色付き
黒咲春雨
灰色
よく人生は灰色だ春色だなどと色で表すことが多々あると思う。それはその人の人生の幸福度、今の心境、今後の抱負など内面的な部分を表現している。
そんな中、あなたの人生は何色ですか?と問われた時、、
私は「灰色」だと答えるだろう
街路樹が立ち並ぶ街にシンシンと雪が降り積もっている。雪は白と言うよりも灰色と言う方が適切な色だろうか。私はそんな雪の降る季節が好きだった。
なんというのだろう。
私の人生をそのまま代わりに表現してくれているような、私を肯定してくれているような。
まあ、そんなことはないのだけれど。
そんなロマンチストのようなことを考えながら、通学路を歩いていると後ろから元気な声が私に投げかけられた。
「沙耶(さや)!おはよう!」
「おはよ」
この一見…いや、見た通りうるさいこいつは私の唯一腹を割って話せる友人であり幼馴染の遥夏(はるか)だ。
ジーパンに長袖のポロシャツ、その上からダッフルコートを着ていた。
「今日も寒いねー。結構厚着しちゃった!」
「そう?それぐらいで普通だと思うけど」
冷えるこの季節には妥当な服装だと思ったが、どうやらこの子にとっては少々厚着らしい。ここまで走ってきたからか、体が熱を持っているのだろう。
ふと自分の服を見てみるが同じくジーパンに白色のパーカーの上から長めのコート。そこにマフラーをしている。
やはりこのくらいで丁度いいだろう。
「そう言えば沙耶?今朝のニュース見た?」
今朝のニュースと聞いて思い当たる事は1つだけだった。
「混色者の自殺?」
「そう!それ!ビッグニュースだよ!」
混色者。
それは色の混じった人の事を指す。
この国、いやこの世界では内面が髪色として現れる。髪色が赤色なら情熱的な熱い人間。青色なら大人しめな静かな人間。
というふうに髪色はこの世界ではその人そのものを現す。普通は赤や青、黄色なんかの単色が多い。この理由として同じ色の人に惹かれるという人間の現象が働くからだ。
何故同じ色に惹かれるのかは定かではないが、恐らく気がとことん合うとかそういう理由なのだろう。
そんな中でも異なる色同士で子供が生まれてくる時に稀に産まれるのが混色の人間。
通称、混色者。
例えば赤色の人と白色の人の間には大体赤色か白色の子供が産まれてくる。
そしてごく稀に白みがかった赤色。つまり桜色の人間が産まれてくる。こういった色の混じった人間は心情が掴みづらく、恐らくこういう人なのだろうと接してみると真反対だったりすることもしばしば。
身も蓋もない言い方をすればめんどくさいのだ。
そういう人はなかなか社会に溶け込むことが出来ずに爪弾きにされることが多々ある。
いじめ、親からの虐待、差別。
そんなことが嫌なことに日常的に起こっている。
「こんなことさっさと無くなればいいのにね。」
「そうだね。でも簡単には無くならないよ」
簡単には無くならない。その言葉を重々しく遥夏に突き付ける。
「沙耶…私は沙耶のこと好きだよ」
少し暗くなっていただろうか。遥夏が気にかけてくれた。
「はいはい。分かってるよ、ありがとう」
私は灰色の髪を軽く撫でながら遥夏に軽く微笑んだ。
「沙耶!今日のお昼どうする!」
「落ち着け。食いしん坊め」
授業が終わると同時に遥夏が立ち上がりこちらにやって来た。
いつも通りの時間に学校につき、いつも通りの時間に授業が始まり、いつも通りの時間にお昼がやってきた。
「学食にしようかな。遥夏は?」
「私も学食!」
「決まり」
異議なしという感じで大きく頷く遥夏。その髪は艶のある黄色で金色のようにも見える。その色から分かるように活発で元気。底なしの明るさが遥夏の美徳だろう。
「遥夏、学食行くの?」
お昼の話をしていたら、私も遥夏もよく知っている人物が話しかける。
遥夏の友達の園田さんが話しかけてきた。
「うん!沙耶も一緒!」
「私もいい?」
「もちろん!」
「よっしゃ!」
ボーイッシュな彼女の髪は遥夏と同じ黄色だ。やはり同じ色どうし、波長が合うのだろう。今日の昼食は賑やかになりそうだ。
階段で1階まで降りて廊下を少し歩くこと数分。園田さんがとあることを聞いてきた。
「黒川さんさ、髪染めたりしないの?」
黒川沙耶。私の苗字だ。この手の質問は混色者ならば割と多いが私は決まってこう答えている。
「わざわざお金かけたくない」
「あー、一人暮らしだもんね」
そう。一人暮らし。それはいかに節約できるかという戦略ゲームのようなものだと勝手に私は思っている。
「それに…」
「それに?」
「いや、なんでもない」
髪色にいちいち振り回されたくない。
そう言いたかったが、それを言った時点で髪色を気にしているということの裏返しで口にはしなかった。
そうこう話しているうちに学食に到着した。
メニューはカツ丼、天丼、親子丼と今日は丼尽くしのようだ。
「どれにしようかな〜」
「私はカツ丼」
「私もー」
「え!決めるの早くない!」
目を輝かせている遥夏を横目に私はカツ丼を注文することにした。理由は単にカツが食べたい気分だったからである。
「すみません。カツ丼1つください」
「あいよ!」
食堂のおじさんが気持ちのいい声で返事をしてくれた。
続く園田さんも「あ、私も」と注文した。
厨房の奥手で軽くトッピングを済ませた別のおばさんがカツ丼を2つ持ってきてくれた。
「お待たせ!」
カツ丼を受け取ってしばらく待っていると天丼大盛りの遥夏がやってきた。
「あんたそんなに食うの?」
「うん!美味しいは正義だからね!」
どういう事なのかさっぱり分からないが私は遥夏の胃を心配しながらカツ丼をいただくことにした。いただきます。
「沙耶、今週の土日は何するの?」
ふと遥夏がそんなことを尋ねてきた。
「今週はキャンプに行ってくる」
「えー!こんな寒い時期に行くの!」
私は趣味であるキャンプに行くと言っただけなのに、遥夏は若干引き気味。考えるまでもないが何故だろうか。
寒がりの遥夏にとっては当然の反応であった。そう言えばこの間遥夏をキャンプに誘ってみたが、寒いのはNGだと言っていたような気がする。じゃあ夏は?と聞くとそれはそれで虫を見ただけで、悲鳴をあげる遥夏には絶望的に向いてないだろうということで結局一緒には行かなかった。
「へー黒川さんキャンプやるんだ」
「ちょっとね」
私は得意げにキャンプに付いて語ってみるが遥夏にな相変わらず苦い顔をされ、興味ぶかそうに園田さんが相槌を打ってくれた。
「あー、そう言えば混色者でキャンプ好きなのがいたな」
「へー、沙耶以外にそんな物好きいるんだね」
全キャンパーを敵に回すような言い方だが、それは一旦置いておこう。このキャンパス内で混色者は私を除いて1人しかいない。
「朝日空(あさひそら)君。この間アウトドアの雑誌見てたよ」
「へー」
同じ混色者でキャンプ好き。これだけで私は興味が湧いた。朝日空。青色の父親と白色の母親から産まれた水色の髪を持つ男子。恐らく控えめな性格なのだろう。
「黒川さん今度誘ってみれば?」
「そんな勇気ないよ」
興味はあるが丁重にお断りした。私は1人でやるキャンプが好きなのだ。誰にも邪魔されず自分だけの時間を使える。それにいきなり誘ってしまっては相手を驚かせてしまうだろうし、いきなり初対面なやつに話しかけられるのは私は苦手だ。
「もー、そうだよ!沙耶はもうちょっと積極的になった方がいいと思うよ。友達少ないんだし」
「余計なお世話どうも」
そんなことは私も分かってる。それでも人には自分のペースというものがあるのだ。それを急に乱して何かにチャレンジするというのはとても労力がいる。特に第1歩目。今回も私の重い腰はなかなか上がらないだろう。
最後のカツを平らげ私は園田さんと遥夏に別れを告げ帰路につき、明日のキャンプに備えた。
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