第12話
俺達二人が目指すのは有名なカジノ街。ゲーム序盤にやっては来るものの、カジノメダルとアイテムの交換レートがおかしい事からあまり利用されない不遇な施設。
「貴様……遊びに来たのか……?」
「遊びに来たぜ? カジノなんだから、当然だろ」
この為だけにビシッとしたスーツを揃えたんだ。やはり装備集めも楽しまなくては。
「はは……まさか六魔天の方々が直々にいらっしゃるとは……こちらがゴージャス様の執務室にございます」
「どうもな」
何を隠そう、このカジノは魔物が裏で仕切っている闇カジノなのだ。人間と手を組み、金を巻き上げている。
一番最初に勇者に倒される雑魚ボス。それがこのカジノのオーナー、ゴージャスである。
「これはこれは、ネロ様、ベルデ様も。正装、お似合いでございますな」
「態々来てやったんだ。早速お話といこうや」
目の前にはどうやって部屋の中に入ったのかと疑問に思える程巨体を持ったオークが座っていた。身に纏ったスーツも、どれだけの生地が必要なのか。
「今日一日、フロアを貸し切りにして貰いたい。当然金は払うぜ」
「ほぉ……理由をお聞きしても?」
「ちょいと人間の遊びってのに興味が出たんだ。ゆっくりと遊ぶ為に、屑共はいらねえだろ?」
「ふむ……それはそうですが……」
「ほら、軍の中でも都合効かせてやっからよ。悪い話じゃ無いだろ……な?」
「ええ、ええ、勿論ですとも。一日だけでよろしいですか?」
「そんだけありゃ遊べんだろ」
「案内の者を用意します。ロビーの方で少々お待ちください」
「いや、案内はいい。こっちはこっちで勝手に楽しむ」
「左様でございますか。畏まりました、手配いたします」
それから十分程度待たされた後、俺達は空になったホールに通された。人っ子一人居ないホールは電子音だけが鳴り響く。スロットマシンからポーカー台まで、何でも揃っている。
「それで……装備集めというのは……?」
「向こうで遊んでて良いぞ。こっちはこっちでやる事やっから」
「勝手だな……」
「ここのコイン交換所で強い装備が貰えるんだよ。だからベルデも適当に稼いできてくれ」
「簡単に手に入るものなのか?」
「コインは大量に必要だ。だから、迅速にやるぞ。時間は限られてる」
不満そうではあるものの、ベルデはコインを集める為に適当なスロットマシンに座る。
通路の反対側のスロットマシンを利用すれば丁度向こうからは見えない筈だ。
ここで出てくるのがコイン無限取得バグ。スロットマシンの裏側でこれまた天を仰ぐ。左手を機械の中に入れ、その後にスロットを回すと確定で大当たりが出るという手法だ。
タイムアタックでカジノを用いていた訳では無いのだが、このゲームのバグは一通り熟知している。正攻法で集めるのも馬鹿らしいし、手を抜ける所は抜いていこう。
「おい、ネロ! これは絵を三つ合わせれば良いのか!」
「そうだぞー! 頑張れー!」
別に俺一人のコインで事足りるのだが。折角だ、ベルデにも楽しんでもらおう。
ジャラジャラと吐き出され続けるコインを見つめながら席を立ちながらベルデの方に目を向ける。
マシンに食い付き、鼻息を荒くしながら一つずつ丁寧に目押ししている。折角用意したドレスが着崩れて台無しではないか。
「おっ、おおお! 見ろ、ネロ! コインが、コインがこんなに出て来たぞ!」
「でかした! その調子で頼むぞ!」
意外とギャンブルの才能があるのかも知れない。二人でカジノを経営してみても悪くないのかもと未来に妄想を馳せてみる。
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