第4話 ギルド編 その4 模擬戦(中)

リザードマン型モンスターと戦った事のあるハンターから見ると、すぐ近くで

繰り広げられている光景は、とても信じられないものだった。


「おいおい、何だアイツ! 本当にモンスターかよ!?」

「すごーーい!! なんか、踊っているみたい!!」

「動きが単調じゃないぞ!すごい滑らかだ!!」


木人の攻撃をそのまま受け止めるのではなく、いなすように制しながら体をかわす様は、さながら棒術か槍の演武。 観客にはそう見えたようだ。


すでに効果的打撃ポイントを数多く奪ってきたコンタスだが、ある事に気付いた。


それまでの、攻撃をかわしながらコツコツ小突いていく戦法から一変、木の槍を持つ手に狙いを定め、連続突き攻撃を開始。


コンタスの素早い連続攻撃に木人は防戦一方。

そして、これで勝負を決めようとするかのような大振りを仕掛けた。

だが、木人の頭部を狙った攻撃は見事なまでに受け止められてしまう。

―と、同時だった。

木人はうつ伏せに倒され、コンタスの木の槍が後頭部にある何かを突いた。


シュー・・・と、少し煙が出て動かなくなった木人。

途端に観客から拍手と歓声が巻き起こった。


「・・・・・・」   「・・・・・・」


啞然とする記録係の神官。

やっちまったな、と言いたそうな表情のパティ。



ピイ、ピー!! と、ホイッスルの音。

「勝者、コンタス選手!!」

すると、またもや大歓声。

コンタスは観客に向かって両手を上げた後・・・

歌手か舞台俳優の演目終了のように深々とお辞儀をして見せた。

このパフォーマンスで観客はさらにヒートアップ。


「アイツ、絶対にモンスターじゃねえよ!」

「やだ、あたしファンになっちゃいそー!!」

「・・・・・・コスプレなんだろ? 違うの?」

「なんかよ、久々にスカッとした気分だぜ!」


実は、木人のK.O負けという出来事。

通称〝ミミちゃんギルド〟創設以来、初の快挙だった。

というのも、この町のハンター全員が新人研修時に相当痛い目に合っているようで、

十数回目、あるいは数十回目の挑戦でようやく合格を勝ち取る・・・

それがハンターの、至極当然の通過儀礼。当たり前とさえ思われていたのだ。


― ハンターは、誰でも簡単に取得できるような〝称号〟ではない ― 


それを知らしめるための木人の強さだったが、その強さゆえ・・・

新人たちからは不評の嵐が常だったという。


だが、そんな常識をあっさりと打ち破る存在が出現した。


「なんか、ウチのメンバーがぶっ壊してしまって・・・申し訳ありませんでした!」


「いえいえ、見事な立ち廻りを見せて頂きましたよ。驚きました。」


「弁償額なんですが・・・」


「いえいえ、今回は不問といたします。 ご心配なさらないでください。」


コンタスが倒した木人は係員によって片付けられた。

代わって、山車(だし)に似た大きな台車に乗せられて来たのは・・・


それを見てざわめく観客。


「間違いねえ・・・ローエンだ!!」

「あの・・・特殊戦闘訓練用のか? ありゃ、A級ハンター御用達だろ?」

「なんか、ギルドったら大人げないんじゃないですかー?」

「まあ、確かにあんなのぶつけて来るなんて・・・そりゃねえよな。」

「たぶんアレだ、二人がかりってヤツ。で、有効打撃ポイントも少なめ・・・」

「で、どーよ?って言いたいんだろう?  ・・・あり得るな。」


4mはあろう巨体。 二の腕は足よりも大きく、太い。

木人でありながら、大変に手の込んだ彫刻が施されている。

とても戦闘訓練用とは思えないほど過剰品質な〝猿〟の顔。

特殊訓練兼非常時戦闘用木人、正式名称ローエングリン。


対するは・・・


身長約2mほど。 先の尖った飾りの付いた古めかしい半頭型ヘルム。

その下は大きなマントに覆われて、身体全体がどうなっているのか不明。

パティ、コンタス(ドレジャ)と行動を共にしている、その名も・・・ブドー。


「神官さん、もしかしたらウチのメンバーがまたやらかしてしまうかも・・・」


パティの心配気に発した言葉。  それに対し・・・

どうやらカチンときてしまったらしい、記録係の神官。


「さあーー、どうでしょう?  ウチのローエングリンは強いですからねー。

ご心配されている件は・・・ まず、起こり得ませんよ、絶対に!」



簡易闘技場の中央に、向かい合って立つ両者。

すぐそばに通っている駅馬車も続々と停車し、行く末を見守っている。

今、観客は・・・

めったに観られるどころではない、超レアな対決を目撃しようとしていた。























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