第5話 初めての冒険
ずるぽずるぽ
麺をすする音が響く。
おれ、ミナ、スゥイ、キッドはラーメンを食べていた。
黄金の鶏がらスープに、柔らかいチャーシューがのっている。
「おいしっ!」
でも、まってくれ……。
「おれ、金ないや」
ごくごく、プハー!
スープを飲み干したミナが、ドン! とどんぶりを置いた。
「ここはあたしが払っておいてあげる」
「ありがとう、ミナさん」
「その呼び方、なんか調子狂うわね……ミナでいいわ」
「あ、ミナありがとう、またお金を返すよ」
「いいわ。身体で払ってもらうから……ふふっ」
「え?」
ミナの瞳が、きらりと光る。
な、何を考えてるんだ?
「ごちそうさま~」
キッドはどんぶりをカウンターに戻した。
店主のオヤジがにっこりと笑う。
「ありがとよ~」
まだ、ずるずる食べているスゥイは、ぱっと口を開く。
「おい! オヤジ! 替え玉ぁぁ!」
あいよ、と答える店主。
神業ともいえる湯ぎりをしたあと、ぽいっと麺を投げた。
!?
おみごと! スゥイのとんぶりに入る。
「すげぇぇ!」
興奮したおれは叫んでいた。
♪~
ラーメン屋からでたおれたちは、ぶらぶら歩いた。
みんな、お腹いっぱいで……無言だ。
「うっぷ……」
「スゥイ、あんた替え玉しすぎよ」
「にゃぁぁ、ちょっと戦闘してダイエットしないと太っちゃうぅ」
あ! と気がついたキッドがレンズに触れた。
画像を操作しながら、何やら調べている。
「新しいクエストがきてないかな……あった! 街道にゴブリンが出現して、行商人を襲っているってさ」
「いきましょう!」
ミナが答えると、スゥイが拳をあげた。
すると、キッドがおれのほうを見てくる。
「ライト、おまえレンズ忘れたからどうする?」
「ん?」
「ダガーだけで大丈夫か?」
ミナがあいだに入ってきた。
「そもそも戦えるの? 身体はライトでも、心がねぇ」
「そっか……じゃあ、ライトは見学してな」
わかった、とおれは答えた。
ん?
気づけば、スゥイの姿がない。
「あいつ、もうあんなとこに!?」
キッドが見つめる先には城門があり、スゥイは門番の兵士と親そうに話をしていた。
おれたちも、そこまで急ぐ。
ギィィ
立派な城門が開き、いよいよ冒険のスタートだ。
「す、すげぇ……」
美しい草原が広がっていた。
そのなかに一本だけ道があり、ゆるやかにのびて、遠くには海が見える。
みんな歩きだす。
すると、ミナが話しかけてきた。
「ライト、前世では戦闘の経験はあるの?」
「実戦はないけど、ゲームでならあるよ」
「ゲーム?」
「仮想現実っていえばわかるかな?」
「ああ、ヴァーチャルのことね。チキュウってアトラスの文化と似てるみたい」
「うん、ラーメンもあるよ」
「ふぅん……いったい、どういうことなのかな……不思議」
遠くの空を見つめるミナ。
その方向には空島が浮かんでいて、漆黒の魔王城がそびえ立っている。
「ミナ、空島に行ったことはある?」
「な、ないわよ! っていうかあそこには近づかないほうがいいわ」
「魔王がいるから?」
「え? そうなの?」
逆に質問されてしまった。
どうしよう。
「……あ、あはは」
「なんで魔王がいるってわかるの? あなた……本当は何者?」
「ごめん、いってなかったけど、実は調べたいと思うと、親切に説明してくれる画像がでるんだ」
「はあ? 何それ?」
見えないと思うけど、ARをだしてみる。
ミナが装備している防具は?
ピコン♪
『 魔法使いのドレス 』
やっぱり見えてないようだ。
ミナの目の前にあるのに、まったく気づいていない。
「なによ? いま出してるの?」
「うん」
「それ、あなたのチートスキルじゃない?」
「そ、そうなのか?」
「わからないけど、古代の文献にこうあったわ。“古代人は、チートスキルをあやつっていた”って」
「まじ? じゃあ、おれは古代人ってこと?」
「さあ……あたしは詳しくないけど、古代についてはリンカちゃんなら知ってると思うわ。帰ったら聞いてみてちょうだい」
わかった、と答えたおれは立ち止まった。
スゥイとキッドが、草に隠れている。おれとミナも身を低くして近づいた。ゴブリンを発見したようだ。
「わぁぁぁ!」
逃げまどう、数人の行商の姿も見える。
すると、キッドが声をかけてきた。
「おいライト! あそこをみろ! ゴブリンが3体いる」
「本当だ。小さいな……人型の魔物だ」
「ああ、小柄だけどパワーとスピードはふつうの人間より遥かに上だ」
ミナが話に入ってくる。
「ライト、あなたが追放されたから戦闘が大変になったのよ」
「え?」
「こうやって戦ってた。スゥイの先制攻撃のあと、キッドが続いて、あたしが魔法で全体攻撃をしてフィニッシュ!」
「そうなんだ」
「でもこれだと回復役がいないのよ。雑魚敵には効率的だけど、強敵にあったら殺されそうになったわ……だから急いでライトを復帰させたこともある」
「なるほど」
「キッドが嫉妬してライトを追放したけど、あたしだってライトの魔力に嫉妬してたんだよね。ここだけの話、あなたはライトじゃないから言うけど……」
「そっか」
「ふふっ、でもまぁ、今日はゴブリンだけ倒して帰りましょう。ライトの出番はないわ! あたしの魔力を見せてあげる」
頼んだぞミナ、とキッドは声をかけると、スゥイといっしょにゴブリンに攻撃をしかけた。
スゥイの拳には、爪が装備されている。
キッドは双剣で、踊るように攻撃していた。
まぁ、敵はゴブリンだ。
楽勝だろう。
ん?
しかし、様子がおかしい。
ゴブリンの身体から、闇のような禍々しいオーラがただよっている。
スゥイとキッドの攻撃が、まったくあたらない。
逆に反撃されて、キッドが殴られてふっ飛ばされた。
「うわぁぁっ!」
倒れるキッドは、受身できず、あばらの骨が折れたようだ。
すかさずミナが回復魔法をする。立ち上がったキッドは、目を丸くして驚いた。
「な、なんだ? いつものゴブリンじゃあない!?」
きゃぁぁぁ!
スゥイの叫び声があがる。
剣を持ったゴブリンに斬りつけられていた。
すぐにミナが回復魔法をして、傷を癒す。
「ありがとう……」
「いったん、こっちにきてミナー!
「りょ」
大きくジャンプして、戦闘から回避しようとするスゥイ。
しかし、ゴブリンたちも飛んで、それを阻止する。
3体のゴブリンに囲まれたスゥイは、絶体絶命のピンチ!
「いけーっ! ファイヤーボール!」
ミナは、杖から火の玉を飛ばす。
よし!
うまくゴブリンに命中させた。
しかし、火だるまになった魔物は、グガガガガ! と笑っていた。
まったくノーダメージだった。
プスプスと火が消えたゴブリンたちは、半泣きのスゥイに迫る。
なんだ、どういうことだ?
あの敵を調べてみよう……。
ピコン♪
『 強化型ゴブリン 魔力2300 耐性 火 氷 』
そうか、そういうことか。
調べた結果、ミナが火の玉を当てても、ノーダメージだった理由がわかった。
このゴブリンは強化されていて、火に耐性がある。
「うそでしょ……」
「こ、こんなゴブリンはしめてだ……」
絶望するミナとキッド。
このままじゃ、スゥイがやられてしまう。
なんとかしなきゃ! でもどうしたら?
ピコン♪
『 ライトの戦闘 武器に魔力をこめると攻撃力がアップ 』
これだ!
「うぉぉぉぉ!」
ダガーを手に持って、気合を入れてみる。
バチバチバチ!
すると、青い稲妻がほとばしり、ダガーに雷属性がついた。
「よしっ!」
シュッ!
走って、ゴブリンに攻撃をしかける。
電光石火の、稲妻斬りだ。
ザンッ! バシュッ! グサッ!
さすがライトは鍛えられている。
まるでゲームを操作するみたいに、身体を思い通りに動かせた。
ドサッと倒れる3体のゴブリンは、きらきらと光りの粒子となって消えていく。
完全にゲームの世界だな。
地面に残っているのは、ゴブリンが装備していた剣や棍棒だ。
おそらく戦利品だろう。
ゆっくり近づいてくるキッドは、それらを持ち上げた。
「これは俺が持っておこう。首都に帰ったらライトにわたすよ」
「わかった」
「それにしても、すごいな……以前のライト以上に速いし、強い! マジで転生したんだな」
ぎゅー♡
おっと?
「ありがとうー! ライトー!」
スゥイに抱きつかれた。
泣きそうになっている彼女は、なんだか悔しそうだ。
「くそ~! 修行が足りなかった~」
ミナは、ポンとスゥイの肩に手をやる。
「あのゴブリンは強かった。あたしたちの魔力を超えてたよ……でも、ライトのおかげで助かった。ありがとう」
うん、とおれはうなずいておいた。
人から感謝されることに、慣れていない。
すると、横から行商人のおっさんが現れた。
「助けてくれたお礼です。どうぞ」
手には一枚のカードを持っていて、レンズを使って画像を出している。
なに、これ? なんかの儀式?
まったくわからない。
「あ、すいません。あたしがもらっておきます」
ミナは亜空間からカードを取り出すと、行商人と何やら取引を交わした。
「10000ギルドくれたわ~」
喜ぶミナは、「ねえ」とみんなに向かって提案する。
チラッとおれの顔を見た。
な、なに?
「今からライトの家にいきましょう!」
は? いいのか?
リンカさんに何もいってないぞ。
キッドとスゥイは、嬉しそうに瞳を光らせている。
「お! ミナ、それはいい考えだ!」
「イヴくんに会うの、ひさしぶりね~」
うふふ、とミナは笑うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます