空色
『人生とはまるでキャンパスである。色を足せば足すほど人生に彩りが生まれる。しかし、付け足した色に責任が持てなければ濁るだけだ』
今読んでいる本の一節のこの文章がが私は好きだ。1色だけでは面白みのない人間だろう。だけど、2色、3色と色が増えていけばそれだけ綺麗で面白みの溢れた絵に人生になるだろう。
じゃあ、生まれつき濁り混じった人間は何色を足せば彩に満ちた絵に人生になるのだろう。
湖畔に移る雲と空。どこか儚げでとても美しい。
「寒い…」
この寒さもまた乙なのだ。私は読んでいる本を置き立ち上がる。まだ半日しか経っていないが私は少し疲れていた。
朝6時半に起床。事前に身支度を済ませておいた中身を確認する。
寝袋、マッチ、化粧水、タッパーに入れて置いた具材、暇つぶし用の本。大まかな物は大丈夫だ。後はトイレにいけば全て問題ないだろう。
トイレに行く途中リビングで充電していたスマホに目をやる。よくやり取りをする用のメッセージツールからメールが1件届いていた。
『あんた、今日キャンプに行くんでしょ?あったくしていきなさいよ』
メッセージの相手は母親だった。いつも通りのお節介。そのお節介が私には安心する薬となる。昔からずっと病気を患っている私に投与され続ける暖かい薬だ。
『もーまんたい!』
デフォルメされた熊が手を振っているスタンプ付きでメッセージを返した。
荷物を車に詰め私はドアを閉める。シフトレバーをDの位置に入れゆっくりと進み出した。この車でキャンプ地に向かう時間も私は好きだ。今日のキャンプ地はここから3時間程。音楽がかかる小さな空間で次々と移り変わる景色。
街→山→街→山→街
一定のパターンがある景色の写り変わり方だが、退屈はしない。
今この場所で生きているのだと実感できる。
キャンプ地についた私は駐車場に車を停め、キャンプ場とコテージを一緒に経営しているオーナーの元まで行き、チェックインを済ませ私は湖が1番綺麗に見えるであろう場所まで移動した。
「よし。ここだろう」
1日の大半を過ごすであろう場所の目処を決め私は荷物を取りに戻る。
荷物を取りに戻る途中、
「お兄ちゃーん!こっち手伝ってー!」
「はいよー!」
キャンプ場には私以外にも3組ほどキャンパーが居て中睦まじそうにキャンプを立てている兄妹に目が止まった。妹の方は青い髪にジャージとネックウォーマーをつけているショートの女の子。歳は分からないが、幼い顔立ちからして中学生ぐらいだろうか。
兄の方は黒い厚めのズボンに白のニットセーターを履いていた。
そしてストートな髪型の髪色は白みがかった青色。
混色者だ。
混色者の兄と単色な妹。
冷たい態度を取る妹の姿が容易に想像できるがこの兄妹はそんなことはなく、むしろ凄く仲が良さそうに見えた。素敵な兄妹だな。
「ん?」
そんなことを思いながら観察をしていた私に気づき兄の方が声をかけてきた。
「おはようございます!今日からキャンプするんですか?」
「え?ああ、はい。1泊だけですが」
突然声をかけられ少したじろぐ。
「そうなんですね。僕達も今日から2泊キャンプするんですよ。冷えるのでお互い防寒対策して気をつけましょうね!」
「そ、そうですね。じゃあ私は荷物があるので、失礼します」
混色者には今まで何人か出会ったがここまでコミュニケーションを積極的にとってくるタイプは初めてだ。そして私が荷物を取りに戻ろうとすると再び話しかけられる。
「あれ?ちょっと待ってください」
「は、はい?」
立ち止まると顔を凝視された。いや、顔だけではない顔から足のつま先までマジマジと。
「あー!」
かと思えば大きな声をあげられさらに驚く。
「もしかして黒川さんじゃないですか?」
今日1番驚いたのは混色者のコミュニケーション能力の高さでも、全身を凝視されたことでも、大きな声をあげられたことではなく、初対面の人間に私の名前を呼ばれたことだった。
色付き 黒咲春雨 @Harusame2127
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