第25話 オリジナルの番匠


 俺は今過去最高に頭をフル回転させている。

 俺の目の前にいる番匠美乃は本当の番匠美乃ではないということ。

 俺と過ごした昼休みは全て偽りだったということ。


 信じたくない。


 だが彼女は確かに言った。


『番匠美乃の心が作り出した存在しない存在』

 

 ……だと。



「詳しく説明してくれ……」


「……もう授業始まっちゃうからまた明日ね。おっさきー」



 天文部の部室に一人残された。

 どこかうつろで心にぽっかり穴が空いた気分だ。


 そもそも人は分身するものなのか?

 いや、ありえない……。

 だがあり得ないと思うこと自体が固定概念なのかもしれない。

 

 考え抜いた俺は渦巻に聞いてみることにした。こういう怪しげなことは渦巻だと相場が決まっている。


 それから教室に戻るとすでに授業は始まっていて先生に少し睨まれたがなんのことはない。


 睨み返した。

 

 案の定何事もなく授業が終わり、後ろに振り向くとすでに渦巻はいなかった。

 そして真っ白な女の子が教室から出ていく姿を視界に捉えた。


 どこか俺を避けているようだ。

 上等だぜ、こうなりゃ捕まえて吐かせてやる、番匠美乃の秘密を。


 

 〜10分後〜


 結局俺は渦巻を捕まえることができなかった。まるで俺が探そうとしている場所がわかってるようで。


 諦めかけた俺は天才的な発明を思い出した。


 まずノートを1枚破る。

 そしてその破ったノートに文字を書く。

 文字の内容はこうだ。


 『番匠の正体を教えてくれ』


 そしてその紙を後ろの席に放り投げる。

 どうしてこんな簡単な方法が今まで思い付かなかったんだ。

 まったく、やれやれだ。


 しばらくすると後ろから丸められた紙が飛んできて俺の側頭部に当たり目の前の机の上に落ちた。

 ちっ。っと軽く舌打ちをした。

 

 どれどれ。俺は鼻歌混じりに紙を開いて内容を確認した。


『正体はわからないよーん。化物は正体がわからないから化物なんだよー、正体がわかれば価値がなくなるじゃーん』


 と、チャラチャラした返答がチャラ字で書かれている。

 

 正体がわかれば消える。

 存在の価値がなくなる……。

 幽霊やオバケみたいなものか?


 正体がわからないから怖いのであって、正体がわかれば全く怖くなくなる。そしてその存在にすら価値がなくなる。


 おや? 

 まだ何か裏に書かれている。


『正解……』


 渦巻らしいな。

 お前の正体の方が知りたいよ俺は。


 ん?


『教えないよーだ』



 ……こわ。


 先読みの先読みだ。

 これじゃ文通にもならん。

 

 わかったことは番匠美乃は本当に二人いるということ。

 そして渦巻の正体が今だに謎だということ。

 

 ……渦巻の方がよっぽど怖いわ。 



 5月11日(水)雨


 俺は弁当が入ったカバンを片手に天文部の部室へと向かっていた。

 今日は昨日や一昨日とは違う意味で楽しみだ。なにせ番匠の正体を突き止める絶好のチャンスだからだ。


 俺は勢いよく天文部の部室のドアを開けた。


「たのもーー」


 と少し声を抑え気味に言ってみた。


「なっ、道場破り! でも美乃はまだ看板を下ろす訳にはいかないわ、だからあなたと戦う」


 そう言って番匠は立ち上がりファイティングポーズをとる。 構えから見るに素人で隙がありすぎる番匠が少し可愛く見える。


 これが本場のノリツッコミか。


「おまえ本当に番匠じゃないのか?」


「だから私は番匠美乃だって。オリジナルじゃないけど……」


 そう言って構えを解いた番匠。

 目からは先ほどより活気が無くなっている。



「オリジナルはなんで学校に来てないんだよ」


「知らないよ、行きたくないから行かないんじゃないのー?」


 それはそうだ。


 行きたくないから行かない。そんなことはわかってる、俺はその理由が知りたい。


「なんで行きたくないんだよ」


 番匠は右に左に目線を動かし何かを考えるような仕草を見せ、突然座りだした。


「食べながら話そっか」

「あ、ああ。そうだな」


 座り出した番匠の目の前には手作りの弁当が丁寧に置かれている。もちろん俺の分は無い。


 そして番匠は手を合わせて「いただきます」と言った。おれもそれに倣い食べ始めた。


「私もなんで行きたくないか知らないんだよ。だから明日連れてくるから聞いてみたら?」


「わかった……」




 ……? どういう状況だ?

 頭の整理が追いつかん。


「それか放課後、私の家にくる?」

「それでいいならそうしたい」

「さすが男の子、積極的だねー」


 目の前の唐揚げを頬張る番匠。


 積極的といいつつも俺を家に誘ったのはお前だろう。そんな事を思いつつも、よかれよかれと自分の弁当を食べ切った。


「それじゃ4時に玄関、遅れないでよね」

「あぁ」


 また部室に1人残された。流石に遅れないように教室に戻るとしよう。


 未だに番匠が2人いるなんて信じられないのだが、行けばわかるだろう……。

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