第2話 新しい世界

 約1週間、不自由のない病院生活をして気づいた事が3つある。


 1つ目は俺に関しての情報。

 見た目が15か16くらいの男の子になっている。

 それは元の世界より10歳ほど若返った姿。


 身長は178センチくらいで髪型はミディアム、黒髪はこの世界の日本人のデフォルトらしい。そしてスキルやパラメータの表示はない。浮遊しているはずのマナも見えない。恐らくこの世界では魔法も使えないということ。


 2つ目は敵に関しての情報。

 この世界は俺が元いた世界と違って魔王や魔物といった敵が存在していない。だが街の外に出ればわからない、ここ東京だけが守られているのかもしれない。


 3つ目は文明の進化。

 おそらくだが魔法やスキルが使えない世界だからこそ、道具の性能が著しく進化している。

 俺の世界では魔法で連絡を取り合ったり、魔力をエネルギーに変換していた。そのため道具自体はそこまで進化しなかった。

 

 だがこの世界は違う。

 スマホや自動車などあらゆる産業が著しく進化を遂げている。



「優春、ご飯できたよ」


 退院した俺は母親が住んでいるマンションに住む事になった。とてもデカくて堅牢な作りをしている建物の一室だ。

 中は広くて綺麗で明るい。

 テレビには正直驚いた。魔法道具かと思っていたのだけれどケーブルで電子情報を収集し電気で映し出しているらしくまさに文明の力だ。


 この世界は良い。

 まったく生活に不便しない。

 

 それも母親のおかげなのだろう。仮に俺のことを知る人が1人もいなかったとしたらどれほど苦労したことだろうか。

 今頃、道端でのたれ死んでいるかもしれなかった……。


 それにしても文明の進化には驚かされる。

 なかでも電子機器と言った俺の世界にないものが物凄く発展している。パソコンやスマートフォンといった電子情報媒体が魔法道具以上に役立っている。

 これは早く使い方に慣れないと高校生になれそうもない。


 なんていろいろ考えている間にリビングについた。


「ありがとう、母さん」


 椅子に座り手のひらを合わせる。

 この行為はこの世界の慣わしらしく、勇者達も同じような事をやっていた事を今でも覚えている。


 えーっと確か……。


「いただきます」

「たくさん食べてね。それより優春、記憶は戻った?」


 ……記憶。


 目が覚めてからこの体の持ち主の優春は記憶を失ったことになっている。実際に転生するまでのこの体の記憶は俺には無いのだから仕方のない事だ。


 それに記憶喪失にした方が立ち回りもだいぶ楽になるからだ。


「ごめん、母さん。まだ思い出せないみたい」

「いいのよ、ゆっくりでいいから。あなたが生きていただけで嬉しいもの」

 


 それにしても優春と呼ばれる事に多少の違和感はあったのだが案外しっくりと来ている。

 急に自分の名前が変わるという体験をする人はそうそういないだろう。しかしわずか1週間足らずだが優春という名前は妙に俺に馴染んでいる気がした。


 ご飯を食べ終わると俺は優春の部屋に行き、机に置いてあるパソコンを使ってこの世界についての色々な事を調べようと思った。最初は母さんにパソコンの使い方を習いそれからは一人で試行錯誤している。


 パソコンを使うときに気になったフォルダがあった。それはデスクトップ上に配置されている【日記】と書かれたフォルダ。


 開こうとしたのだが、パスワードがかけられていて開けなかった。仮に中身がもし日記だとすれば五之治優春という人間が少しはわかったのかもしれない。 


 たが見れないものは見れない。

 仮にもしエッチな画像だったときに複雑な気持ちになるのは俺の方だ。

 いまはネットサーフィンに勤しむとしよう。


 それから三日三晩、ネットの中の情報のウェーブを巧みに乗りこなした。

 まだまだ必要な情報は集め切れてはいないが、これで戸惑うことなく学校には行けるだろう。魔法や魔導書こそないがこのパソコンやスマホといった端末一つでありとあらゆる情報が手に入る。


 そんな進化した時代に乾杯だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る