第10話
「あのさ……」
「……」
「ここ、俺の部屋なんだけど……」
「何か問題があるのか……?」
漸く落ち着いたベルデを連れて近くの町に訪れた俺達は宿に泊まる事にした。今、この状態のベルデを連れて帰るのは危険だと判断したからだ。
だがベルデは自分の部屋に帰ろうとしない。あろう事か、ベッドの上で布団に包まっている始末。
「ほら……風呂入ったのか? 結構暴れたろ」
「……入った」
「臭いぞぉ……あ、ごめんごめん。良い匂いだってば」
センチメンタルになっているのは理解出来るが、ここまでとは。王女様が寂しがり屋な幼女になっちまった。
「俺と一緒にお寝んねするつもりかよ?」
「……黙れ」
「お邪魔しまーす」
同じベッドに入り込むが、やはりベルデは無抵抗だ。なんだこの子は。このまま抱き枕になるつもりなのか。
顔を見せるつもりも無さそうで、俯いたままの幼女はじっと下を向いている。
「ふぅ……温ったけぇ……」
「……」
「良い匂いだ」
「……」
「可愛い柔らかい気持ちいマジでタイプ本当にマジで最高に可愛い」
「……ッ」
「ぶっ!? 痛ってえなぁ……」
頭突きによって顎を抜かれ、視界が揺れる。事実しか言っていないのに、何故攻撃されてしまうのか。
「何も言うなってか……?」
小さな手で俺の胸の辺りをキュッと掴む。それに応える様にして俺は正面からベルデを抱き締める。
「……マジで寝ちゃうぞ?」
「……」
「ハァ……おやすみ」
「我は……これからどうすれば良いのだ」
「ああん?」
「これからどうして……六魔天……魔王と関われば良いというのだ……」
「そりゃあまあ……普段通りに?」
「出来る訳が無いであろう。真実を知った今……魔王を前にしてしまえば、この殺意を抑えられん」
本当にその通りだと俺も思う。今までの価値観が裏返り、味方が敵になり、人類という敵は変わらず敵のまま。
「これからどうすれば良いのか。不安なんだよな?」
「……」
コクリ。本当に僅かだが、ベルデが首を縦に動かす。
「だったら俺に全部任せろ。ベルデのこれから、俺が全部決めてやる」
部屋に入ってから初めて目が合った。とても不安そうに揺らぐベルデの瞳の中に、しかと俺が映っている。
背中に回した手の力を徐々に強めるが、ベルデは全く抵抗しない。
「俺が魔王をどうにかする。だからそれが終わったらよ、一緒に暮らさねえか?」
ラスボスを倒した後、エンディングの先。ゲームが終わった未来の話。
「田舎に家建ててさ、畑とか作ってのんびり暮らすんだよ。偶に街に出たらお前がはしゃいでさ、綺麗なアクセサリーとか買っちゃって」
少しでも景気良く励ます為に、少しでも明るい話で盛り上げる。俺だって後の生活が楽しみなんだ。嘘じゃない。
「なんなら、王族にでもなっちまうか? 城構えてよ、いっちょ統治しちゃう?」
「……ふっ……荒唐無稽な夢だな」
「は? じゃあ叶ったらそれなりの事をして貰うぞ?」
「叶えば……な……」
「にゃんにゃんネロにゃん大好きにゃんって大勢の前で言わす」
「……もう少しマシな願い事をしろ……バカめ」
「まっ、大船に乗ったつもりでゆったりいけよ。みんなまとめて守ってやるから」
少しだけ、ほんの少しだけだがベルデの掴む力が強くなった気がする。
不意にベルデと目が合う。先程と変わらず揺れ動いているものの、どこか物欲しそうに感じるのは気の所為だろうか。
「……」
「……」
「……ンッ」
「恥ずかしかったか?」
「……!」
一度だけ、触れるだけのキスをした俺達。だが、離れた唇は貪る様にベルデの唇に閉ざされる。
何度も、何度も、浅く、深く。互いの体液と体温を交換する様に行われたソレは暫く続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます