第8話

 面倒な事になった。まさかベルデに暗躍がバレる事になるだなんて。


 だが、想定していなかった訳では無い。一番最初に俺に気が付くのはベルデだろうと思っていたし、タイミング的には暇になる時間帯だ。ある意味ベストだろうと前向きに考えよう。


「……来たぞ」


「おう、お疲れ」


 ここはとある遺跡が見下ろせる崖の上。そこにベルデの本体がブスッとしたむくれ顔で現れた。


「見ろよ、ピンとこないか?」


「下の遺跡がか……? ピン、と言われてもな」


 二人で見下ろす遺跡は殆ど倒壊しており、最早何があったのかすら識別出来ない。


「だったらもっと近くで見よう。担いで下りてやろうか?」


「触ったら貴様の舌を引き抜くぞ」


「はいはい、怖いなぁ……もう」


 さっきの話をしたからなのか、ベルデは常に警戒心と殺気を放ち続けている。可愛い顔して流石は人の上に立っていただけはあり、威厳たっぷりだ。


 怒っている顔も可愛いなと思ってしまうのは俺の魂があくまでも第三者の所にあるからだろうな。


「この中だ。アイツの奥だな」


「アレは……」


 ライオン、クラーケン、フォックス、ゴーレム、ペガサス、ドラゴン。様々な部位が流動し、最早生物とは思えない合成獣キメラ


 最初見た時はビックリしたな。だって見た目が完全にホラー物のクリーチャーなんだもの。しかも遺跡自体も薄暗く、動きも早い。幸いにして体力が多いだけで火力は高くないのが救いだが。


「呼んだ手前、アレぐらいなら任せとけ」


「お、おい……あんな化け物に貴様如きが――――」


 上昇したステータスを活用し一気に距離を詰める。剣に魔力を一気に流し、発動効率が抜群に上がった奥義を撃ち放つ。


「【ダークネス・ディスオベイ】」


 剣に纏わせた竜巻状の闇を相手に叩き付けるシンプルな攻撃魔法。絶大な威力に甚大な魔力の消費量も【闇の皇剣】のおかげでぶっ壊れの威力と手軽な魔力の消費量を手に入れる事が出来た。


 通常使用でも滅茶苦茶な威力の魔法を、三倍の威力で放ったのだ。ただの一撃でキメラは身を捩り、聞くに堪えない咆哮を上げる。


「もう一発……!」


 二撃目。態勢を崩したキメラにクリティカルで入った。たったそれだけで撃沈し、今度は咆哮も上げずに地面に沈む。


「はい、拍手ぅ……って、なんだよ……?」


 意気揚々と振り返ってみればベルデの悍ましい物を見る様な目。もう少し褒め称えてくれても良いだろうに。


「ビビったか?」


「な、何なのだ……貴様のその……力は……」


「力を取り戻したんだよ。さっきの神殿でな。別に取って食ったりしねえから、早く来いよ」


 同僚がいきなり上司の魔王よりも強くなっていたのだ。誰だって同じ反応をする。俺だってきっとそうなる筈だ。


「この鏡を覗き込め」


 崩れ落ちた玉座の隣、そこにあるのは不気味な程綺麗な姿見鏡だった。


 これはゲーム内であらゆる呪いを解く事が出来る回復ポイント。玉座の裏にはボス報酬の宝箱があるのだが、それは後で構わない。


 重宝した事は無いが、設定的にここならば俺達の魂すらも浄化出来る筈だ。


「おい、ビビってんのか?」


「う、うるさい……覗けば良いのだろう……覗けば」


 中々足を踏み出さないベルデを煽ると警戒した足取りで鏡の前に立つ。そこに映っていたのは全身が黒い鎖で縛り付けられたベルデの姿だった。


「コレは……」


 突如、ベルデの今までを映し出す鏡。記憶から魂の隅々まで、色濃く照らし出される。


 愛しい家族や忠臣を裂かれ、最後は自分の体が粉々になる様を見せつけられ、縛られていた鎖は綺麗さっぱり溶け落ちた。


「あっ……ぐぅ……あぁ……」


「どうだ? 目、覚めたか?」


「き……きぃ――――貴様ァァァァァァァァァァッッッ!!!」


 記憶と自分自身を取り戻し、呪縛から解き放たれたベルデは俺の想定通り、見事なまでにブチ切れた。


 激昂した目は血走り、人間体から魔物の体――――風を纏う九尾の狐へと転身した。


「だよなぁ……だから嫌だったんだよ」

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