第5話 ギルド編 その5 模擬戦(後)
(やっぱ・・・スースーするなあ・・・)
季節は春から初夏にかけての陽気だが、パティは足をすぼめた。
大猿型木人、ローエングリン vs 正体不明のモンスター(推定)、ブドー。
基本、簡易闘技場観客席で観戦している人間は全てハンターの資格を持っているので
入場無料だが・・・
「ミミちゃ~んモナカアイスゥ~・・・はじめました~」
地域限定の名物を売りに来た売り子が入口でビミョーな節回しの歌を歌い、
そのナントカアイスが飛ぶように売れたりしている。
簡易闘技場中央でにらみ合う(?)ように向き合っている2体の怪物(?)。
審判員の神官がホイッスルをくわえた。 そして・・・
ピイッ!!
その瞬間 ―
ホイッスルの音とほぼ同時に、落雷で大木が切り裂かれたような大音響。
だが、雷が落ちたわけではなく・・・
レンガの壁に叩き付けられていた、大猿型木人ローエングリン。
簡易闘技場中央でつむじ風が発生したが、すぐに消えた。
対戦相手のブドーに姿勢の変化は見られない。
と、言うより初めから何もしていないように見えた。
「・・・・・・」 「・・・・・・」
再び啞然としてしまった、記録係の神官。
すまなそうに下を向くパティ。
一時、静まり返っていた観客席だったが・・・歓声は再び巻き起こった。
「今のなんだったんだ?」
「たぶん、魔法よねえ?」
「それにしても見たこともない技だぞ。」
「あまりにも速すぎたんだ・・・俺たちの目が追いつかないくらい・・・」
ボロボロと落ちるレンガの破片。
レンガの壁にめり込んでいたローエングリンが再起動したようだ。
両足を地に付け、両手を地に付ける基本的な体勢を取ろうとした、その時。
上半身の右半分、木目模様にそって割れ・・・右腕ごと地面に落ちたのだった。
そして・・・ バランスを崩し、倒れるローエングリン。
魔法石も落ちて、そのまま動かなくなった。
ピ、ピー!! と、2回鳴らされたホイッスル。
「勝者、ブドー選手!」
途端に大歓声が巻き起こった。
たいした数ではないが、満員の観客席に向けて一礼する仕草を見せたブドー。
大歓声は拍手に変わった。
「コイツも紳士だったか!」
「もう、モンスターじゃないわよね!!」
「しかしなあ~ 瞬殺とは思わなかったぞ。」
「お次は・・・あの女の子か・・・」
「第三試合開始まで、今しばらくお待ちください!!」
審判員の神官のメガホンを使ったアナウンス。
簡易闘技場中央に山車(だし)のような台車が運び込まれ、動かなくなった
ローエングリンを10人がかりで乗せようとしている。
「ところで、ブドー選手の技・・・ あれって、どんな魔法だったんですか?」
と、パティに質問をぶつけてみる記録係の神官。
「いえ、魔法でも何でもなく・・・ ただ、ぶん殴っただけです。」
「・・・・・・」
十数分ほど経過して、審判員の神官がメガホンを口に当てた。
「これよりー、第三試合をー、開始ー、いたします!!」
「パティさん、これから勝負決着の目安・・・それをお伝えしておきます。」
「・・・はい。」
記録係の神官の説明に対し、生返事のパティ。
「今度の相手なんですが・・・動かせる物がこれしかないので、どうかご容赦して
いただきたいのです。」
「・・・・・・」
「本来でしたら、複数の魔術師による集中攻撃の練習を目的として開発された・・・
木人というより〝石人〟と呼ぶべき存在・・・ パティさん?」
「あ、すいません! 聞いてませんでした。」
「・・・・・・ちなみに、どのような武器を使われるのですか?」
「これです。」
パティが手に持っていたのは・・・
端っこが折れ曲がっているタイプの杖。その柄の部分だけの物に見えた。
しかも、細い金属の筒が突き出ている。
「これは・・・仕込み杖でしょうか?」
記録係の神官の質問に対し、どう説明すればいいのか分からなかったパティ。
さんざん考えたあげく・・・
「この筒から・・・ 石弓の矢尻だけが飛んで、モンスターを攻撃する武器です。」
「そうでしたか。・・・なお、合格の基準なんですが今回の場合、特別ルールを設けさせていただきます。 何せ、場合が場合ですのでね。」
特別ルールは次の通りだった。
1、本体への攻撃を当てるポイント。指定回数は10。
2、攻撃が武器及び盾で防がれた場合、全て無効。
3、本体の一部あるいは武器と盾のいずれかを欠損させた場合。
前のモンスターとは違い、石弓に毛の生えた威力なら【3】は、まず有り得ない
だろうと高を括った感じでパティを見ていた記録係の神官。
「まあ・・・難攻不落と思いますが、がんばってください。」
― そこへ、
ズン、ズンと地響きを立てながら、次の対戦相手が簡易闘技場中央に入ってきた。
その姿にどよめく観客。
「・・・おい、ウソだろ!?」
「ギルドったら、なに考えているのよ!?あんなの無理に決まってるじゃん!!」
「つくづく大人げ無いな!!」
「いや、最後は3人がかりで・・・かもしれないぞ。」
まるで、ドラ××のゴーレムが×××専用××仕様にでもなったような、その姿。
表情を全く感じさせない黒地に白い瞳のようなモノアイ。ただ、それだけの顔。
変に光沢のある素焼きレンガで構成されたようなボディー。
右手に、ほとんど岩でできている削り出しのハンマー。
左手に、一枚岩の削り出しであろう分厚い盾。
そして、やはり巨大だった。 先ほどのローエングリンより二回りは大きい。
「・・・どうしよう・・・」
平静を装っているが、何か困っている様子のパティ。
すると・・・ 後ろの方でバコバコ、と音がした。
「!!」
対面している巨大ゴーレムから、視線を外さないで後方に手を差し出す姿勢を取る
パティ。 さながら、陸上競技のリレーでバトンを受け取る形。
バシッと、少々痛い手応えが右手にあった。
同時にズシッと重たい重量感に、危うく落してしまいそうになる。
パティの右手にあったのは、この世界に存在しない武器。
【 拳銃 】
しかも、やけに大きい。 パティの手のひらでは持て余してしまうサイズ。
「これしかない・・・んだね? ドレジャ・・・」
回転式のバレルには残存弾数・・・ たったの〝1〟。
弾丸が装填されている位置と銃口の位置を合わせ、バレルをセット。
安全装置を解除。
撃鉄を引く。
これら一連の動作を慣れたように行うパティ。
「両者、中央へ!! よーい・・・」
ホイッスルを口へ持っていこうとする、審判員の神官。
ピイッ!!
いきなり、巨大ゴーレムのハンマーが振り下ろされた。
威嚇のつもりなのだろうか、足元近くの地面を一撃した。
激しく揺れる地面。
巨大ゴーレムのハンマーが振り上がろうとした、その時だった。
見計らったかのように、少し腰を落として身構えたパティ。
だが、肝心の銃口は巨大ゴーレムから僅かに外れているように見え・・・
それでも引き金を引いた。
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