第11話 ギルド編 その11 真相を話す親方(後)
あたし・・・剣も魔法もダメだけど、これさえあれば・・・戦えます!!
パティは俺に向かってそう言ったんだ。 来たばかりの時は・・・
両手剣は重くて使えないから、片手剣を両手で持って奇妙な型で振ってみたり、
初級の魔法を習った経験も無いらしく、詠唱のイロハさえ知らなかったのに。
それがどうだ・・・
妙に自信有り気でいて、決して虚勢を張っているようにも見えなかったな。
けどよ・・・
これさえあれば・・・ て、言ってたパティが手にしていた物なあ・・・
俺から見れば、石弓のグリップだけ持ってナニ決めポーズしてんだ?なんだよ。
もう不安しか感じなかったな。
せめて、他にも武器を持たせてやらなければと思って、武器庫を見せてやったんだ。
俺もここを防衛するため、連発式の石弓台を引っ張り出すしかねぇ。
でも、さすがにこれは物が物だけに手伝ってもらうしかないか・・・
そう思っていたら。
パティが、ちょっといいですか?って聞いてきたんだよ。
(リザードマンの)コンタスが何か指差しているのも気になってはいたが、とにかく
話は聞いてやらないとな。
パティは、あれ・・・借りてもいいですか?と聞いて来た。
で、指差していた方向を見ると・・・
そこには、壁に飾られている祭儀用の槍しかねえんだ。
何かの催し事で使われた物が払い下げられて・・・ もう30年前になるのか。
およそ戦闘に向かなそうな、不必要に長い槍。
仰々しい刃先は両刃の斧に槍が生えている感じの、ええかっこしい的な造り。
だが、表面は錆に覆われ、かつての光沢は見る影も無い・・・
そんなので良ければ持ってっていいぞ、と言ってやったよ。
で、その槍を手にしたのは・・・
パティがコンタスと呼んでいるリザードマンだった。 まあ、そうだろう。
・・・さっきから気になってたんだが、アイツに武器を持たせなくていいのか?
と、やたらにデカい蓑(みの・ギリースーツに似ている)を被っているヤツを見て
俺はパティに聞いたんだ。 そしたらよ・・・
ブドーは全身武器みたいなもんですから、バケツに水を汲んであげてください!
??????
ちょっと、何を言ってるか解らないんだが。
とにかく、水をやればいいんだな!?
訳が解らんまま、水瓶に汲んであった水をバケツに入れて・・・
とにかく、あいつにぶちまけてしまえばいいんだな!? と言うと・・・
パティは、そうです! お願いします!
てぇ言うもんだから、とりあえずバケツ2杯ほどぶちまけてやったよ。
すると・・・ シューーって音がして、蓑のスキマの所々に薄緑色・・・
って言えばいいのか・・・とにかくだ、そんな色が現れてな・・・
同時にそいつから何か白い粉がサラサラと落ちて来たんだ。
心配になって、パティに聞いたら・・・
もう大丈夫です! これで戦えます! だと。
パティとコンタスは俺に向かって敬礼までしやがった。
仲間を得た途端、こんなにも変わるものなのか。
家に来たばかりの時は、不思議そうにあちこちを見回してばかりだったのに。
不安はどうしても拭い切れなかったが、俺はこの武器庫兼食糧庫の防衛をパティらに
任せるほか無かった。 そう言った事情ってヤツもあったんでな。
何せ、石弓台のくせに弓が引けねえなんて故障してたっつーから話にならん。
その時だ。 遠くでバブーンどもの喚き散らす声が聞こえてきて・・・
ここはすでに感付かれています。じきに奴らが襲って来ますので、グーグゥさんは
安全な場所へ隠れてください!
と、状況が状況だけに、ここはパティの指示に従うしかなかった。
俺は武器庫の奥にある食糧庫に隠れる事にしたよ。
ハンターを引退して20数年、今の俺じゃ戦力的に足手まといになるのが確実。
しかし、戦い方はしっかりと見届けるつもりだ。
ま、実際に見届けもしたんだけどな。
ここで監視(カメラ)水晶玉を久々に使うんだが、その件は後で話すとしよう。
岩盤をくり抜いて造られた食糧庫にいても、ドア越しにはっきり聞こえるあの音。
バブーンどもの叫び声、走ってくる足音。だんだんと大きくなっているのが分かる。
それにしても、あいつらの落ち着きっぷりと言ったら・・・
パティは石弓のグリップに何か丸薬みたいなもんを詰め込んでいるし、
コンタスは槍の刃先の錆を自分の爪でガリガリそぎ落としている・・・
ブドーってヤツに至っては・・・ただ、そこに突っ立っているだけだ。
多少広めのスペースはあるにせよ、この場所は袋小路である事に変わりはない。
どうする? 逃げ場なんて無いんだぞ?
と、言ったところで意に介さなかったんだろうな、パティは。
バブーンの奴らなかなか襲ってこないな、と思って俺がちょっと目を離した時・・・
パァン!!
と、ムチで硬い地面を思いっきりひっぱたいたような音がしたんだ。
何事かと、パティらの方を見てみたが、特に変わった様子は無い。
強いて言えば、パティが石弓のグリップに丸薬(?)を再度詰め込んでいるくらい。
その時だ。 バブーンの群れなんだろうな、一斉に遠吠えを始めてよ。
ここに住んで割と長いが、そんな喚き声は初めて聞いた。
全く俺の主観なんだが、アレは奴らなりの怒号なんだろう。そう思ったね。
で、その原因も何となく理解できそうな気がした。
遠目ではあるが、一体の偵察型バブーンが仰向けに倒れていたのが見えたんだ。
おそらくそれだろう。
案の定、どこにそんな数いたんだ?と言うほどの大群が攻めて来たけどよ・・・
パティたちときたら、全く慌てる様子がねえ。
そして、パティが持っている石弓のグリップに付いている筒の先から一瞬だけ炎が
見えた。 もちろん、ムチで地面を引っ叩いたような音も一緒だ。
で、その度にバブーンが一体づつ倒されていくんだよ。 一体を一発で、だぞ?
ここの猟師会の石弓の毒矢が4~5本まともに突き刺さって・・・
ようやく偵察型一体が倒せるというのに。
もうこれは、そういう武器なんだ。そう認識を新たにするしかないんだろう。
おっと、コンタスとブドーの活躍も話しておかないと。
バブーンの奴らにも悪知恵というか、猿知恵でもあったのかな?
猿どもは・・・一番弱そうに見えるパティをまずは複数で寄ってたかってなぶり殺ししようと企てたんだろう。 そこはそれ、所詮は猿の浅知恵ってヤツだ。
そもそも、パティには近付く事さえできない。 そんな中・・・
コンタスはバブーンの群れに飛び込み、いっぺんに8体を切り倒した。
ブドーに近付くバブーンは全て、見えない何かによって弾き飛ばされたかのように、岩壁に激しく叩き付けられたり、折れた木の枝に突き刺さったり、遠くへとぶっ飛ばされたりしたんだ。 どうなってんだ、あいつは?
とにかく、コンタスとブドーの強さは桁違いだと分かった。
パティは妙な武器を手にしてから、狙いは全く外していないように見えるし。
うじゃうじゃと40体ほどいたであろう偵察型は、そのほとんどが倒され・・・ 逃げようとした最後の1体をパティが始末した。
猿どもの叫び声が無くなって、ここら辺はいったん静かになったけどよ・・・
あいつら3人(?)は身構えたまま。 ちゃんと分かってるんだな。
噂をすればなんとやら、じゃないが・・・ 御出ましのようだ。
いわゆる〝戦士型〟は2体だった。
あの2匹、今まで見たこともない光景に、さぞや驚いた事だろうな。
やっぱりというか、怒号のような雄叫びを上げやがった。
そして、奥の方にいるパティらを敵と認識したんだろう。
戦士型2体は猛烈な勢いで突進して来た。
・・・仲間の死体を次々と踏んづけていきながらな。
パティは、いつの間にか違うタイプの武器に持ち替えていたようだ。
今度のは筒の部分が太い。スシ屋の湯吞みぐらいはありそうに見えるな。
そこからパン、パン、パン!と、拍手の始まりのような音がしたと思ったら・・・
1体の戦士型の頭、4分の1ほどがぶっ飛んで・・・仰向けに倒れた。
なんツー威力だ・・・ と、感心してる暇はねえ。
もう1体が棍棒でパティに殴りかかろうとしていたからな。
しかし、危害が及ぶ事は無かった。 複数の打撃音がいっぺんに聞こえたらよ、
その戦士型は岩壁に叩き付けられていたんだ。まるで瞬間移動したみたいにな。
そして、それっきり動かなくなった。 だが、まだ終わりじゃねえ。
なぜなら、細かい地響きは・・・まだ続いていたからだ。
こっちの状況は・・・ 何やらマズい事になっているように見えた。
ブドーってヤツから湯気が立っていて、倒れたまま動かなくなっているようだ。
もしかしたら、もう一度水をぶっかければ・・・と思ったが、間に合わないだろう。
すでに小高い丘のようなソイツが見えてしまっていたからな。
パティが何か叫んでいる。
すると、後ろにあった宝箱が開いて・・・
パティは〝例のモノ〟を受け取ると、ソイツに向けて構えたんだ。
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