第7話 ライトの心


「むにゃむにゃ……」


 子ども部屋で眠るイヴくん。

 すやすやと寝顔が可愛い。

 一方、テキパキとリンカさんは、食器を片づけている。お母さんって感じだ。

 

「イヴくん寝ちゃいましたね。さきにお風呂とハミガキしておいてよかった~」

「おれも食器洗い手伝います」

「え? ライトさんはギルドを稼いでくるから家事はわたしがやることに……」

「で、でも……」

「先にお風呂に入っててください。すぐにわたしもいきます」

「あの、そのことなんだけど……」


 なんですか? と言ってリンカさんは、お皿を棚にしまう。

 ちょっと言いにくいけど、きちんとしておいたほうがいいよな。よし……。


「おれはライトじゃない! 心はまったく違う人間なんだ!」

「信じられません……なぜ、とつぜんに?」

「わからない。でも、おれはライトじゃない。だから、リンカさんとお風呂に入るのは、ちょっと……気まずい」


 悲しそうに下を向くリンカさん。


「じゃあ、ライトさんの心はどこにいきましたか?」

「……それは」

「あなたはマコトという名前の異世界の人なんですよね?」

「ああ、そうだ」

「ミナから聞きました。あなたにはチートスキルらしい不思議な検索能力があるらしいですね?」

「た、たぶん、できます」


 だったら、と言ってリンカさんは顔をあげる。真剣な眼差しだ。


「ライトさんの心がどこにあるか検索してください!」

「なるほど……その手があったか!」


 頭の中で問いかける。

 ライトの心はどこにいるんだ?


 ピコン♪


『 ライトの心 地球人マコトの身体に転送中 』


 な、なんだと!!

 ARが出した答えに、身体が震えた。

 

 おれとライトは……。


 入れ替わってる!!


「どうしたんですか? 教えてください」

「あ、ごめん。リンカさんはこれが見えないよね?」

「見えません……検索結果は、なんと?」


 どうやら、とおれは言葉をためた。

 リンカさんは息をのんでいる。 


「ライトは地球にいるおれの身体……つまりマコトに転送されているらしい……」

「そ、そうなんですか! よかったぁ」


 リンカさんは、ほっと胸をなでおろす。

 希望のひかりが、見えたようだ。


「じゃあ、マコトさんもライトさんも、いずれ元に戻る可能性がありますよ! いや、戻して見せます!」

「え?」

「わたしは魔導科学者です。わたしのデータに不可能という文字はありません」

「ど、どうやって?」


 うーん、と唇を指であてるリンカさん。かわいい。

 

「わかりません!」

「きっぱり言い切ったね……」

「はい! ですが、何か原因があってマコトさんとライトさんは入れ替わった……そこを探求していきましょう」


 あごに拳をあてるリンカさんは、まるで名探偵みたい。


「リンカさん?」

「あ! なぜ入れ替わったのか、それもチートスキルでわかりませんか?」

「やってみます」


 なぜ、ライトとマコトの心は入れ替わったのか?


『 エラー 検索を妨害されました 』


 あれ……無理っぽいな……。


「ダメですか?」


 リンカさんが顔を近づけてくる。


 ち、ちかっ!


 で、でも、だいぶ綺麗な女の子に慣れてきたぞ。

 緊張しなくなってきた……よし!


「何者かに検索を妨害された……」

「ふふふっ」

「リンカさん?」


 不敵に笑うリンカさんは、美しいけど、ダークエルフみたいだ。


「楽しくなってきました……科学者としての血が騒ぎます」

「……そ、そうなんだ」

「まぁ、妨害された理由も……いずれ解けるでしょう」


 いつまにか、食器の片付けは終わっていた。

 するとリンカさんは、ぎゅっとおれに抱きつく。あわわっ! 


「おれはライトじゃなくて……」

「身体はライトさんです。甘えさせてください。寂しいんですから……」

「で、でも、ちょっと、え?」


 ぐいぐい、リンカさんはおれの服を脱がしてくる。


 まいったな……。


 なるべく見ないようにしよう。

 そっと目を閉じながら、リンカさんとお風呂に入った。

 

 ♪~


 ちょぽん


 水滴が湯船に落ちる。

 お風呂は、ふたりの大人が入れる大きさで、ゆったり浸かることができた。

 

 にしても、生まれて初めて女の人とお風呂に入ったが……。


 恥ずかしすぎて、見れない!


 背中を向けておこう。

 

 むにゅ♡


 ん?


 背中にやわらかい感触があたる。

 こ、これは、やっぱり……あれなのか?

 イヴくんが好きな、あれか?


「どうしたんですか? 身体はライトさんなんですから、堂々としててください」

「ど、ど、堂々としたらやばいと思います!」

「なぜですか?」

「こ、こ、興奮して……あの、その……うっ」


 クスッとリンカさんは笑った。


「んもう、わたしたちは結婚してるんですから、恥ずかしがることないですよ? 固くなったところ見せてください」

「ダメです!」

「いやぁん……見せてください」

「リンカさん! 何度も言いますが、おれの心はマコトなんです!」

「あのぉ、そのマコトさんって、まさか……」

「な、なんですか?」

「どうて……」


 すべての言葉をリンカさんが言うまえに、


 ザブン!


 おれは湯船からでた。


「きゃっ」

「先に出ます!」


 わぁぁぁ!

 

 童貞ってバレてるかもしれない!?

 

 もう、今日は寝よう。

 秒でタオルドライして、パジャマは……ない!

 

「下着しかなーーい!」


 そっか、たしかパンイチの裸で寝てたよな。


「しかたない。このまま寝室にいこう……にしてもすごいなライトって、あんな美人なリンカさんと結婚してて、パーティの女の子たちからもモテモテ……おれの人生とは正反対だ」


 ってか、まって……。


 リンカさんもこのベッドで寝るのか!?


 ドキドキドキドキ!


 心臓が爆発しそうだ。

 こ、このベッドでエッチを……。


「あわわわわ! もうダメだ、想像しただけで……しぬ……」


 しばらくすると、本当にリンカさんがベッドに入ってきた。

 やばぁぁぁ! 寝たふりしておこう。


「ぐ~ぐ~」


 ベッドに座るリンカさんは、そっと息をはく。 


「ふぅ……なんだか可愛いな……優しいライトさんもいいかも……おやすみなさい」


 オレンジ色の照明が消えた。

 となりでリンカさんの寝息が聞こえる。


「……」


 おれは考える。


 ライト……。


 彼は、いったいどんな人物だったのだろう。

 どうやらおれとはまったく性格が違うらしい。

 そして、地球でおれの身体に転送されているようだ。


 おれは元に戻れるのだろうか?


 こうして、異世界の1日目が終了したのだった。

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