第6話 家でパーティ!


「ただいま~」


 玄関の扉を開けると、


「おっかえりー!」


 息子のイヴくんが抱きついてきた。


「パパー! きょうね、きょうね、うんちいけた! いっぱいでたー!」

「……そうか、よかったね」

「うん、エレナせんせいにもみてもらった。おっきいね、っていわれた」

「……うーん、トイレはすぐに流そうね」

「はーい! んにゃ? このにんげんどもは、だれ?」


 おじゃまします、と挨拶するミナ、スゥイ、キッド。

 靴を脱いでいたおれだが、はっ! とする。

 ここは異世界だ。家のなかは靴をはいててオッケーだよな。


「あ、イヴくん、ちょっとリンカさんを呼んできて」

「あーい」


 しばらくすると、リンカさんがやってきた。

 やっぱり綺麗だ。

 今日、初めて異世界を冒険したけど、リンカさんが一番タイプ。

 雪のように白い肌、ハーフアップの金髪、まるで妖精エルフのような凛とした顔。うん、パーフェクト!


「あら……ミナ、スゥイ、キッド、おひさしぶりです」


 ぺこり、と頭をさげるリンカさん。

 誰に対しても敬語だし、腰が低いんだね。

 もしかしたら、ライトは自分が追放されたことを、リンカさんに黙っていたかもしれない。

 まあ、復帰した今となっては、どうでもいいことだが……。

 ミナは、にっこりと笑った。


「ひさしぶり、リンカちゃん! 単刀直入にいうけど、ライトがライトじゃないわ」

「……あら、まだそんなことを? ライトさんったら朝から変態なんですよ」

「変態?」

「あ、間違えました。大変なんです」

「んもう冗談言ってる場合じゃないわ、リンカちゃん! いい? 身体はライトだけど、心は異世界の人間なの……わかる?」

「ん? じゃあ、ライトさんの心は、どこに?」

「そ、それはわからないけど……」

「ミナちゃん……ライトさんはライトさんよ」

「……まぁ、そうなんだけど、ああんもうっ! 説明がむずかしいわっ!」


 ミナは、頭をかきむしる。

 あらあら、とリンカさんはみんなを家の中に招いた。


「ちょうど食事の用意ができています。よかったらいっしょに食べましょう。手を洗ってくださいね」


 はーい、はい、とスゥイとキッドは返事をした。


「本当マイペースなんだからリンカちゃんは……」


 ほっこりしているミナは、家のなかに入っていく。

 一方、イヴくんはスゥイのことをじっと見つめていた。


「おっぱい、すごい!」


 目を丸くするイヴくんは、スゥイを指さした。


 あ、言っちゃった。


 にっこり笑うスゥイは、しゃがんでイヴと目線を合わせた。


「イヴくん、ひさしぶり~っていっても、赤ちゃんのころだから覚えてないか?」

「ほえ~? イヴくんあかちゃんなの?」

「そうよ」

「へ~じゃあ、おっぱいのむー!」


 むにゅ♡


 スゥイの胸に飛び込むイヴくん。

 

「こら、むにゅしちゃいけませーん!」


 リンカさんは怒って、ジタバタするイヴを抱きかかえた。

 今朝、飛び蹴りして悪者を倒した光景がよみがえる。


 この子って本気だしたら、この家を壊しそうだな……。


 びっくりするスゥイは、両手をあげていた。


「わお、積極的あるね~将来有望よ~」


 なんか嬉しそうだなっ!


 キッドはうらやましそうに、唇を噛んでいた。


 相手は子どもだぞ、嫉妬すんな!


 やれやれ、異世界にきてツッコミにも慣れてきたぞ。

 

「ねえ、ライト。はやくレンズを持ってきてよ」

「あ、はいはい」


 ミナに背中をたたかれ、とりあえず寝室にいく。

 でもどこにあるんだろう。


「レンズってなんかメガネっぽいから、ベッドのサイドテーブルになりそうだけど……あ! あった!」


 小さな黒い箱がある。

 開けてみると、なかに透明な丸い形をした機器をみつけた。これがライトのレンズだろう。


「装備してみるか……」


 つまんで、こめかみに近づけてみた。

 

 ピトッ


 皮膚にくっつく、けどまるで感覚がない。

 試しに、指先で触れてみる。


 ブン!


 画像が浮かんだ。

 まるでパソコンが起動するみたいに、幾何学的な模様や、みたこともない数字が映し出される。青白い光りが、部屋に広がっていく。

 

「す、すげえや……」


 画面を手で払えば、スッと消えた。

 

「よし、みんなのところへ戻るか……ん?」


 って、もう食べてる!


 みんな楽しそうに食事していた。


 うまそう!


 サラダのうえに魚の切り身がのっている。カルパッチョか?

 あれは唐揚げだろう。ゴツッとした肉の塊がある。

 主食はパスタか。ニンニクの香りが鼻を刺激して、食欲がわいてくる。


「リンカさん、また料理の腕をあげたね!」


 キッドがほめると、リンカはにっこりと笑った。

 

「イヴくんを産んでから、ずっと家にいます。料理くらい上手くなりますよぉ」


 ミナは、パスタを食べながら質問する。


「リンカちゃん魔導具の開発はどう? 続けてるんでしょ?」

「ええ、もう少しで完成します」

「おお! できたら見せてね!」

 

 はい、と答えるリンカさんは、グイッとグラスの中の赤い液体を飲んだ。

 

 ワインだろうか?

 

「ライトさんも飲みます? マジカルカクテル?」

「もらおうかな」


 とくとく、とグラスに注がれる赤い液体。

 照明に反射して、宝石のようにきらきらと輝いている。

 グイッと飲んでみた。


「うまいっ!」


 やっぱりワインのように芳醇で、酸味があってキレがある。

 おっ? じわじわと身体があつくなってきた。アルコール度数が高いっ!


「酔うねぇ……これって何?」 

「ドラゴンの血が入ってる葡萄酒です。魔力がアップしますよぉ」

「げっ、血? ドラゴンって……うわぁぁ、身体があちぃ」

 

 ええ、と答えるリンカさんは、さらにグイッと飲んだ。


「みんなも飲みます?」


 ミナとキッドは仲良く首を横にふった。ちょっと引いてる。


「あら、美味しいのに……」


 一方、まるで競うように食いまくるイヴくんとスゥイ。


 ガツガツ! もぐもぐ!


 おまえらは、フードファイターかっ!


「イヴくん! やるね~」

「スゥイおねえさんもね~」


 顔を青くするリンカさんが、ぼやいた。


「ああ、食費が……」


 はっと思い出した。

 我が家には、お金が必要だ。

 ミナに声をかける。


「レンズを持ってきたけど」

「よし! ギルドをわたすわ……メニューを開いて」

「メニュー?」

「指をふれると開かれる画像のことよ」


 わかった、と答えたおれは、レンズに触れた。

 ちょっとミナがおれに近づいて、丁寧に教えてくれる。


「ストレージってところを触って」

「うん」

「ここに、ライトのギルドカードがあるから、だしてみて」

「触れればいいの?」

「ええ」


 ブン!

 

 目の前にカードがでた。

 どういう原理なのか不明だが、おそらくこの異世界は、微粒子レベルで物質をあやつれるのだろう。


「じゃあ、入金するわね……10000ギルドっと」

「ありがとう」

「礼を言わなくてもいいわ。これはライトの戦利品だし、あたしたちを助けてくれたんだから……ありがとね」

「あ、いや、こちらこそレンズのやり方を教えてくれて……ありがとう」


 どういたしまして、と答えるミナの顔が赤い。

 すると、リンカさんが顔を近づけてきた。


「あれあれ~? やっぱりまだライトさんのこと好きなんですね~ミナちゃん」

「やめて……友達としてよ! なんで結婚してる人を好きになんて!」

「うふふ! まぁ、無理もないですよね。ライトさんはかっこいいもの」

「はいはい、夫婦でイチャイチャしてなさい!」


 ふんっと横を向いたミナは、笑っていた。

 すると、キッドも戦利品をわたしてくれるようだ。メニューを開いている。


「ライトー! ゴブリンの剣と棍棒は売れるぞ」

「なるほど、ありがとう」

「おう! 戦利品は、その魔物を倒した冒険者のものだからな」

 

 無骨な剣、棍棒を手に入れた。

 さて、いくらで売れるかな、わくわく。


 ♪~


 楽しい食事会がおわり、みんなは席を立つ。もう、お別れの時間だ。

 

「じゃあ、また冒険しようぜ」


 キッドは、チャラいやつだけど、心はいいやつだ。

 なんだか憎めないリーダー。 


「……バイバイ」


 ミナは、ツンっとしてるけどデレたとき可愛い。

 みんなが困ったときの知略家だ。  


「またね~」


 スゥイは、ゆるふわな癒し系。

 行動力があって、元気をくれる。


 いいパーティだな。


 寝てしまったイヴを抱っこしているおれは、手を振った。


「じゃあ、明日も冒険するか?」


 もちろん、とみんなは答えた。

 隣にはリンカさんが、ニコニコ笑っている。

 ワイン、飲みすぎてないか?


「みなさ~ん、さようなら~」


 バタン


 玄関の扉が閉まり、賑やかだった家が嘘のように沈黙が流れる。


「さあ、イヴくんも寝たことだし……いっしょにお風呂に入りましょう」

「え?」

「ライトさーん」


 ぎゅー♡


 リンカさんに抱きつかれ、身動きがとれない。


 うわぁぁぁぁ!


 女の人といっしょにお風呂に入ったことがない!

 

 まあ、ふつうないよな。

 

 っていうか、おれはライトじゃないのに、リンカさんの裸を見てもいいのだろうか?


「どうしよう……」

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