第9話

 怒りに身を任せた鉤爪に切り裂かれ、壁を突き抜けた先の岩に体ごとめり込む。


 今の俺ならば見えるし、何より避けられる攻撃なのだが、ここは彼女の気が済むまで殴られてやろう。


「痛てて……服がボロボロだ……」


 巨体を持つ九尾の狐、ベルデは遺跡の壁を破壊しながら俺の首筋へと噛み付く。


 血は出ているものの、ちっとも痛くは無い。流石は九割物理攻撃をカットしているだけはある。


「おーい、そんなに噛み噛みするなよ。頑張っても千切れないって」


「黙れ――――!!」


「はいはい、ちょっと言い過ぎた――――ァァ!?」


 噛み付かれた部位から放られ、尾から噴き出した風の刃によってズタズタになりながら空を飛ぶ。


 流石にびっくりした。こんな速度で空を飛ぶなんて初めての体験だ。


「ハァ……これで上裸じゃん。剥きたがりか……?」


 いつの間にか背後に回り込んでいたベルデから風で掴まれ、そのまま地面に叩き付けられる。目まぐるしい攻撃の数々だ。ちょっと酔ってきたかも……。


「いてっ、あいてっ、ぶへっ、へぶっ」


 何度も叩き付けられ、その度に口から音が漏れる。さて、どの程度で飽きてくれるのか。


「うおお……」


 もう一度上空へと打ち上げられ、九つの層によって分けられた風の球体へと閉じ込められる。


「おお、凄え……必殺技じゃんか」


 最強の中ボス、ベルデの繰り出す最強の技。何度この攻撃によってゲームオーバーになった事か。


「【風九球閃スフィア=スペルズ】!」


 無限にも思える斬撃の渦によって体を切り刻まれ、ポトリと地面へと落下する。


 必殺技を放った後だというのに、ベルデの追撃は止まらない。俺の上に乗り、ひたすらに爪で攻撃してくる。


 ただガムシャラに、迷子になった子供の様に。しがみつく様に俺の肌を切り裂いていく。


「貴様が……貴様が……我が王国を……!!」


「ああ……その通りだ。飽きるまでやって良いぞ」


 ネロによって自身の全てを滅ぼされたのだ。ネロ自身が魔王に操られていたとはいえ、ソレはソレというのが失った者の主張だろう。


 本当に怨まれてるな。流石はネロだ。画面の中の出来事ならヘラヘラと笑えていたが、この後のベルデのケアを考えると頭が痛い。引き裂かれて殴り付けられているから物理的にも痛い。


「ハァ……ハァ……ッ……ハァ……」


「終わったか……?」


 しばらく経った頃、俺の腕の中で人間に戻ったベルデが苦しそうに喘ぎ続ける。


「もう服がボロボロだ……大事な部分しか隠せてねえし……」


「……ハァ……ハァ……」


「大丈夫か?」


「大丈夫に……見えるのか……?」


「辛そう」


「……気に食わん奴め」


「ごめんな」


「何故謝る」


「操られていたとはいえ、俺はお前達の事を――――」


 上に乗ったベルデの手で口を塞がれる。ここからでは彼女の顔を見る事が出来ない。まあ、ベルデにとっても見られたいものでは無いのかも知れないが。


「もう……何も、喋るな」


「……」


 俺の口を抑えたまま、ベルデはただ呼吸を続ける。何も言わず、動こうとしないベルデの頭を撫でてみても何も反応が無い。


 本当にベルデの心が落ち着くまで、もう暫くはこのままにしておこう。

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