第30話



 僕は君を失ってはいけなかった。



 心に穴が空いていた。



 心に空洞が空いていた。



 大きな、大きな穴が空いていた。



 虚空ができていた。



 君がいなくなってから僕は泥のように眠り、起きては君を想っていた。



 君と過ごした日々はなんと幸福だったのだろうか。



 君じゃないとだめなんだ。



 君がいないとだめなんだ。

 


 



 泣いて、泣き疲れて、



 僕は白い空虚を漂っていた。



 ただ、部屋の一点を焦点が合わない目で見つめたままでいた。



 ああ、君にまた会いたい。



 また会って抱きしめたい。



君の温かさが恋しいよ。



 大切な、大切な、



 僕の君。

 おねえちゃんは必死に生きようとしていた。

 病院のベッドで寝たきりになっているおねえちゃん、本当はつらいはずなのに、私にほほえみかけてくれるおねえちゃん。

 手を握るとぎゅっと力強く握り返してくれていた。

 生きる意思は確かにあったはずなのに。

 治ったらまた海に行きたいねっておねえちゃんは言っていた。

 昨日まであんなに生きようとしていたのに今日はもう冷たくなっている。

 昨日まで温かかったその手は今は冷たくなっている。

人ってこんなに冷たくなるものなんだと知った。

 なんでもっと沢山しゃべらなかったんだろう。

 なんでもっと一緒にいなかったんだろう。

 人ってなんで死んじゃうんだろう。

 考えれば考えるほど受け入れたくなかった。

 綺麗な顔で寝ているおねえちゃん、もう目覚めないなんて思えなかった。

 起き出して、かずさって話しかけてくれるとしか思えなかった。

 もう話ができない。

 もっと一緒にいたかった。

 ずっと一緒だと思ってた。

 最後の別れの時、私は一生泣き続けるんじゃないかと思うくらい、胸がおねえちゃんでいっぱいだった。


 さようならおねえちゃん。


 さようなら。


 あなたがおねえちゃんで良かった。

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