊だそうです。
ですから、お風呂も・・・がまん、ガマン。
今になって思えば、よくあの土壇場で気付けたなあ・・・と。
まさか、見落としていた箇所があんな簡単な所だったなんて・・・
「パティさん、ちょっとタンマです! 紙が足りなくなってしまいました!」
「!?」
「あらま! バックさん、チラシの裏でもいいかい!?」
「ありがとうございます! 助かります!」
「・・・で、これで終わり・・・じゃねえよな?」
「いったん休憩させてください。 続きますから!」
*ギンコ 貨幣単位。 コインにイチョウの葉のレリーフ。
500ギンコ=5000円相当。
*ハリー パティが名付けた拳銃のニックネーム。
モーシンを一発で倒した、S&W M29。
通称、44マグナム。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます