第13話

「おーい……もうそろそろ帰ろうぜ……」


「待て! もう少しだ……このボーナスタイムが終わるまでは……!」


 もうカジノの営業時間終了間際だと言うのに、ベルデは一向にスロットマシンから離れようとしない。まさかここまで彼女にギャンブラーの素質があるだなんて思いも寄らなかった。


 まあ、色々と発散出来る機会が持てたのは良い事だ。自分の存在と周囲の環境に悩んでいたが、こうした娯楽で忘れられる。


「はいはい……向こうで待ってるからな」


 仕方が無い。手に入れたコインを景品に交換しながら待つとしよう。


 ここで特に注目したい景品が十万コインで交換出来る【落陽の剣ダスクブレード】だろう。


 装備しているだけで全ステータスにプラス五の補正。攻撃力も申し分なく、これだけで中盤まで武器の更新が必要なくなるぐらいの強武器だ。


 他にも余ったコインでアクセサリー類や消耗品を買ってプレゼントしてやろう。ゲーム序盤では在り得ない程の物資量だ。きっとライズの奴も喜ぶぞ。


「暫く滞在してりゃ来るよな……ベルデとデートするのもアリか」


 早くて後三日程度で到着する筈の勇者を待つ間に色々とプランを練る。その装備さえ渡せば暫くは放置で大丈夫だろう。レベルも上がっているし、この装備も渡せば過剰戦力だ。


「さてさて……どうしようか――――」


 突如、カジノの上階で響いてくる炸裂音。部屋ごと吹き飛んだのかと錯覚してしまう程の音の衝撃を聞き、俺はタラりと冷や汗を流す。


 今の音、間違いなくカジノのオーナーであるゴージャスがやられた音。ここのボスは倒されると壁をぶち破って吹き飛ばされるのだ。これは間違いなく、その音の筈。


「昨日の今日で……早くない……?」


 取り敢えずベルデだけは宿に預けておいた方が良いだろう。もしも鉢合わせになれば絶対面倒な事になる。説明を求められても出来ないぞ、俺。


「ベルデ! 急いでここから出るぞ!」


「なんだ貴様達は、我の邪魔をするな」


 ベルデの元へ駆け付ければ既に見慣れた三人組に囲まれていた。ボスを倒した勇者達が下の階へと下りて来たのだ。


 勇者ライズ、騎士クリス、そして新たに仲間になった盗賊ワトソン。ここまでの道中でワトソンに出会い、この街で悪さしているゴージャスを倒しに来たというのが本筋のストーリー。


「ルド……ガー……?」


「はっ……はは……久し振り……そうでも無いかな?」


「むっ? ルドガーとは何だ。貴様、何の事を言っている」


 お願いだベルデ、少し黙ってくれ。


「……ッ!」


 俺と目が合ったライズの表情は険しくなり、外への扉を乱暴に開いて外へ出て行く。


「どうしたんだい、ライズ! ちょっと待ってくれ!」


「知り合いなんじゃ……ああもう、えと……バイバイ!」


 それを見兼ねたクリスとワトソンはライズの後を追う。目の前の問題が消えたと思ったら、また別の所で問題が発生してしまったみたいだ。


「おい、ネロ。さっきの奴らはなんだ?」


「気にしないでくれ……ただの顔見知りだよ」


「そうか……では余ったコインを我に献上せよ」


「負けたんだな……はいはい……」


 何が何やらなベルデは気楽で良いな。それだけスロットに夢中になったという事なら良い事なのだろうが、胃が痛い。どうしてライズは俺を見ただけであんなに不機嫌そうな顔をしたっていうんだ。


「置いて行かれたから……そりゃそうだよな……」


 ベルデのメンタルケアが終わった後はライズのメンタルケア。それが終われば本筋のストーリーラインに乗せ、魔王の所まで行って貰うだけ。もうひと頑張りだ。


「今日は閉店だ。また明日な」

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