第2話

 説明しよう、この世界の構成を。


 まず、全ての生物には一つずつ【ソウル】、その名の通り魂を持っている。このソウルを強化する事で色んな技や魔法を習得出来るという訳だ。


 だがこのゲームの主人公は別で、そのソウルを吸収出来る。モンスターや道具からソウルを吸収し、色んなソウルを切り替えて戦うタイプだ。


 序盤は微妙な性能である主人公だが中盤を超えてくると一気に化ける。所謂ぶっ壊れソウルやらぶっ壊れ装備やらを装備した日にはラスボスなんて三ターンで溶ける程。


 そして魔王。つまりこの世界のラスボスだ。


 コイツがまた厄介で、主人公と似たソウルを吸収する力を持っている。その力で魔王軍幹部達を吸収し、封印から飛び出てくるタイプのラスボスだ。


 なにより思想が厄介で、総ての生物を一つに統一するというトンデモマインドを持っている。


「どうするかなぁ……」


 その魔王の目的さえ無ければ余裕で主人公を殺して終わりなのだが……ここで更なる問題が発生する。ソウルを吸収する力を持つ者は同じ能力を持っていないと完全に殺し切れない。


 古の時代に力を持たない者が勇者の代わりに戦った結果、怨みを持った魔王が封印されたという設定がある。


 だからこそ、イカレマインドを持っている魔王を消滅させるには勇者にきちんと殺して貰わないといけない。


「色々試したい事があるけど……まずは……今がどこかだな」


 ゲーム内に於ける現在地。ゲームの進行度を探る事。そして俺……ネロを取り巻く環境をしっかり把握しておくこと。これが大事だ。


 まずは部屋を出る。


 ここはラストダンジョンである魔王城で間違いは無いらしい。部屋の構造も、通路の先も、全てが既視感に溢れている。


「帰っていたのか、ネロ」


 通路を歩いていると背後から凛とした女性の声に呼び止められる。


 金髪のポニーテールに白甲冑。キレのある目鼻立は隙の無さを伺わせる。


「ヴァイス……」


 彼女の名はヴァイス=ヴィ=ヴォードウィン。


 魔王軍幹部六魔天所属【光馬ホーリーペガサス】のヴァイスだ。


 このゲーム随一の不遇枠。こんな正統派女騎士という見た目を与えられておきながら、役割はただのかませ犬である。


 ゲーム中盤、六魔天との戦闘が本格化し始める頃。一番最初に出て来て普通に倒されて終わる。確かに過去を語るフェイズはあったがこうもあっさり死ぬのかと驚いたのを覚えている。


 まあ、ヴァイスの死因を作ったのは俺……というよりもネロなのだが。


「憎き勇者の末裔を始末したというのは本当か?」


「……ああ……タイミングはそこね……」


「どうした、具合が悪そうだが」


「いや、大丈夫だ。悪いな、心配させて」


 ネロの話し方はどんなだったかと思い出しながら唇を動かす。別にネロが一番好きなキャラという訳じゃ無いんだ。ネロが起こす全てのイベントは把握しているが、口調を真似するのは流石に難しい。


「フン……気味の悪いヤツだ……」


「ウルセェな……はいはい、上手くいったって。もうちょいで会議が始まんだろ? そこで全部聞かせてやるよ」


 気怠げで口が悪い。テンションが低いネロの口調はこんな感じだった気がする。


 口調は取り敢えず気を付けるとして……ヴァイスから零れた重要なワード。


 ――――憎き勇者の末裔を始末したというのは本当か。


 このゲームの始まりはネロが勇者の住む村を焼き払う事から始まる。何とか逃げ延びた勇者が仲間と共に世界を救うと、あくまでも王道なストーリーラインだ。


 ゲームは始まったばかり。主人公は今頃一人で森の中を彷徨っている最中だろう。最初の仲間に出会うまでは後一日か二日程度……。


「まっ……まずは会議だよな……」


「何を一人でブツブツと言っている。会議室に向かうのだろう?」


「おう、一緒に行こうぜヴァイスちゃん。俺様の武勇伝をたっぷりと聞かせてやるぜ」


「調子が戻ってきたな。さっきまでの調子で喋れば良いものを……」


「へッ、嫌われてんなァ」


 因みにコレも付け加えて説明すると俺ことネロはあらゆる陣営に嫌われている。狡猾なトリックスターでありあらゆるイベントの火付け役。それこそがネロ=サウザンドの役割である。

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