第24話 存在しない存在
5月10日(火)
昼休み。
今日も番匠と他何人かで昼飯を食べたいと思っていた俺は水鳥に断られるだろうと思い、あえて渦巻誘う事にした。
そこに理由なんてなく、ただ友達がいなかったからだ。
花火は学校ではなかなか会えない。
水鳥は一人で昼を食べる。
消去法により渦巻というわけだ。
そんなことを授業中に考えながらチャイムと同時に振り返ると渦巻と目があった。
相変わらず色白という言通りの肌に雪が積もったような真っ白な髪、そして何もかもを見透かしたような目。
「なあ渦巻、今日なん……」
「無理だよーん」
まだ何も言ってないんだけど、やはり水鳥のいうことは本当なのかもしれない。
渦巻が俺の心を読んでいること。否、未来を予測していること……。
先手を取ったつもりがカウンターを食らってしまった俺は渦巻に理由を聞くことにした。
「なんで無理なんだ? ……というより何が無理なんだ?」
「にぶちんだなー優春くんは、1から10まで説明しないとわからないのー?」
珍しくぶっきらぼうな表情をする渦巻。
そして椅子から立ち上がりカバンを抱えた。
「いや、わかってる。俺と昼を食べるのが無理なんだろ?」
「……正確に言えば天文部の部室にいる女の子と食べるのが無理なんだけどなー」
……?
渦巻は天文部の部室で番匠という子が昼飯を食べていることを知っているのか?
俺も渦巻と同じように席から立ち上がった。
「なんであの子が無理なんだよ、理由を聞かせてくれ。喧嘩でもしたのか?」
「だってさーあの子……人じゃないしー」
番匠美乃は人ではない?
それはどういうことだろうか、言ってる意味がさっぱりわからない。
むしろ水鳥の話では人ではないのは渦巻のはずだろ。
渦巻は真っ白な悪魔なんだろ…?
それもおかしな話なのだが……。
「それってどういう意味だよ……」
「とりあえずー、無理なもんはむっりー。
消去法でっていうのが気に食わないんだよ、ばかちーん」
渦巻はあっかんべーと言わんばかりに下を出して
教室から立ち去って行った。
消去法なんて言葉、一切口に出してないのにな。
まったく、番匠に聞いてみるか……。
そうして俺は今日も一人で天文部の部室に足を運んだ。
「おっす」
「こんにちわ」
毎度お馴染みの挨拶だ。愛嬌があって可愛らしい。
ショートボブで顔も整っているし魅力的な子だ。
そしていつも通り机を挟んだ反対の席に腰を下ろした。
「そういえば今日ってもしかして……」
「もしかしないよ?」
ガーン。
全てが膝から崩れ去る音がした。俺は今日この日を待ち遠しかった。
すでに胃袋のテイストは番匠の弁当にシフトしてある。
なぜ、もしかしないんだ……。
「俺今日弁当持ってきてないんだけど……」
しかしそんな俺を見てニヤニヤする番匠の顔がなんとも愛くるしい。
「はい!これは五之治くんの分」
あるのかよ驚かせるとは体と心に悪すぎるだろ。
そして二人仲良く番匠と昼ごはんを食べながら他愛もない会話を続けた。
二人で過ごす時間はとても楽しくあっという間に予鈴が鳴る。
どうしてこうも時間は早く過ぎるのだろうか。
空っぽになった番匠の弁当箱を眺めながら会話を続けていると渦巻の言葉をふと思い出した。
『番匠美乃は人じゃない』
どうもその言葉が俺の好奇心を揺さぶった。
「なぁ番匠って一体何者なんだ?」
狭い部室の空気が一瞬で固まった。『私は人間だよー』あるいは『何その質問うける』みたいな返事が来ると思っていたのだけれど、どうやら現実は俺の理想とは180度違っていたらしい。
「私は番匠美乃の心が作り出した存在しない存在だよ……」
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